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「流動児童」の学校はいま

 

夢ふくらます子どもたち

 

教室でみんなといっしょに教科書を読む孟雲ちゃん(中央)
2009年の春のある朝、北京市の東の郊外、朝陽区金盞郷皮村にある同心実験学校の新学期が始まった。6年生の教室では、12歳の女の子、孟雲ちゃんが30名余りのクラスメートといっしょに、大きい声で教科書を朗読している。

約3年前、孟雲ちゃんの両親は、故郷の湖北省鄂州市の農村から北京へ出稼ぎに来た。2人は皮村にある農家の小さな庭を借り、小さな浴場を開いた。ここは市内から遠く、家賃や物価がかなり安い。そのため、北京へ出稼ぎに来た多くの人たちがここに集まって住んでいる。おかげで、孟さんの浴場の商売はけっこう繁盛した。

北京での仕事や生活が安定した後、36歳になる孟雲ちゃんの父親の孟新明さんは、多くの農民工たちが自分の子どもを近くの同心実験学校へ入学させていることを知った。そこで妻と話し合ったすえ、故郷に残してきた息子と娘を引き取って、北京で教育を受けさせることにした。

2006年九月、10歳の孟雲ちゃんと5つ年下の弟が北京にやって来た。孟雲ちゃんは同心実験学校の4年生になり、弟は就学前のクラスに入った。もともと孟雲ちゃんは、故郷や祖父母と別れたくなかったし、まして転校生になるのも嫌だった。けれども、数日もすると、クラスメートがみな、自分と同じように、地方からやって来たことに気付いた。また、先生たちは故郷の先生と同じように親切で優しく、校内活動も、故郷の学校に比べもっと多彩であることがわかった。それからは、孟雲ちゃんにはまた楽しい日々が戻ってきた。

可愛くて、活発な孟雲ちゃんは、すぐに学校のダンスチームのメンバーに選ばれた。先生の指導の下で、ダンスチームは歌や踊りを自分たちでアレンジし、放課後、近くの農民工たちの前で披露した。その後次第に、この「流動児童」のダンスチームは、工場や建築工事現場、住民の「社区」(コミュニティー)でも演じるようになり、北京の多くの大学の舞台にさえ立つようになった。

農村から出てきて視野が広がった児童たちは、いつも新しく見たものに興奮しておしゃべりをする。大学の舞台に立ってからというもの、大学生になることがみんなの最大の夢となった。孟雲ちゃんが心の中で、一番入りたいと思っているのは、中国人民大学だ。なぜならキャンパスが一番美しいと思ったからである。

楽しい時間は経つのが速い。いつのまにか孟雲ちゃんは6年生になった。成績も良いし、性格も活発である彼女は、今では学校でちょっと知られている。孟雲ちゃんも学校を、自分の家のように感じている。

学校が主催する夏休みの写真班に参加した孟雲ちゃん(手前)は、 先生の指導で自分の好きな風景をパチリ
「昔、故郷にいたころは、孟雲は放課後、帰宅してから外に出ることはなかった。いまは週末でも学校に行く。図書館で本を読むか、先生の仕事を手伝うかしている。ここでは毎日、楽しそうに暮らしているわ」と孟雲ちゃんの母親は言う。

授業中に孟雲ちゃんはよく質問する。孟雲ちゃんと先生たちの間には、何も壁がない。あるとき、孟雲ちゃんはクラス担任の張凱先生のことを作文に書いた。

「張先生は要求が厳しいので、クラスメートたちは密かに彼を『厳先生』と呼んでいます。でもみんな、張先生のことが大好きです。先生は口の中にできものができても、授業をしてくれたからです」

孟雲ちゃんは作文の最後に、張先生に3つの提案をした。それは「なるべく面白い授業をしてほしい、放課後、みなといっしょに遊んでほしい、そして宿題を少しにしてほしい」だった。数日後、張先生からの作文のコメントが返ってきた。「あなたの希望にそえるようにつとめます」とあった。

夏休み、孟雲ちゃんは学校の写真班に参加した。メンバーたちは山野や公園、市街地に行き、カメラで自分の見た世界を撮った。夏休みが終わった後、その作品が校内で展示された。孟雲ちゃんの撮った路傍の草の写真は好評だった。写真の脇に彼女は「私はこの小さい草のように、たとえ弱く、小さく、誰にも知られていなくとも、強く、すくすく成長したい」と書いた。

間もなく、孟雲ちゃんはこの学校を卒業する。父親は自分の娘を同心実験学校へ入れたのは正しかったと思っている。

「北京で働くのは大変つらいけれど、この学校のおかげで、子供の教育の問題を心配しないで済みました。学校や先生たちにすごく満足しています。孟雲の誕生日には、先生が彼女のために自ら麺を打ってくれ、孟雲が車に酔った時には、先生が彼女を胸に抱いて、自らの子供の世話をするように面倒を見てくれました。もしこの学校に中学校ができれば、孟雲をそこで勉強させたいと思っています」

 

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