【画家たちの20 世紀(15)】



時代に流されない視点 朱乃正

                       文・魯忠民


『金色の季節』
168×160センチ 油彩 1963年
中国美術館蔵
写真提供・中国油画学会

 1950年代以降、中国美術界では非常に大きな概念的転換があり、長く主流だった「西洋画の手法」に代わり、「油絵の手法」が歓迎されるようになった。そして結果的に、油絵の技法や材料的特色が突出し、一般的な中国大陸の芸術的特殊性とは対極にあった西洋画の文化的背景や芸術観念が弱まった。

 このような芸術観念の変化により、中国油絵への西洋的な影響が弱まり、また、油絵的な手法の中国美術界全体への影響力が徐々に強まった。文芸創作が生活と深く結びつき、「労働者、農民、兵士に奉仕する」という指導思想の下、50〜60年代の油絵画家の芸術活動は、人々が油絵を感情的に受け入れる土壌をつくり、中国油絵が大きく発展するための大衆レベルでの基礎を築いた。そして、長年画展のたびに主役になっていた風景画や裸体画はほとんど姿を消し、肖像画のモデルも身近な普通の人から国の指導者や労農兵の英雄、模範人物などに変わっていった。

 60年代には、新中国が育てた若い画家やソ連から招いた油絵専門家による油絵訓練班の学生が、画壇で相次いで名をあげた。彼らの作品は、テーマが壮大で、精神を高揚させ、格調高いものが多かった。今回紹介した朱乃正も、まさにそんな画家の一人だ。

 朱乃正は、1935年浙江省の海鹽県に生まれた。59年、中央美術学院油絵学部を卒業したが、学生時代に右派のレッテルを貼られ、卒業後は北京から遠く離れた青海省文化芸術界聯合会に配属された。80年、中央美術学院に呼び戻されて教鞭をとるようになり、いまは油絵学部の教授を務める。一時期は副院長も担当した。

 21年間に及ぶ都市の喧騒から離れた青海チベット高原での生活は、彼に、自然美に対する他の人にはないすぐれた感覚を与えた。彼はどこにでもある高原風情の中に美を見つけ、そこから美を掘り出し、中国と西洋の芸術のよさを融合させ、すばらしい作品に仕上げてしまう。そして、彼独特の中国的な写実油絵風格を形作った。彼は、人間の精神的本質を芸術の核として描き出し、どの作品にも深い精神的含みのようなものを表現している。

 『金色の季節』は、青海省で生活していた頃の代表作だ。力強く堂々とした構図、低位置から仰ぎ見る視線、農作業をする健康的な女性の身体を通して、青海チベット高原の勇壮で美しい情景を表現している。称賛に値するのは、当時すでに画壇を席巻しはじめていた英雄的人物を強調する極左的画風におちいらず、素朴な筆致で二人の普通のチベット族女性を描いていることだ。この絵には、当時の絵によく見られる作り笑いやわざとらしさは存在しない。彼は日常生活を出発点に、日の光を背に受けて陰になった顔を通して、高原の陽光の強さを描き出した。また、平凡でありながら誠実な労働風景を通して、チベット族の厳しい生活と収穫の喜びを際立たせた。

 最近の朱乃正は、色使いのはっきりした詩趣に富んだ風景画をたくさん描いている。また多芸な彼は、書道と水墨画にも秀でている。(2002年3月号より)