パンダやカワイルカの明日…


 

 中国の先哲は、「天人合一」「万物みな霊あり」と主張した。自然と人間とは一つにつながっており、自然界のすべてのものには霊が宿っているという意味である。

 中国人は「龍」を民族の象徴とし、一人一人、生まれた年の干支の動物をもっている。これは動物と自然環境が、中国文化に深く影響を及ぼしていることを示している。

 しかし残念なことに、早すぎる人口膨張と近代化にともなって、人類の衣食を満たし、経済の発展をはかるという命題が、他のすべてを圧倒してしまい、地球上の人類以外の生物を無視する結果となった。このため野生動物と彼らが棲む環境が、必然的に犠牲となったのである。

 今となっては、すでに遅きに失している。しかし、何らかの策を講じてこの危機を救わなければならない。

特集1

  動物保護の意識が変わった

       元中国野生動物保護協会会員 李玉銘

       恥ずかしかった思い出

 サンショウウオは国の二
 級保護動物である。傷つ
 いたサンショウウオが手
 当てを受けている

 10年前のことである。カナダの東海岸で、一軒のホテルに泊まった。そのとき、ホテルの女主人が私にこう言った。「聞くところでは、中国人は野生動物を食べるのが好きだそうですね。ここら辺りでアザラシを捕殺したあと、内臓を中国に運んで行くそうね。中国人の男は、アザラシの陰茎を好んで食べ、精力をつけるためだとか……」

 彼女の話を聞いて、私は少し腹が立って、何か言おうと思った。なぜなら彼女は「伝聞」でものを言っていて、中国に行ったこともなく、中国の男たちがアザラシの陰茎を好んで食べるという確たる資料もなく、面と向かって私を辱めようとしているように思ったからだ。

 しかし私は何も言わなかった。というのは、彼女にはそれほどの悪意はなく、ただそれが野蛮な行為だと指摘したに過ぎないと考えたからだった。確かに中国の男たちの中には、犬でも牛でもロバでも鹿でも、その陰茎を食べて精力をつけようとする者はいくらでもいるのだ。

 「中国人が野生動物を好んで食べる」というのも事実であり、伝統的な陋習である。大多数の人は、カワラバトやらノウサギやらキジやら、珍しいものを食べてみるだけだが、一部にはとくに野生動物を好んで食べるマニアもいる。例えば広東人はもともと蛇をよく食べるが、毒蛇だろうとなんだろうと、蛇という名がつけばみな食べてしまう。1999年に広州市で、毎日10トンの蛇が売られた、との記録がある。まったく驚くべきことである。

コブラは国の二級野
生保護動物で、雲南
省の亜熱帯の山林に
生息している

 さらにひどいことに、近年、個人の収入が増えるにともなって、少数ではあるがまるで「命知らず」といってもいいほどの大食漢が出現した。彼らは何でもみな食べてしまう。「空を飛び、地にはい、水にもぐるもの」であれば何でも御座れ、である。

 中国の商工関係部門が調べたところ、中国南部の闇市やレストランで、こうした客に出されたのは、サンショウウオ、センザンコウ、オオトカゲ、チュウカチョウザメなど、国家が保護するよう命じた一級、二級の希少種で、しかも絶滅の危機に瀕している動物であった。

 これはいっこうに不思議なことではない。野生動物を好んで食べる者の「理論」は、「食すなわち補」というものだ。つまり人がある動物を食べれば、その動物が持っている健康要素が、人の体内に補給されるというのである。この説には何ら科学的根拠がないにもかかわらず、愚かな食客たちはそうだと信じ込んでいる。

 「食べてしまう」問題以外にも、長期にわたる森林の乱伐や植生の破壊、環境を汚染する好き勝手な行為が広く行われてきた結果、これが動物たちの生息する地域を破壊し、彼らの生存に直接危害を加えただけでなく、人類自体をも傷つけてきたのである。このことは、環境保護の知識と自然の生態系の考え方が、少なからぬ中国の民衆に欠けていることを示している。

       人々の良識を喚起する

 1978年の中国の改革・開放以後、中国の人々の環境保護に関する理念や実践は、明らかに改善された。真っ先にこの問題の重要性を自覚し、行動を起こしたのは、知識人であった。その中には、教育者や科学者、技術者、作家、新聞記者、さらに多くの、この問題に敏感な学生たちが含まれていた。

 バードウィークに、
 小鳥の巣箱を掛ける
 北京の子供たち

 彼らは外国の民間環境保護組織の経験を参考にして、それを中国の実際状況に結びつけ、一方で人々に対して環境保護の知識を宣伝教育し、動物愛護と生態系の保護のさまざまな活動に人々を参加させた。もう一方で自ら行動を起こして、政府の関係部門に環境保護への投資を増やすよう促し、生態系を回復し、保護する歩みを加速するよう政府と協力した。多くのボランティアが全国各地の大小さまざまな民間の「緑の環境保護」組織に結集し、「全民族が自然保護意識を高める」全国的な教育活動を展開したのだった。

 その中で最大の組織は、成立してから20年になる全国的組織である中国動物保護協会である。この協会は国際自然保護連合(IUCN)に参加しているNGO(非政府組織)の正式メンバーで、一年に一度の「バードウィーク」や「野生動物保護月間」は、この協会が組織する代表的な活動である。また内容豊かな報告会やシンポジウム、絵画や作文のコンクール、展覧会、テレビ・映画会、さらにバードウォッチングなどを随時催して、人々を教育している。その影響は広くて大きい。

西安市の野生動物救護
センターに送られてき
た密猟されたハヤブサ
江蘇省塩城生物圏保護区
では、傷ついたタンチョ
ウヅルが救助された
西安のバ河湿地はかなり
破壊が進んだが、近年、
保護意識が高まり、次第
に回復してきた。写真は
帰ってたシラサギ

 野生動物を食べる陋習に関して協会は、マスメディアや専門家と協力して全国十六の省の21都市にある218のマーケットと1378のレストランで、詳しい調査を実施した。その結果、72%の人が、野生動物を食べるのは野蛮な行為だと考えていて、82%の人が、環境保護の観点から野生動物を食べるのを断固やめさせなければならないと主張していることがわかった。当時、こうした調査結果は、野生動物を好んで食べるマニアに大きな打撃を与えるとともに、環境保護のボランティアは自信を深めるという積極的な効果を生んだ。

 ここ数年来、民間団体である「自然の友」の活発な活動が、人々に大きな影響を与えている。1999年、英国のブレア首相が北京を訪問した時、「自然の友」の責任者で学者の梁従誡さんが、欧州市場でチベットレイヨウのカシミア製品の貿易をやめさせる問題についてブレア首相に手紙を書き、さらに面談して、チベットレイヨウが危機に瀕している現状を訴え、国際的な関心を引き起こした。

 中国の新疆ウイグル自治区、青海省、チベット自治区の境にあるホフシル一帯に生息しているチベットレイヨウは、国内でも国際的にも、狩猟や貿易が禁止されているものの一つだが、1990年ごろ、密猟者による大虐殺に遭い、中国の環境保護活動家や国際動物愛護基金(IFAW)中国支部の人たちの憤激を買った。

 梁さんは、海抜4000メートルのホフシルに自ら出向き、実情を見て、集めてきた金品を寄贈し、現地で密猟者と戦うボランティアに声援を送った。そのあと、「自然の友」と国内外の環境保護組織による共同の努力によって、動物保護に責任を持つ地方政府の林業局を促して、密猟者を一網打尽にする「一号行動」を発動させた。これによってチベットレイヨウが密猟に遭って殺されるという災難を食い止めたのである。こうした行動は、民間団体の名声を高めただけでなく、全国民の動物保護意識を大いにかき立てたのである。

        新たな動きが始まった

 中国の大多数の人々は理性もあり、知性に富んでいる。ひとたび人々が、なぜ動物保護や環境保護が必要なのか、という基本的な道理を悟れば、自覚的に旧来の陋習を変え、開明的な考えに向かって進むことができる。こうした新しい雰囲気がまさに醸成されつつある。

 北京はかつて「鳥なき都市」と呼ばれたことがある。鳥かごに飼われた小鳥を売買する市は大にぎわいで、北京に仮住まいしている外国人たちは、首を振ってため息をついたものだ。

ヨウスコウワニ中国野生
動物保護センター提供。

 いま、状況は変わった。鳥の市場は徹底的に取り締まられ、空を飛び、水辺で遊ぶ鳥たちはますます多くなった。市民の動物や鳥を愛護する事例は、新聞紙上に多く報じられている。

 数年前、一羽のガンが、北京の西北にある紫竹院公園で殺され、全市民あげての大批判が巻き起こった。その後、ガンがやってくると、付近の住民や学生たちが一生懸命保護し、餌や巣作り用の柴草をやるなどした。ある女子学生たちなどは、雛を育てるガンのために、夜中、寝ずの番をした。その心情には心打たれるものがある。

 山東省青島市ではかつて、野鳥を乱獲したことがあったが、近年、状況が大きく変わり、鳥類愛護の風潮が高まった。毎年、バードウォッチング週間が催されている。このため、鳥たちは次々と飛来し、報道によると、2001年のバードウォッチング週間に見られたカモメは十種以上に達した。これは空前のことである。

 蛇を好んで食べてきた広東省でも、野生の蛇の市場が閉鎖された。広東省人民代表大会は、野生動物を捕らえて食べることを厳禁する法律を制定した。これは有史以来、初めてのことである。これまで蛇を食べてきたマニアも、やむを得ず蛇を食べなくなった。どんな「悪習」でも変えることができるのである。

 最後に一つ、私は読者のみなさんに、一農民とワニの、涙が出るような物語をお話したい。

 18年前のある日、安徽省南陵県のある天然の池で、ヨウスコウワニが発見された。動物保護の責任を負っている幹部が農民たちに、ヨウスコウワニの価値を説明し、ワニを傷つけず、面倒を見るよう言い付けた。意外なことに、張金栄という一人の農民が、ボランティアで「ワニの保護員になる」と名乗りを上げた。そして彼は、絶対にワニを密猟させない、外部からの侵入を防ぐ、池が周囲の農地からの農薬や化学肥料によって汚染されないようにする、と保障したのである。

 その日から張さんは、池のほとりに草葺き小屋を建て、ここで寝起きを始めた。妻もこれに賛成し、助手をつとめた。ワニが池から遠く離れた所まで餌をとりに行くと危険な目に遭うかもしれないので、張夫婦は自分たちの蓄えをはたいて、ワニが喜んで食べる家禽や家畜の内臓、カラスガイやタウナギなどを買ってワニに与えた。蓄えが底をつくと、池のそばの農地を請負生産し、この農地からの収穫でワニの食糧をまかなった。

 こうして18年間、ボランティアをしてきたが、小さかったワニは大きくなり、その数も次第に増えた。そしてこのワニ群は、今のところ、地球上にわずかに残っている野生ヨウスコウワニの唯一の群体となったのである。それは誰も想像しなかったことである。

 1999年、世界自然保護基金(WWF)のワニの専門家であるジョン氏は、この夫婦に会って非常に感動した。なぜなら彼は、ヨウスコウワニの野生種の群体は、すでに絶滅したと思っていたからである。

 18年にわたる苦しい歳月を経て、張さんはもう67歳の老人になり、自分の孫が将来、ヨウスコウワニの専門家になってくれるよう期待している。張さんは孫にこういうのである。「おじいちゃんは学問がなかったから、ワニの世話をするだけだったが、お前は大きくなったら、ワニを永遠に、中国に、また地球上に残す方法を考えなければいけないよ」


特集2

  前途多難な中国の野生動物保護

    中国絶滅危惧種動植物輸出入管理弁公室  万自明

 中国は、広大な土地と複雑で変化に富んだ自然環境、それに豊富な野生動物の資源に恵まれている。統計によると、脊椎動物だけで中国には六千余種があり、地球上の7分の一前後を占めている。中でも、トキ、ジャイアントパンダ、キンシコウ、カナントラ、カイナンターミンジカ、ヨウスコウワニ、キタニジキジなど、世に知られた希少動物は、いま中国にしかいない。

 しかし残念なことは、現在、中国は、絶滅が危惧される野生動物が分布している大国でもある。『ワシントン条約(CITES)』(正式名は『絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約』)の付属書に登録されている中国の動物は四百余種もあり、全体の4分の1を占めている。中国人がこうした動物たちをいかに保護してこなかったかがわかる。幸いなことは、中国人が自らの過ちに気づき、今まさに、失われたものを挽回しようと努力を始めたことだ。

     こんな状態に陥ったのはなぜだ

シーサンパンナの熱
帯雨林に生息するア
ジアゾウの大家族
オオトカゲは国の一級保
護動物。これは雲南の熱
帯雨林の中で撮影された

 およそ国家というものは、工業化を実現する過程で必ず「発展」と「保護」との矛盾に遭遇する。これは普遍的な法則である。工場を建て、鉄道を敷き、道路を建設し、ダムや空港を造り、水上交通を発展させるなどの工事はどれも、実は野生動物の生存を脅かすものであり、彼らの生息地や生存空間を狭めてしまうものなのである。三峡ダムの建設も、その経済効果は大きいけれども、一つ確かなことは、李白が「両岸の猿声 啼いてつきざるに」と詠った当時の光景が失われてしまうことだ。

 長江では、輸送船があれほど頻繁に行き来し、エンジン音が天をも震わせているため、チュウカチョウザメやヨウスコウカワイルカは急速に減少している。専門家によると、ヨウスコウカワイルカの絶滅は必至だという。

 「工業化」はどの国もぶつかる「普遍的問題」だが、中国はその上に特有の「特殊問題」を抱えている。それは爆発的な人口の増加である。これが「発展」と「保護」との矛盾をさらに先鋭化させた。

 中国は本来、耕地が少なく、地球上の耕地面積の約七%を占めているに過ぎない。しかし、人口は1950年の5億から、20世紀末の13億近くまで増加した。この急速な人口増加のため、環境と資源に対する略奪式の破壊が起きたのは、避けられないことであった。

甘粛砂漠動物保護センターで飼育されている野生ウマ

 「天然の動植物園」と言われる雲南省シーサンパンナでは、人々が生きていくため、1950年以後、毎年25万ヘクタールずつの速さで開墾が進んできた。熱帯雨林は切り倒されて食糧となる農作物が植えられ、森林面積は当初の55%から現在の28%まで減少した。500種以上の動植物は絶滅し、珍しいマクジャクやアジアゾウも絶滅に近づいている。

 こうしたばかげた「森林伐採による開墾」と同様に、「湖を埋め立てて農地を造る」という「壮挙」も、多くの野生動物が好んで棲む湿地を農地に変えてしまう。これによって、動物たちがそこから追い払われてしまうばかりではなく、湿地が気候を調節し、水を溜めて洪水を防ぐという作用が失われ、その結果、自然の営みが失調してしまうのである。

2001年11月、福建省廈門
市の闇市で見つかり、大
自然に戻された鳥たち

 また、中国には「野生のものは誰のものでもなく、捕ったもののものだ」という民間の伝統的な観念がある。これは一見、ばかばかしい考えに見えるが、実際はそうではない。これには歴史的な原因があるのだ。

 もともと、野生動物の資源が豊かな所は、人口が少なく、高山地帯だったり、水が近くにない場所だったりで、経済や文化は相対的に遅れている。だから、そこの住民の先祖たちは、「山の者は山によって、水辺の者は漁によって」生活してきたのである。彼らにとってこの考えは、不変の真理であって、野生動物や自然環境を保護しなければならないという現代の考えは、何のことだかよくわからないのだ。これは、軽視できない国民的資質の問題である。

 さらに、中国の市場経済の急速な発展によって、一部の人々は欲に目がくらんでしまい、ここ数年来、絶滅が危惧される希少動物を含む野生動物の密猟、販売、密輸が、麻薬犯罪と同じように異常に猖獗し、国際化している。その原因は、市場があるからであり、暴利をむさぼることができるからである。数年前、チベットレイヨウが殺戮されたのは、欧米の市場で、チベットレイヨウのカシミアで織られたショール(約百50グラム)が3万ドルで売られたからだ。

 国の保護動物であるハヤブサも同様の目に遭った。中東の市場で、一羽のハヤブサが5万〜10万ドルで売られた。このために一部の人たちは、法律を無視して、破れかぶれの行動に出たのだ。

 以上述べてきた現象に止まらず、さらに農薬や化学肥料、産業廃棄物などによる深刻な汚染などもあり、一言では言い尽くせないが、こうしたすべての現象が、野生動物を逃れられない厄災の中に追い込んでしまったのである。その結果、野生動物の種群は減り、あるものは急激に絶滅の危機に瀕し、あるものは永遠に絶滅してしまった。

 こうした全体状況を考えると、中国の野生動物を保護する仕事は、実に「任重くして、道遠し」の感がある。

      野生動物をどうやって守るか

雲南西部の原始林
で撮影された眉が
白いテナガザル。
雲南南部の原始林
で撮影された頬の
白いテナガザル。

 1978年に中国が改革・開放の新たな時代に入ってから、環境保護、なかんずく野生動物の保護の面で政府は、とりあえず急場を救うやり方で失われたものを回復し、国民の中に「動物をかわいがり、環境を守る」新たな気風を醸成しようと努力してきた。これは最終的には、「人間と動物が調和しながら共存する家」を作り上げようというものである。

 まず、中国の希少動物を絶滅の危機から救うため、「人工繁殖・救援プロジェクト」を実施に移した。1979年から、北京、甘粛、安徽、新疆、黒竜江、四川などの省や直轄市、自治区に、あいついで11カ所の野生動物の救護と繁殖のためのセンターがつくられ、トキやジャイアントパンダ、ヨウスコウワニ、シフゾウ、野生ウマ、カイナンターミジカ、サイガ(レイヨウ)などの絶滅危惧種の動物に対して緊急の特別救援措置を実施したのである。

 こうした一連の措置は非常に時宜を得たもので、効果的であったことが事実で証明されている。今日、ヨウスコウワニの野外に住む種群はほとんど絶滅してしまったが、人工繁殖した種群はすでに一万匹以上に達している。カイナンターミジカも、わずか26頭にまで減ってしまっていたのが、現在、千頭に回復した。シフゾウや野生ウマも、繁殖の問題は解決されたばかりではなく、一部は自然に返して、再び野外の種群をつくる試みが始まっている。タンチョウヅル、カナントラ、キンシコウ、ジュケイなど二百余の珍しい種の人工繁殖も相次いで技術的に成功した。

キンシコウは四川、貴州、雲南に生息している。これは四川のキンシコウ(撮影・馮進)

 このほか、中国は外国の経験に学んで、自然保護区の範囲を拡大し、管理などの規則を定めた。現在、全国には各種の自然保護区が千二百余カ所あり、国土総面積の12・4%を占めている。これを世界的に見れば、保護区の広さでは米国に次いで第2位である。同時に、千余カ所の森林公園を次々に建設した。保護区と森林公園の中には、300余種の国の重点保護野生動物とその生息地、約二千万ヘクタールの自然林と湿地が含まれている。

 この自然保護区の中で、3カ所が世界自然遺産に登録され、15カ所が国連の「人と生物圏」計画のネットワークに組み入れられた。

 これと同時に、『野生動物保護法』を中核とする一連の法律・法規を制定し、野生動物の保護、繁殖や飼育、その開発利用、輸出入などに対して、かなり厳格な規定をつくった。保護すべき野生動物――その中には水生、陸生の希少種や絶滅危惧種、重要な科学研究の対象となるものや経済的価値がある野生動物が含まれ、それらは『国家重点保護野生動物リスト』など三種のリストに登録された。

 この数年、希少野生動物の密猟がきわめてひどくなったが、中国の『刑法』は、野生動植物資源を破壊する者やそうした行為を厳しく罰するよう定めている。およそ『国家重点保護野生動物リスト』や『ワシントン条約』の付属書に登録されている野生動物に対する違法な狩猟、殺害、運輸、販売、購入、密輸などは、一律に犯罪を構成し、刑事責任が追及される。

 例えば、ある中国公民が、陝西省洋県で一羽のトキを密猟し、国外へ密輸しようとしたケースは、10年以上の懲役と罰金の判決が下った。このように、関係する法体系も少しずつ出来上がり、野生動物の保護の事業は、次第に法制化される軌道に乗り始めた。

        さらに高みを目指す

 新世紀に入って、中国の、野生動物の保護を含めた環境保護事業は、「基本的国策」にまで高められ、引き続き推進されることになった。中国の指導者たちは何回も「生態環境を損なうという代価を払う建設は、絶対にやめさせる」と表明し、人々を勇気づかせた。

 野生動物の保護の面で政府は、全国的な範囲で、未来を見つめ、長期的な展望に立った、戦略的意義を持つ各項目の野生動物保護及び自然保護区の建設プロジェクトを策定し、実施しつつある。

 希少な絶滅危惧種の救助について、さらに一歩進めた具体的な目標を立てている。例えば、その動物の生息地を回復し、種群を拡大し、自然に戻す実験を推進し、科学研究を強化し、最終的にはこうした動物を「絶滅の危機から脱出させる」ことを目指している。

 すでにある11カ所の野生動物救護・繁殖センターのほか、2010年までに、新たに20カ所の繁殖基地を建設し、また、大規模な養殖場と放し飼いの基地500カ所を建設する。さらに、総合的な大型のサファリパークを19カ所、新設し、参観できるようにする。

 2010年までには、現在ある自然保護区の基礎の上に、面積をさらに50%増やし、自然保護区はネットワークで結ばれる。そうなれば、90%以上の野生動物とその生息地の生態系が保護されることになる。

 2010年には、中国は16カ所の「国際重要湿地」を新たに増やし、23カ所とする。

 中国政府は、野生動物保護への資金投入を大幅に増やし、今年初めて、国家財政計画の中で単独の支出項目とし、国民経済の年度計画に組み入れたのである。

 こう見てくると、中国の野生動物保護の前途はおそらく、希望に満ちたものであると言ってよいだろう。


特集3

    喜びも憂いも悲しみも
  絶滅危惧種の動物をどうするか


       北京シフゾウ生態実験センター 郭 耕
       中国科学院動物研究所 孟智斌

病気となったパンダが農
民に救助され、保護研究
センターに運び込まれた

 ここ20数年以来、絶滅の危機に瀕している希少野生動物を救助するため、中国の野生動物保護部門や科学研究技術員、及び多くの飼育員たちは、たいへん苦労してきた。

 彼らはときに喜び、ときに悲しむ。

 喜びは、自分たちの努力によって、多くの野生動物が絶滅の危機から救われ、或いは減少する傾向に歯止めがかけられたときにやってくる。だが、悲しみは、ある動物の絶滅する運命がすでに変えられない事態になったときにやってくる。

 しかし、多くの場合、彼らが感じるのは、不安や憂いである。環境の悪化や、野生動物が傷つけられる全体的な状況は、なお根本的に変わっていないし、さらに多く野生動物が、悲しい声をあげながら救いを求めている。そのうえ、野生動物を保護するための資金は、救助プロジェクトに実際に必要な額と比べると、まるで焼け石に水である。時には、保護事業に携わる彼ら自身もまた、野生動物と同じように悲しい声をあげて救いを求めているのである。

            トキ

 もともと「東方の仙鳥」と称えられたトキは、世界では「東方の真珠」と言われ、人々に愛されてきた。中国の国の一級保護動物であり、国際自然保護連合(IUCN)のレッドデータブックでは「絶滅危惧種」に記載されている。

 伝えられるところでは、20世紀の60年代以前には、日本や朝鮮、中国の東北部にトキの生存の形跡が残っていたが、その後、生息地が破壊されたり、環境が汚染されたり、人に捕殺されたりしたため、その姿がめったに見られなくなった。70年代以来、日本で5羽が、朝鮮半島の三八度線の非武装地帯で2羽が発見され、1981年に、中国の陝西省洋県で7羽発見されただけである。そのとき以来、トキの救助事業は、非常に重要なものになった。

陝西省洋県のトキ保護
観察所が撮影したトキ

 中日両国関係者の20年余りにわたる共同の努力によって、現在、トキの総数はすでに400羽近くまで回復した。そのうち、陝西省洋県の野生トキの種群は200羽を超えた。中国での人工繁殖も200羽近くに達し、日本でも18羽が人工飼育されている。「ついにトキは絶滅の危機を脱した!」と、喜んでよい。

 ここで私たちは、中日両国のトキ研究の専門家や飼育員、とくに陝西省洋県の農民たちに感謝をささげなければならない。トキを保護するため、彼らは自分の利益をかなり犠牲にしてきたからだ。農民たちは、化学肥料や農薬の使用をやめ、トキが好んで食べるカエルやカラスガイ、ドジョウを捕るのをやめ、トキが巣をつくるための林を丹精こめて守り、さらにトキを密猟しようとする犯罪者を追い払った。彼らこそ、トキが野外で種群として存在できるようにしたガードマンである。

 トキを保護するために実施される新しい計画では、中国政府はトキの生息地に2000ヘクタールの湿地を復活し、全国的範囲でトキが好む地区を選び出し、2、3カ所の繁殖センターをつくって、ほかの場所からトキを移して繁殖させる。またトキ保護区を新しく20万ヘクタール設けて、トキの野生の種群を保護し、復活させる事業をさらに新しい段階に推し進めようと決意している、といわれる。

        ジャイアントパンダ

 ジャイアントパンダは中国の国宝の一つである。ゆったりとして温和で無邪気な様子は、見る人の笑いを誘う。しかし、パンダが絶滅に瀕していることもまた、みなが心配している。1961年に世界自然保護基金が成立したとき、パンダは基金のシンボルマークとして、バッジや旗の図案に採用された。同時に、絶滅危惧種のトップにランクされた。

 パンダは百万年もの歴史を持つ種であり、生存環境の悪化のため、高山や密林の中に追いやられた。食物は、もともと肉食だったが、竹を食べるようになり、このため「竹林の隠者」という雅号を持っている。

 ここ百年ほどの間に、中国ではまず戦乱があり、次いで過度の「開発」がやって来た。森林は伐採され、環境は汚染された。そのうえ、残虐な密猟によって、パンダは急激に減ってしまい、生息地は中国の東部、中部の広い地域から、現在の四川、陜西、甘粛の三省が境を接している狭い一隅に狭められてしまった。現在パンダの野生種は約一千〜二千頭しかいない。

福建省廈門市で開催された国際都市環境保護の博覧会で、模型のヨウスコウカワイルカが人気を呼んだ

 パンダの繁殖能力は低く、おとなのパンダの雌は2年ごとに1回、子を産み、1回の出産で通常一頭の子を産む。二頭が生まれたときでも、一頭しか育たない。そのうえ環境が悪いこともあって、繁殖できるまで育つのは非常に少ない。

 20世紀の30年代に、中国ではパンダの人工飼育は始まった。1963年には、人工飼育されたパンダが子を産んだ。これまでに、全世界の動物園で飼育されてきたパンダは、百十頭余りの子も産んだが、その3分の2近くは半歳足らずで死亡している。

 20年前に、絶滅が危惧される希少の野生動物を救うプロジェクトが始まると、真っ先にパンダがその対象に選ばれた。そして四川省成都市と臥竜保護区に、人工繁殖センターは建設された。これによってパンダの保護事業は大きな進展を見せた。

 臥竜保護区だけでこれまでに、40頭余りが人工繁殖に成功している。全国で保護され、繁殖している群体と、各動物園で飼育されている個体のパンダの総数は、260頭である。

 パンダの寿命は、野生の場合、約15〜20年で、人工飼育のものは20〜30年である。近年、技術が進んだため、一部の動物園で飼育されているパンダの寿命はさらに長くなった。中国のパンダ研究の権威である北京大学生命科学院の潘文石教授による最新の研究報告では、パンダはまだ進化の最終段階にまでは達していないし、依然として一定の繁殖能力はある、という。

 パンダがはたして生息し続けられるかどうかのカギはどこにあるのか。それは彼らの自然生息地を守り、回復できるかどうか、また人間による危害から逃れることができるかどうかにかかっている。

四川省臥竜にあるジャ
イアントパンダの保護
研究センターで、パン
ダの身体検査が行われ
ている(撮影・馮進)

 こうした情況に直面して、政府は四川、陝西、甘粛の三省にある34県から、パンダの生息できる保護区を2万平方キロ捻出し、さらに野生種の種群の近親交配を防ぐため、パンダが保護区間を移動できるよう回廊を作りつつある。また、パンダの生活を脅かす保護区内の住民居住区や政府機構の建物などに対しては、政府は、有償で引越しさせる政策を実施する予定である。それができれば、九五%以上のパンダの生息地が、もっと良い状態になるはずだ。

       ヨウスコウカワイルカ

 パンダよりもっと前から地球上に生存しているのは、ヨウスコウカワイルカである。これは長江水域だけに生息している淡水のクジラで、中国の国の一級保護動物である。体は紡錘形をしていて、皮膚はツルツルと滑らかであり、剣のような長い吻(口)をもち、人々に愛されている。

 中国・清代の名著である『聊斎志異』のなかに、ヨウスコウカワイルカが美女となって人に恋をする物語がある。また、1960年代には、中国郵政部門がヨウスコウカワイルカの切手を発行した。しかし悲しいことに、現在、ヨウスコウカワイルカは20頭足らずとなってしまった。将来私たちの見守る中で、人類と永別してしまうだろう。

1988年夏、新疆ウイグル自治区のアルトゥン山の自然保護区で撮影されたチベットレイヨウ(撮影・馮剛)

 ヨウスコウカワイルカの視聴力はかなり退化してしまっているが、ソナーの働きをする知覚系統は異常に発達していて、水中で十数キロも離れている二頭のイルカが、互いに交信し、連絡をとることができる。それは、最も先進的な現代のソナー技術よりもさらに発達している。

 ヨウスコウカワイルカを救うため、中国の水生の野生動物保護に当たっている漁業局は懸命に努力し、保護区と人工飼育場を開設した。1980年、特別に研究用のイルカを一頭捕獲し、「淇淇」と名付けた。その後、淇淇とペアにするため、もう2頭を捕獲したが、あいついで死んでしまった。今日まで淇淇は、20年余りも、男やもめの暮らしを余儀なくさせられている。

 1993年、漁業局は、ヨウスコウカワイルカが百頭以下に減少してしまったと発表し、全世界を震撼させた。このニュースを聞いて人々はみな、希少種がもう一つ、まさに消えようとしていると予感したからである。果たせるかな、それからわずか4年しか経たないのに、長江で網を引き、ヨウスコウカワイルカを探した結果、生息が確認できたのは21頭しかいなかった。

 多くの人々に「ヨウスコウカワイルカの運命をどうして変える方法がないのか」と尋ねられる。だが、やはりダメのようだ。たとえヨウスコウカワイルカが、長江のひどく汚染された水質に耐えられたとしても、長江を上り下りする汽船のスクリューが、まるで雨あられと飛んでくる弾丸のようにヨウスコウカワイルカの体を傷つけ、完全に死滅させてしまうに違いないのだ。

         チベットレイヨウ

 チベットレイヨウは、都会の喧噪を離れた平均海抜4000メートル以上の、青海・チベット高原のホフシル地区に隠れるように棲んでいる。そこは荒涼として人煙はなく、彼らが腹を満たすのは、背の低いまばらな草かコケ類しかない。

 チベットレイヨウは生まれつき臆病な動物で、自分からは相手を攻撃することはなく、いつも時速百キロの速さで相手の攻撃から逃げるだけだ。その体形はすらりとして美しい。雄の角は、まるで怪物のように見える。

 チベットレイヨウには、われわれも学ぶべき団体精神がある。彼らはいつも集団で行動する。強い雄は、周囲を警戒し、逃げるときにはしんがりをつとめる。狩猟者にねらわれ、危険が迫ると、雌はわざわざ銃口に向けて走り、狩猟者の注意を引いて、子レイヨウが逃げる時間を稼ぐ。もし洪水にあえば、年をとって身体の自由が利かなくなったレイヨウが、進んで自分の身体で橋を作り、群れの仲間にその橋を渡らせ、被害が群れ全体に及ぶのを防ぐのだ。こうして仲間や種を守り、生き続けていくためには、自分の命をも犠牲にするのである。

 このように美しく、利口なチベットレイヨウのほかに、この高原には、野生ロバ、ユキヒョウ、ヒグマ、オオヤマネコ、野生ヤクなど20数種の珍しい動物が生息している。そして彼らは、地球上の特別な高原生物の連鎖の一環をなしている。しかし、人類はまだ、この生物連鎖について十分にはわかっていない。

捕まったチベットレイヨウの密猟者たちと、彼らの銃

 1980年代に、西洋の貴婦人たちがチベットレイヨウのカシミアで作られたショールを珍重してから、ホフシルでチベットレイヨウを密猟する銃声がやんだことがない。一枚のショールを作るのに、チベットレイヨウ3頭の腹の毛が必要だという。通常、長さは1〜3メートル、幅は1〜1・5メートルで、指輪の中を通せるほど滑らかなので、「指輪のショール」とも呼ばれている。

 チベットレイヨウは20年前には数十万頭いたのに、今は7万頭あまりまで減ってしまった。だいたい毎年、2万頭の速さで減少しており、絶滅へ向かっている。

 1999年、動物保護を主管する国家林業局の応援を得て、チベットレイヨウを密猟し、その製品を売買する国際的犯罪集団を包囲殱滅する作戦が発動され、彼らに大きな打撃を与えた。同時に世界自然保護基金は、政府の関係部門と協力し、中国、インド、ネパール、イギリス、フランス、イタリアなど各国の代表が参加する会議を青海省西寧市で開催し、チベットレイヨウの保護と貿易規制に関する『西寧宣言』を発表した。その後、チベットレイヨウの密猟やその製品の販売はかなりおさまってきた。

 中国政府はいま、ホフシルを含む青海・チベット高原自然保護区の新たな計画を実施に移しつつある。これによってチベットレイヨウの命が救われるよう願うばかりだ。(写真提供・楊傑 胡亜華)(2002年2月号より)