馬鹿とバカ

 紀元前207年、秦の二世皇帝・胡亥の面前で、「鹿ヲ指シテ馬ト為ス」というバカげたことがあったと、『史記』が伝えている。

 奸臣・趙高が皇帝に鹿を献じ、「馬でございます」と言った。群臣の多くは「さようでございます」と言い、「いえ、鹿でございます」と言い切った少数の者は殺されてしまった。

 日本人が「ばか」という言葉に「馬鹿」という字を当てたのは、この故事によるものかどうか、それがわかれないが、鹿と馬の見極めもつかないというのは確かに愚かなことだから、この日本語にはなかなか微妙があると言える。

 だが、中国でいう「馬鹿」は実在する鹿の1種で、「赤鹿」という別名は日本語にもあるし、『大英百科事典』にも“red deer”とある。オスは枝ぶりのいいツノを持って堂々たるものだが、実は性温順。体毛は美しい赤褐色、体格は馬と同じくらい大きいので、「馬のような鹿」と名づけたわけだ。

 ともあれ、大昔のバカげた話から「馬鹿」と連想した中国人も、「馬鹿」という字からアカシカを連想した日本人も、ともにバカではなかったということ。

 ああ、ヤヤコシカッタ!




 
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