一 生 懸 命

 「一生懸命」という日本語を目にした中国人は、なによりもまず、「一線懸命」という言葉を連想する。

 紀元前4世紀、シラクーザの僣主ディオニシオス一世の下に、ダモクレスというおべっか使いの廷臣がいて、主君の幸運をほめそやした。僣主はダモクレスのために宴会を開き、彼を王座に坐らせたが、その頭上には抜き身の剣が1本の馬の毛でつるされていた―。

 しかし、1本の細い線に命がかかるという危うさは、なにも王者に限ったことではない。人間はいつどんな危険に襲われるかわからないのだ、と中国人は心をひきしめる。

 もちろん、日本語の意味はこうではない。中国語にもある「努力」という意味であり、また「ベン命」―命がけでやる―という意味だ。「けんめい」と仮名で書いてあれば誤解は生じないが、漢字で書かれると、中国人はごく自然にダモクレスの剣の故事まで連想してしまうのだ。




 
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