井戸とどんぶり

 昨年12月号のこの欄で、岩村怜先生が中国で印鑑を作られた際、怜の字を憐と彫られたという話を紹介したが、「ぼくも同じような目にあいましたよ」と語ったのがほかならぬ本誌日本人専門家の平井輝章先生。平井の井の字を丼と彫られてしまったのだそうだ。

 井という字は中国でも日本でも同じ意味で、「地を掘って水を取り、瓶で汲み上げ、これを井という」と辞書にある。一方の丼は、もともと井の本字で、真ん中のテンは井戸の中の清水を表したものだというが、もうこの字体は篆刻の中に残っているだけだ。

 そうとは露知らぬ平井先生、これは「間違い」だからテンを取ってくれと頼んだが、相手は「間違い」と言われてプランドを傷つけられたらしく、「この方が芸術的なんだ」と譲らない。テンがあると日本では「たいらどんぶり」となってしまうんだと、親子丼の絵まで描いた説明したが、「これもなかなか通じなくって往生した。でもこんなことで、かえって中国が好きになったりしてねえ」

 直すのは簡単だから、結局テンは取ってもらったが、それにしても丼という字がなぜ“どんぶり”という全く無関係の意味に使われるようになったのか、「実にフツギです」といまだに先生、首をひねっている。




 
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