●特集

みんなで「スピーク イングリッシュ」
高まる英語学習ブーム

文・張春侠 写真・楊振生


 
北京故宮の太廟広場は、数千人の人々が李陽氏といっしょに「クレージー」となる(撮影・曾翼)

 中国が米国と国交を結び、中国の改革・開放政策がますます進展するにつれて、20世紀の70年代から、人々の生活の中に占める英語の地位がますます重要になり始めた。入試、留学、就職、昇進などの必要から、80年代と90年代に、程度の違いこそあれ中国では、英語ブームが巻き起こったことがある。

 21世紀に入って、中国はオリンピックの招致に成功し、世界貿易機関(WTO)に加盟し、サッカーのワールド・カップ(W杯)に中国チームが初めて出場し、上海ではアジア太平洋経済協力会議(APEC)が開催された。こうしたことによって英語は、従来のように単に学生の間だけのものから、社会の各階層に広がり、またどの年齢層でも職業でも、広く学ばれるようになった。いま全中国が、英語の学習について、異常なほどの熱狂の中にある。

 

 

         特集(1)

英語を学ばざれば……

 2001年7月、国際オリンピック委員会は、2008年のオリンピックを開催する権利を北京に授けた。

新東方学校の千人収容の教室は、空席がないほどだ(新東方学校提供)

 有力な候補だったパリがなぜ敗れたのか、その原因を分析する中で、フランスがオリンピック委員会に送付した資料がみなフランス語で書かれていて、英語のものはなかったということを指摘した人がいる。オリンピック委員会はフランス語に英語と同等の地位を与えているが、英語をしゃべる代表たちにとってはやはり不便だったことは疑いない。

 もちろん、パリ落選の原因をすべて、英語の資料を付けなかったせいにするのは、やはり一面的だというそしりを免れないだろう。しかし、英語が国際的に重要な地位を占めていることは、疑いのない事実である。しかも現在、英語は、中国人の生活や仕事の中で、ますます重要な地位を占め始めている。中国人の中に出現した英語ブームも、その証拠の一つである。

外国へ行く夢を叶える

秀水街の店の主人は、流暢な英語で外国のお客さんと値段の交渉をしている

 近年、冬休みや夏休みになると、北京市の西部にある中関村一帯の主要な道路は、いつも交通が大渋滞する。その原因は、中国最大の外国留学のための語学教育の場である「新東方学校」がここにあるからだ。毎年、ここに来て語学の学習に参加する学生は、延べ5万人に達する。彼らは蜂のように群がってくるので、この大渋滞が起こり、人々はこれを
「新東方渋滞」と呼ぶ。

 新東方学校は、1993年に開校した。校長の兪敏洪氏は変わった人物である。彼は大学入試を3回受け、やっと北京大学に合格した。さらに留学しようと外国の大学と3年間連絡をとったが、留学できなかった。

お医者さんや看護婦さんも、時間外に英語を学ぶ

 だが、この弱々しき学生が、数千、数万の学生たちの出国の夢を叶えてやろうと決心したのだ。彼は『GRE(修士の入試)語彙精選』という本を出版したが、この本は学生たちから宝物のように扱われて、GREを受ける学生の必携書となっている。また「一回の授業のうちに3回、学生を大笑いさせる」という彼の授業理念は、学生たちの英語に対する興味を引き起こした。

 さらに重要なのは、この学校がまだ10年にもならないのに、トーフル(米国・カナダに留学する外国人の英語学力テスト)の成績で、677点満点のところ2万人以上が610点以上だった。GREでも、2400点満点で1万人以上が2000点を超えた。また米国やカナダの大学に留学した人は10万人以上に達する。

 だから、兪校長が米国やカナダに出かけたときは、旅の始まりからまず飛行機の中で、さらに街角でも、レストランでも、スーパーマーケットでも、面識のあるなしにかかわらず、中国人留学生から挨拶され、「兪先生」と呼びかけられるという。正確な統計の数字ではないが、北米のどの有名な大学でも、中国人留学生の少なくとも半数以上は、新東方学校から来た学生だということだ。

夏と冬の休暇のたびに、新東方学校の申し込み受け付けは、学生でいっぱいになる(新東方学校提供)

 統計では、2001年だけで、全国にある新東方学校の各種の英語学習班に参加した学生は、延べ25万人に達し、名実ともに英語学習の超特大の学校となっている。

 英語ブームは、改革・開放政策が始まるとともに起こり始めた。中国が長年制限してきた外国留学政策は緩み始め、1978年に、「文化大革命」が終わってから最初の公費派遣留学生が出国した。81年1月14日には、国務院(政府)が自費による外国留学に関する暫定規定を公布したため、多くの青少年たちの間で、英語学習の一大ブームが引き起こされた。

 20数年来、中国人の出国熱は絶えず高まっている。留学生の人数も、幾何級数的に伸びている。経済が発達した国々の進んだ科学技術研究の条件や、比較的整った社会的な奨学システム、さらに文化・芸術などの環境は、多くの中国人学生にはきわめて大きな魅力だ。当然のことながら、留学して「外国の学位や証明書」を持って帰ってきた人たちは、ある程度、良い職や高い給料、高い社会的地位を得ることができる。

 若い女性の趙さんは、かなり名の売れた出版物の編集責任者を勤めていた。人柄もよく、愛嬌のある顔立ちで、やる気十分だった。その彼女が、人もうらやむ職場の地位とかなり良い生活にもかかわらず、外国に行って英語を勉強する準備を始めた。外国で学んだ部下たちがどんどん多くなり、彼女の前途に対する重大な脅威となっているように彼女には見えたのだ。

 20世紀末から21世紀にかけて、全世界で人材獲得競争が激化し、それによって欧州各国はこぞって人材を獲得する計画を制定した。それにより、これまで英語を学んで米国やカナダへの留学を目指す数千、数万の中国人学生の潮流が、欧州各国へと広がったのである。

 「アイエルツ」(国際英語力測定システムの略。中国では「雅思」という)が、ますます多くの国々で認可され、さらに多くの学生がこの試験を受けようとしている。そこで、新東方学校では「雅思英語学習班」を設けた。この学習班への申し込み費は1000元から3800元もするのに、受け付け初日に申し込んだ人は、3000人に達した。中には、遠くから飛行機で北京にやってきた人もいた。

 崔さんは、中国の南端、海南省のある広告会社のデザイナーである。彼はこう言う。「去年、最初に北京まで申し込みに来たけれど、どのクラスももう満員で、無駄足だった。2回目は受け付けの半月前に来たのだけれど、それでもだめだった。今年は3回目。会話の学習班に申し込んだ。今後、チャンスがあれば外国に行き、勉強を続けたいと思っています」

 筆者の同僚の娘、雪梅さんは、大学を卒業してから銀行に勤めていた。しかし彼女は「外国に出て、学位や証明書を取って来なければならない」と言いだした。そして新東方学校の学習班の強化訓練を受けてから「アイエルツ」の試験に通り、いまや欧州のある大学でインフォメーション・マネージメントを専攻している。

 1978年からこれまでに、中国から公費派遣または自費、あるいはその他の方法で留学した学生の総数は、37万人に達している、という統計がある。深ロレ大学が最近行った調査によると、80・2%の親が、子どもの海外留学を希望し、中でも中高校生を持つ親は、86・8%にも達していることが明らかとなった。これから見ると、今後、さらに多くの人たちが英語教室に押しかけ、英語熱は引き続き上昇しこそすれ、鎮静化することはない、といえるだろう。

英語は就職の「パスポート」

 近年、対外開放が進み、さまざまな制度が国際的な規格に合うようになり、また人事制度が改革されるのにともなって、中国人は英語を学ばなければならなくなった。例えば――

 毎年冬になって、卒業をまじかに控えた大学生たちがもし政府機関の職に就こうと思うなら、国家公務員試験を受けなければならないし、その試験にはかなり難しい英語の筆記と面接のテストがある。

書店の英語コーナーはいつも人気がある

 新卒ばかりでなく、仕事に就いてから数年、あるいは十数年にもなる大学卒業生でさえ、人もうらやむ高給や高い地位を次々に棄て、MBAやITなどのいま人気の科目を専攻する大学院修士の試験を受けるのだが、英語の試験が彼らにとって最大の難関になっている。

 最近はタクシーの運転手でさえ、運転技術の試験の外に、さらに英語の試験に通らなければ運転免許証をもらえない。

 こうした現象はすべて、英語が当世の就職の「パスポート」になっていることを示している。いろいろな業種の昇格試験でも、厳しい英語のテストに合格しなければならない。昇格すれば給料が高くなり、各種の待遇も高まる。

 人材獲得競争が激しくなったので、各業種の職員たちは余暇を利用して、自分自身を「充電」するため、英語の学習校に押しかける。

 24歳になる李さんは、比較的待遇の良い航空関係で仕事をしている。だが、仕事上の激しい競争に勝ち抜き、さらにより良い生活を得るため、彼は去年4月、家から一番近いある英語学習校を選んで、英会話にみがきをかけるようになった。学費は2年で5000元もする。この一年以上、彼は毎週3回、夜に空港から帰る通勤専用バスを降りるとまっすぐ英語の教室に行き、3時間ぶっ続けで勉強し、その後、15分歩いて家に帰るのだ。

 北京のあるヘッド・ハンティングの会社が、人を雇用している50の会社や団体を調査し、統計をとった結果、以下のようなことがわかった。

英語学習斑はどれも同じようなたたずまいだ

 同一の業種で同一の地位にある者の場合、英語がしゃべれる職員の月給は通常、しゃべれない職員よりも20〜40%も高い。IT産業を例にとれば、コンピューター・ソフトの技術開発員の月給は一般に5000元前後だが、外資系企業に勤めている場合は平均1万元前後となる。彼らを雇う際、外資系企業側は一つだけ条件をつける。それは「英語のヒアリング、スピーキング、リーディング、ライティングに堪能であること」だ。

 外国人観光客が集まる北京の秀水街や三里屯では、英語がわからない商売人は、多くの商売のチャンスを逸してしまう。だから店の主人や店員たちはみな、「ハウマッチ」だの「チープ」「ダラー」などの英語の常用語を、まるで北京語のように流暢に話すのである。

盛んになる英語産業

 こうした背景の下で、各種各様の英語学習班ができ、多くの人々がまるで蜂のように群がり集まる。主として大学生を対象にして国が制定した英語の等級試験の中で、かなり水準の高い4〜6級の試験でさえ、多くの社会人でいっぱいになる。

北京の中関村にある新東方の総本部。毎年、少なくとも5万人の学生が外国留学のための学習に参加している(新東方学校提供)

 統計では、現在、中国には、正規で大型の英語学習機構はすでに3000を超えている。株式市場は全般に弱含みだが、英語教育や図書、録音やビデオなどの出版と関係のある英語産業は、急速に値を上げている。2001年の英語産業の年間生産額は百億元を突破した。米国のシリコンバレーの有名な華人のベンチャー投資家である沙正治氏は、中国の英語産業の将来は見通しが明るいと予見しており、中国で世界最大の双方向の英語教育を行う教育集団を作ろうとしている。

 しかし、数千、数万に上る中国の英語のリーダーや教材の中には、粗製濫造のものや子どもを悪くするものも少数ある。だから専門家たちは、英語ブームが絶えず上昇している今日、自分に適した教材と学習校をしっかりと選ばなければならず、「腹が減っているから何でも食べたいと、誤ったわき道に踏み込んではならない」と警告している。 (2002年8月号より)