豊かな生活を手にする

「理財」について一家言を持つ趙建民さん

 趙建民さん(36歳)は、保険セールスマンで、夫人は不動産会社で働いている。夫婦の平均月収を合わせれば7〜8000元になり、2人で暮らすには十分な額である。

 すでに、家庭で必要な家具や家電はそろい、マイホームやマイカーの購入計画はまだない。趙さんは最近、忙しく働くほかに、時間と気力さえあれば、株式市場に注目し、より多くのお金を作りだそうとしている。一方で夫人は、インテリアデザインの勉強に全精力を傾け、さらなる事業的成功を追い求めている。

 1996年以前には、彼らの生活はこうではなかった。趙さんはプラスチック工場で働き、夫人は小学校の教師をしていた。2人合わせても月収は800元に満たなかった。趙さんの父親は早世し、母親も長く病床に伏していたため、人を雇って面倒を見てもらわざるを得ず、生活は楽ではなく、預金はなかった。

まだ未熟な中国の株式市場は、庶民に喜びと悩みをもたらす

 工場の仕事は少なかったため、趙さんは1996年、辞職して新しい道を歩み始めた。しかし商売を知らなかったため、しばらく仕事が見つからず、病気の母親の世話をする必要もあり、もともと少なかった資金を株式市場につぎ込んで、運試しをした。

 中国の株式市場は、当時産声を上げたばかり。趙さんもまったく知らない世界だった。しかし、勉強好きな性格を頼りに、株価の上げ下げの中で経験を積み、教訓を得て、数年かけてまとまったお金を手に入れ、生活は次第に改善された。

銀行は、各種の自動車ローンを売り出し、消費者から注目を浴びている

 その後、1999年、人から紹介され、保険セールスマンになった。株はリスクが大きいため、固定職を持ち、誠実にこなせば、安定的な収入につながるという考えからの選択だった。

 ここ数年、趙さんと同様の変化が、多くの人の生活に起きている。方法はまちまちだが、多くの人の収入状況が変わり、各家庭で貯蓄ができるようになったことで、家具や冷蔵庫、カラーテレビなどの家電の購入には、それほど困らないようになった。かつては想像すらできなかったが、自動車や住宅のような大物の購入も計画されるようになっている。

 「改革・開放」以前には、中国の庶民の懐には余裕がなかった。物価は高くなかったが、給料も少なく、全体的な生活レベルが低かったため、出費を細かく計算することで、ようやく生活を維持できた。

 私が小さい頃には、子どもが開けてはいけない引出しがあった。そこには封筒が数個あり、母の字で食費、石炭・水道・電気代、部屋代、その他などと書かれ、両親が月給を受け取った後、それぞれの封筒に入れて管理していた。計画性がなければ、支出が収入を上回ってしまい、預金はスズメの涙ほどだった。

廉価な住宅を購入するために、列を作る都市住民たち

 当時の多くの政府機関、工場、商店は、どこにも金融相互援助組織である互助会があった。月給が支給された際に、それぞれ5元、10元といった額を持ち寄り、互助会に積み立てていた。集まった資金は銀行に預け、出資者は、急にお金が必要になった際に、互助会から借りることができ、通常、年末までに返済すればよかった。

 互助会では、各人の預金を年末までにすべて本人に返還し、銀行の利息でタオルや石けんなどの小物を買って、会員に配ることもあった。互助会の良さは、預金の少ない人が、お金が必要な時に急場しのぎをできたこと。借りたお金は、数カ月に分けて給料から天引きされた。

 もし、個人的な定期預金がある場合、利息を減らしてまで解約する必要はなく、まずは互助会からお金を借り、定期が満期になってから返済することも可能だった。互助会は、若い労働者に積み立てをさせる作用を果たし、年末に返還される時には、自分のお金が返ってくるだけにも関わらず、多くの若者は、まるで突然得をしたように喜んだ。

 「改革・開放」後、人々の収入が次第に増え、各家庭の預金も需要を満たす程度にふくらみ、互助会は、徐々に人々の生活から影響力を失った。

「理財」なくして、儲けなし

切手への投資も人気

 趙さん夫婦はいま、毎年保険購入のために2万元近くをつぎ込むほか、多額の資金を株式に投資し、銀行にはほとんど貯蓄しない。趙さんは、「ふだんの小さな買い物なら、家にある現金で事足りる。大きな買い物の際は、株に投資したお金を使えばいい。この時代になって、すべて銀行に預けておくのは、時代遅れ」と話す。

 しかし、このような「理財」(財テク)の発想は、まだまだ前衛的で、多くの人が賛同しているわけではない。手持ちのお金を銀行に預け、非常時に備える人がまだまだ大多数を占める。しかも、銀行預金に利息がつくのは当たり前と考えながらも、投資して利ざやを稼ぐようなやり方は、自分とは関係のない世界で、いまだにかつてのブルジョアジーの手法だと思う庶民もいる。

新しい投資、「理財」のルートを提供した各種の配当付き保険

 中国人の貯蓄率は、1970年代以降、一貫して世界のトップレベルに位置する。『中国青年報』によると、2003年2月末、中国人の人民元及び外貨の貯蓄残高は10兆300億元に達し、初めて10兆元を突破した。10兆元は、中国の2002年の国内総生産(GDP)に相当する。この貯蓄について、多すぎると指摘する人もいれば、13億人以上の中国人ひとり頭で平均すれば、8000元前後に過ぎず、多くはないと言う人もいる。実際、北京のような都市では、8000元は、総合病院に入院する時に必要なデポジットにしかならない。

 現実問題として、いまの貯蓄は、子ども及び自身の教育、養老、医療などのために行われているケースが多いが、中には将来、マイカーやマイホームを手に入れるためのケースもある。同時に、中国の経済体制は改革と転換の時期にあり、多くの人が、今後の収入や支出の不確実性に直面し、より多くの予防的な貯蓄に迫られている。

洪水のようなコマーシャルにより、消費者は投資や「理財」に関する新しい理解をしている

 1996年以降、中国では、貯蓄利息を8回引き下げた。また、1999年11月には利息税を導入し、預金による銀行の利益は大幅に少なくなった。いまの貯蓄率も相変わらず高いが、収入と消費レベルの向上と、投資ルートの拡大は、中国人の消費方式と「理財」の観念を静かに変えている。趙さんの友人や親戚、同僚は、彼のようにすべてのお金を株につぎ込んではいないが、それでも多くの人が、家庭にある20〜30%のお金を投資している。趙さんに対して、投資法や作戦についてアドバイスを求める人も多い。

 最近、庶民が参与できる投資法はますます多くなっている。貯蓄や株券のほかにも、保険、国債、ファンド、金、不動産、骨董品、切手などが人々を引き付けている。「理財」、投資の意識は、徐々に浸透してきていて、ますます多くの人が、「『理財』なくして、儲けなし」という言葉を覚え、信じ始めている。

明日のお金で、今日の夢を叶える

デジタル化されたサービスが社区(コミュニティー)に入り込み、庶民に情報コンサルティング、各種料金の支払い、「理財」、ショッピングなどの分野で便宜を与えている

 勤勉節約は中国人の伝統である。先輩諸氏にとっては、毎月の収入を合理的に使い、ほんの少しの余裕があれば、家計のやりくりは成功だった。いまとなっては、この観念は、完全にくつがえりつつある。

 計靖さん(24歳)は、大学卒業後も北京に残り、録音エンジニアをしている。仕事をはじめてしばらくしてから、ローンを組んで乗用車ジェッタを買った。彼のいまの月収は4500元で、その他にも多額の副収入がある。

 しかし、毎月2000元のローンを返済し、1500元の部屋代を支払い、残りの1000元で生活しているため、ほとんど手元には残らない。それでも、「どうってことない。自由な生活をしたいからこそ、車を手に入れたんだから」と屈託がない。同じような生活をしている彼の友達も、少なくはない。

質屋業の再興は、消費者の投資や「理財」の選択肢を増やした

 庶民がローンを当たり前のこととして認識するようになったのは、最近のことだ。かつては、手持ちのお金は少なくとも、軽率にお金を借りることはなかった。伝統的な観念では、お金を借りることはメンツに関わることで、才能がなく、生活すらできないことを意味した。しかも、お金を借りるほど貧しい人にとって、返済はさらに難しいことでもあった。

 近年になって、人々の経済力が強くなり、「理財」の発想が変化するにしたがい、ローン消費が、次第に重要な「理財」法になった。ますます多くの人が、徐々に「明日のお金で、今日の夢を叶える」ことに賛同するようになっている。

中国マーケットの将来性に注目した外国銀行も、競って中国に進出してきている

 中国農業銀行北京宣武区支店の張君儒副支店長によると、現在、自動車、不動産、学校教育、住宅内装などの個人ローン業務の成長が著しく、中でも特に、自動車と不動産は飛びぬけている。自動車ローンを例にすると、同支店は2000年から業務を開始し、現在の契約額は1億1000万元、契約数は1500件に達した。今年4、5月だけで、4000万元増加している。

 今年の春節(旧正月)、上海の劉さん一家は、オーストラリア旅行の計画を立てた。旅行会社の規定では、20万元のデポジットが必要だが、商品住宅を買ったばかりだったため、とてもこれほどの大金は準備できなかった。銀行で短期ローンを組む時間もなく、友達に借りるのは恥ずかしくてできない。そこで友人から提案されて、質屋を利用することにし、不動産証書を担保に20万元を借りた。10日の旅行が終わってから、今度は2000元の手数料を払って、証書を取り戻すことができた。

 以前なら質屋は、どうしても生活できない場合に、モノをカネに替える応急の場所だった。映画に登場する質屋は、薄暗い店内、高いカウンター、表情のない番頭、質入れに来る貧しい人々を連想させるものだが、「理財」の観念がある一部の人は、融資の新方式とみなしている。上海質屋業界同業公会のデータによると、上海には40の質屋があり、2002年の取引額は、10億3400万元だった。

「理財」アドバイザーは、庶民の投資、「理財」の観念の変化にともなって生まれた新興職業

 庶民の投資や「理財」ブームが日増しに熱くなり、一部の銀行では、各種各様の個人向けの「理財」代理業務を始めている。しかし、返済遅延などの数多くの問題が存在し、ひどい場合には、悪質な返済逃れもある。そのため張副支店長は、「中国の個人信用システムはまだ確立されておらず、銀行が理想的な個人『理財』の代理を担うには、まだまだ困難がある」と語る。

 現在、上海、北京などの都市では、すでに、個人信用システムの確立作業が開始されている。同時に、世論はますます、契約を履行しない人に対する罰則問題について関心を寄せ始めている。この問題は、社会の絶え間ない発展とともに、次第に規範化されていくだろう。2003年12月号より

▽都市家庭の「理財」の観念

 零点指標ネット及び零点調査会社は2002年12月、北京、上海、広州、武漢の4都市の成人1059人に対して、都市家庭の「理財」観念調査を実施した。

 調査によると、「貯蓄志向」の人は全体の63.9%で、うち、36.4%の人が「定期的に貯蓄する」と答え、27.5%の人が「不定期に貯蓄する」と答えた。貯蓄を「理財」法の第一選択肢にしている人には、女性が多かった。

 その他、10%の人は「株券、基金」などに投資する「理財」法を取っていて、彼らは、伝統的な貯蓄は保守的過ぎると見ている。この意見を持つ人の60%は男性で、主に30〜40歳の人が占めている。(出所:新華ネット)

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