【上海スクランブル】

漢方デザートで美しく
                                    須藤みか
                 
「海老亀」店内
ナツメのデザート
亀ゼリー
ショウガミルク

 さすがは、医食同源の中国。陰暦の11月を迎えたあたりから、食物や生薬などで身体にしっかりと養分を補給して、翌年の春に病気になることを防ぐ「冬季進補」いう習慣がある。この時季、街の食品店や薬局には、冬季進補をうたう宣伝コピーが踊るようになる。

 一昨年の冬、私も上海の友人から、「女性はね、毎日ナツメを食べたほうがいいのよ。私も食べることにしたから、あなたにも他の生薬と合わせて一通り揃えてあげたわ」と、大きな紙袋をどーんと手渡された。

 外資系企業に勤めるバリバリキャリアの上海美人からそう言われると、途端にきれいになれそうな気がしてくるから、不思議。

 そう言えば、四十半ばなのにどう見ても三十代前半という別の友人がいる。

 「特別な美容法なんて、ないのよ」。そう言う彼女に根掘り葉掘り聞いてみると、なるほど、お茶うけに食べていたのがナツメだった。

 よし、これからはナツメ! そう思ってはみても、毎日では飽きてくる。ちょっと目先を変えて食べられないかなと思っていたところに出合ったのが、「銀耳紅棗氷」。これはかき氷なのだが、そこは中国、白キクラゲとナツメの甘露煮が添えられる。

 落葉高木ナツメの果実は、鎮静、強壮、血行促進などの作用がある漢方薬剤の定番。貧血や冷え症、生理不順にも良いとされている。また、「毎日ナツメを食べれば、老い知らず」という言葉もあるくらいで、中国では古くから美容食とされてきた。

 白キクラゲも、ナツメと並ぶ中国伝統の美容食のひとつ。というわけで、美容食を二つ一緒にいただけるスペシャルデザートなのである。

 このデザートが食べられるレストラン「鹿港小鎮」は昨年四月、外国人の多く住む古北地区にオープンした。

 ウェイトレスさんによれば、小豆ミルクやタピオカ、プリンなどがかかった氷も人気があり、かき氷目当てで来る客は季節を問わない。確かに、冬だというのに漢方風かき氷を頬張る客は引きも切らない。

    舌にもカラダにもおいしいデザート

 漢方デザートの極めつきと言えば、「亀苓膏(亀ゼリー)」。点心の店でも食べられるが、どうせなら専門店に足を運びたい。

 淮海路から雁蕩路を南に少し入った「海老亀」は、上海で唯一の漢方デザート専門店で、大きな亀が描かれたウィンドーには、「解毒効果あり」など効用の書かれたメニューが並ぶ。

 亀ゼリーは、亀のお腹の軟骨状になった皮を干した亀板という漢方薬を使ったもので、体内浄化作用があり、吹き出物や便秘などに効果がある。

 初めての方は、亀ゼリーという名にギョッとするようだが、漢方特有の苦みもシロップで緩和されてコーヒーゼリーの感覚でいただける。

 写真のゼリーの中央にあるのは燕の巣で、長寿をもたらす妙薬と言われる高級滋養品だ。美容的にも、みずみずしいお肌を保つ効果がある。

 そのほか、この専門店「海老亀」の人気メニュー「姜撞トフ(ショウガミルク)」も、寒い冬にはおすすめだ。こちらは温かいデザートで甘辛く、プルプルとしていて食感は豆腐のよう。ショウガには肝臓の機能を高め、血液や「気」の循環をスムースにさせる効能もある。また、風邪にもよく効くというだけあって、体をとても暖めてくれる一品である。

 思いがけない食材の組み合わせにワクワクし、効用をお店の人から聞きながらいただく漢方デザートは、舌だけでなくカラダも満足するオイシイ食べ物なのだ。(2002年2月号より)

[筆者略歴] 日本での出版社勤務後、留学。北京週報社・日本人文教専家を経て、現在、復旦大学大学院生