神宿るおにやらいの面具

                           文 写真・魯忠民


面具を彫刻する舒長円さん


 中国の多くの地方では、おにやらいの習俗が今も伝えられている。その大きな特徴が、面具をかぶって踊ること。そのため、面具を彫刻する専門の職人たちも生まれたのである。

 彫刻といっても、おにやらいの面具と一般的なものとでは、大きく異なる。おにやらいの面具は邪気を払い、福を呼ぶ神像であり、その起源は大昔にさかのぼる。おにやらいは数千年の歴史の中で、格調高い儀式となった。面具の制作はおにやらいの儀式と密接に結びつき、それ自身の伝統儀式が不可欠となって、今に継承されている。それにより神像の彫刻も神秘的な色彩を帯びたのである。

 面具づくりに適した木材は、職人たちに「神の木」と言われる丁子(フトモモ科の常緑高木、クローブ)だ。木肌が白く、軽くて裂けにくいため、彫刻にはふさわしい材料である。ほかにポプラや柳も使われているが、丁子よりは見劣りがするという。

 伐採の段階になると、職人たちは特別の儀式を行っている。まず、伐採用にと目星をつけた大木の前にひれ伏して拝む。次に、経文または祝詞をあげる。最後に木を伐採して整える。

 彫刻の前にも、決まった儀式がある。まず、神棚の前にノミなどの道具を捧げ、線香を供え、面具づくりの祝詞をあげる。次に、ニワトリの血を供えて祭る。その後ようやく木材にノミを入れるのである。

 彫刻は、木材を荒削りし、大方の形を定めてから細工を加えるというプロセスを経て、半月ほどで出来上がる。その後、表面に白く下塗りし、顔を描いてから彩色やデザインを施す。完全に乾燥させたら、表面に漆を上塗りし、口ひげやあごひげを取り付けたら、ようやく面具の完成である。

 続いて、開眼供養の儀式が行われる。木彫りの面具を「神化」させ、おにやらいの行事に使うためである。開眼供養の儀式はじつに複雑で、仏像のそれと同じだ。道士(道教を修めた人)が祭主となり、決められた祝詞をあげたり、縁起のいい言葉を唱えたりしながら、ニワトリの血を一つひとつの面具の額につけるのである。

 面具は神のシンボルとされたので、勝手に積み上げたり、手に取ったりしてはならない。毎年、春節(旧正月)行事の前になると、面具箱を開ける儀式があるし、終了後にも箱入れの儀式がある。面具箱は寺院に密封保存され、通常は箱を開くことも許されない。数年ごとに一度、面具には新しく漆が塗られるが、その時にも供養の儀式を行う。

 江西省南豊県の石郵村では、おにやらいの面具制作や開眼供養の儀式は、一人の「杵士」によって行われている。杵士とは土地の言葉で、法事も、面具や仏像の制作もこころえた職人のこと。神像の開眼儀式では、祭主にもなる。

 50歳を過ぎた舒長圓さんは、父の仕事を受け継いで、杵士となって30年以上のベテランだ。人々は、いつも彼に面具や神像の制作、開眼儀式を任せている。平日は、家で面具や神像の彫刻をしている舒さんだが、開眼供養の儀式では、身に黒い道士服をまとい、縁起のいい言葉を唱える。じつに複雑な儀式だが、それはなんとも神秘的な雰囲気なのである。(2002年7月号より)