国籍の壁超えた環境NGO

王 浩

子どもを連れてハウスで作業するひともいる

 2001年5月1日、四川省徳陽市は、ある日本人の一団を迎えた。彼らは、列車から降りると直接郊外に向かい、クワやスキを手に、事前に準備されていたイチョウの木の苗を植えた。午前中だけで、500本以上の苗が植えられた。地元の人たちは、日本人がどうしてここで植樹をしているのか、と関心を寄せた。

 彼らは、北京環境ボランティアネットワーク(略称ベブネット、BEV―NET)のメンバーで、この植樹は、環境保護活動の大切さを宣伝するために企画したものだった。

 ベブネットは、環境保護、植樹活動などを行うNGO(非政府組織)である。メンバーの大多数は北京在住の日本人で、発起人の一人である北村裕子さんが代表を務めている。

 北村さんの髪の毛は微妙にカールしていて、いつも微笑みを絶やさない。彼女の夫は、日系企業の中国駐在代表である。北村さんは1999年、数年前から単身赴任していた夫と一緒に暮らすために、北京にやって来た。そして、中日環境保全センターで図書整理のボランティアをはじめた。そこで彼女は、多くの環境保護方面の知識を学んだ。

 北京で生活をはじめてしばらく経った頃、ボランティア組織を作って、環境保護の宣伝をしたいと考えるようになった。彼女は、「いま、数多くの日本人が北京で暮らしている。国際的な問題として、私たちは生活する国の環境事情に関心を持つ義務がある」と話す。

 この考えは、友人の共感を得て、またたく間に北京の日本人仲間の間に広まった。最初の仲間は駐在員夫人たちだった。「人によっては、主婦の集まり、と呼ぶ人がいたほど」と北村さんは笑う。その後、徐々に留学生や中国に短期滞在する日本人も参加するようになり、2000年9月、ベブネットが正式に誕生した。

農場でのベブネットのメンバーたち。左が代表の北村さん

 主な活動の一つは、北京近郊の農場の参観とそこでの農作業だ。参加者みんなで野菜を収穫し、ゴミを拾い、農場のスタッフから無農薬野菜の栽培について話を聞く。北村さんは、「小さなことからはじめて、多くの人に環境保護の重要性を感じてほしいと思っている」と話す。

 農業エンジニアの于慧敏さんも、今ではベブネットのメンバーだ。彼女はこう話す。「メンバーは、心から中国の環境について心配している。徳陽での植樹を終えて、北京に戻る時には、列車の寝台券が売り切れていたため、60人以上の参加者全員が、36時間もの間、普通座席に座るしかなかった。それでも、みんなで順番に横になって休憩した。中には子どもを連れていた方もいたが、誰も文句を言わなかった。ある女性は、寝台券がないと知った時に、『私たちはボランティア。全然構わない』と答えたほど。本当に感動的だった」

 ベブネットは、環境保護の専門家を招いてしばしば講演会を開き、環境保護知識の普及にも務めている。清華大学の王明教授と中国社会科学院のケィ誼教授は常客だ。北村さんは、「本当にお世話になっている。問題にぶつかると、いつも道を示してくれる」と言う。

 数人でスタートした組織が、いまでは200人近いメンバーを抱える。しかし、ベブネットの求心力は弱く、メンバーは流動的だ。また、毎回の活動資金は自腹のため、活動ごとに資金繰りのために精力を使う。

 資金の不足のほか、人から誤解されたという苦々しい思い出もある。北村さんは、「一部の日本人は、私が夫の会社のために動いていると誤解し、一部の中国人は、私が暇だからこの活動をしていると思っていた。そんなこんなで、メンバーが減ってしまった時には悩んだ」という。あるメンバーによると、北村さんが涙を見せたこともあった。

 そんな時、夫と友人は、心から彼女を支持した。彼女の旦那さんは、「苦しい時を乗り切れば、きっとうまくいく」と励まし、活動資金も援助した。同様に、少なからぬ中国人も元気付けてくれた。こんな一つひとつが、動力になった。

ベブネットのメンバーが四川省徳陽市で植樹をしているところ

 2001年10月、ベブネットは、設立1周年を記念して、中国人民対外友好協会の講堂で「環境愛護と友好交流音楽会」を開催した。駐中国日本大使館や中国社会科学院環境と発展研究センターのスタッフ、一般の人など、300人以上が集まった。当日は、著名な音楽家・左継承さんが、自分の学生たちを連れて演奏した。北村さんは、「発展途上の苦しい時期に、音楽会の成功は大きな励みになった」と話す。

 メンバーにとって大きな喜びだったのは、ベブネットに、日本人以外にも欧米人、中国人などがあいついで参加したことだ。北村さんは、「みんなが私たちの環境に関心を持つこと。これが私たちの願いです」と声を強めた。  (写真はベブネット提供)(2002年11月号より)