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南極エコツアーに参加して

 

馬麗=文・写真

中国の南極科学調査基地で記念撮影をする団員たち

第16回気候変動枠組条約締約国会議、いわゆる「カンクン会議」がホットな話題になり、地球温暖化が議論されていた2010年11月23日から、100名の優秀な科学者と企業家で編成された調査団が、実際に南極大陸に向け環境保護調査の旅を始めていた。調査団がチャーターした旅客船アルベールⅡ世号は、巨大な波や強い風などさまざまな困難を乗り越えて南極大陸到達に成功し、文字や写真で生き生きとした調査報告を発信したのだった。

空の上で一番難しいのは宇宙飛行、地上でもっとも難しいのは南極探検と言われる。南極調査は冗談ごとではなく、しっかりした事前の準備や途中の対策を必要とする。調査船が悪魔と形容される「西風帯」を通過する時には、ただやみくもな勇気と根気だけでは任務をまっとうすることはできない。船に乗っていると、しょっちゅう「ドーン」という巨大な波が舷側に当たる音が聞こえ、続けて船首が海に引き込まれ、20㍍もの波が操舵室の窓ガラスを襲って飛び散り、まったく視界がきかなくなってしまう……。

当然、船酔いがひどいが、初めて南極探査に赴く団員たちにとって、まだ見ぬ南極大陸の美しさを想像するのが何よりの特効薬だ。

氷雪大陸への憧れと準備

温暖な中国の南方、あるいは乾燥した北京からきた団員たちは、雪を見てとても興奮している。しかし、冷蔵庫よりもっと寒い場所、人類が生活しない氷雪の大陸に向かう私たちの防寒対策は本当に十分だろうか?

雪中に寂しくたたずむペンギンの目には、外来の私たちは福と映るのか、それとも災いなのか? どうすればペンギンたちの生活をかき乱さずに済むのか?

なぜペンギンにジャンクフードを与えたり、ごみを捨ててはいけないのか?

私たちは南極大陸での行動常識をきちんと理解しているわけではなく、どの団員も興奮し、好奇心と期待の気持ちを抱いて、南極大陸に対するロマンチックな想像をめぐらせていた。

今回の探査活動を規範あるものにするため、調査団は元科学調査隊員、極地探検家、環境保護の専門家などを招いて、団員たちに科学常識、環境保護に関する授業を行った。また、外来の細菌が南極に侵入するのを防ぐため、私たちのすべての衣服と荷物に消毒が行われた。さらに、南極での行動規定も決められた。それは、ペンギンの通路を歩いてはいけない、必ず数㍍以上の距離を空けてペンギンを観察、撮影すること、もしペンギンが向かって来た場合には動かずに彼らに友好的に「見学」させる、などだった。

上陸する前にブーツのチェックを

航海地図に印されたルート

氷原で精霊たちと出会う

3日間大波に揺られて、ついに人々のあこがれる南極大陸に到着した。私たちがペンギンの生息地に近い場所に上陸するとすぐに、よちよち歩いたり、お互いにたわむれたりするペンギンたちが見られた。やっとペンギンを目にした私たちは、本当に彼らに近づいて触ったり抱きしめたいと思ったものだ。

初めてペンギンと出会った私たちは興奮を隠せず、すぐにカメラを出し、さまざまな角度から写真を撮り始めた。5㍍ほどしか離れていないのに、ペンギンたちは驚いたり怒ったりすることもなく、まるで撮影に協力するように平然と遊び続け、それはなごやかに私たちに協力してくれるのだった。私は、ペンギンが人間に好まれる理由を、ようやく自分の目で見て理解した。少し不器用そうで無邪気な姿を見るとジャイアントパンダを思い出させるし、よちよち歩く姿は歩き始めた人間の子どもにも似ている。ペンギンたちはどうやらコミュニティー意識を持っているようで、いつも列を作り移動する様子は、まるで燕尾服を着たジェントルマンの行進のようだ。しばらくすると、次第に多くのペンギンが集まってきた。陸上では不器用なペンギンだが、海に入るとドジョウに変身したようにすばしこく、あっという間に遠くまで泳いで行ってしまう。時には水面をジャンプして、素晴らしいシンクロナイズドスイミングの妙技を見せてくれたりもする。

ペンギンの足下にせまる危機

協力的に撮影に応じるペンギンたち
一見するとおだやかで優しそうに見えるペンギンだが、実は勇敢でねばり強い動物である。厳しい環境でも、ペンギンたちが親子の情、夫婦の情、そして仲間との友情を実に大切にしていることに、私たちは深く感動する。極寒の冬に新しい命を生んで育てる彼らは、強い忍耐力と冷静な頭脳を持ち、吹雪の中でも道に迷うことがない。生まれたばかりのペンギンの赤ちゃんは、見た目がまったく同じ大人のペンギンたちの中から、鳴き声だけで両親を識別できる。また、ペンギンは伴侶に忠誠を尽くし、協力して子どもを育てる。風雪の中でぴったりと寄り添って体を暖めているペンギンたちを見ていると、このかわいい動物への敬意が心に満ちてくるのを禁じえない。厳しい環境の中でも、彼らは前向きで、我慢強く、優雅で、寛容に生きている。

ペンギンのほか、氷海を泳ぎながら潮を噴くクジラ、氷の上で伸びをするアザラシ、澄み切った空を旋回しながら食べ物を探すトウゾクカモメやアホウドリも見られた。

調査中、浮かぶ氷の塊の上に立ちつくすペンギンたちに気がついた。地球温暖化に伴って南極全土で氷の消失が加速しているのが明らかになっている。ますます拡大する人間活動が、このもろい生態系により多くの不確かなリスクをもたらすのは疑いもない。

長城基地で「蘚苔精神」を悟る

南極調査の最終日となる12月5日、私たちはキングジョージ島のフィルデス半島南部にある長城ステーション(基地)を訪れた。基地スタッフの紹介によると、中国初の南極調査隊は1984年12月31日10時(現地時間)に、南極海のサウス・シェトランド諸島でもっとも大きな島であるキングジョージ島で、長城基地の定礎式を盛大に行ったという。長城基地は1985年2月20日に落成している。

晴れ渡った空の下、白い雪と氷河に照り映えて、中国の南極科学調査基地の赤い建物と石碑は非常に目を引く。私たちはもちろんこの機会を逃すことなく、中国人が誇りとするこの場所で記念撮影をしたのだった。

長城基地のあたりには地衣類、蘚苔類(コケ植物)及び藻類などの植物が生息している。それに加え、南極大陸に生息するただ4種類の種子植物も見られる。土壌のほとんどない南極大陸を覆っている氷と雪の下は岩石だらけだ。その地質環境の中に生存できるのが蘚苔類植物だ。しかし、ここまでに成長するには数百年ないし千年以上かかるので、くれぐれも踏みつけないようにとスタッフに注意された。それを聞いて、私たちの誰もが千年を越えて生き続ける蘚苔類のねばり強さに感動せずにはいられなかった。確かに、極寒の南極大陸は土地が非常にやせているため、緑色の植物はほんの少ししか生息していない。

南極大陸に生きる生命力の強い植物

ここでは、岩石に付着するように生息する蘚苔類だけが緑の夢の実現のため孤軍奮闘しているようだ。長い時を経て岩石は風化され、そこに生きる蘚苔類は死と再生を果てしなく繰り返してようやく土壌を形成できるのだ。ある意味で、蘚苔類は南極大陸の土壌の創造者とも言えよう。南極地域の環境保護も蘚苔類の保護から始めなければならないのだ。この大陸に広く生息している蘚苔類は、氷河の消失後もっとも早く岩石に着生し、数千年の成長と岩石の風化によって、ついに土壌を形成する。その、気の遠くなるような営みを支える蘚苔精神に、私たちは心を打たれた。

ほんの数日の南極の旅だったが、地球に最後に残った手つかずの自然と言われるこの大陸を直接見聞して理解を深め、南極大陸の環境保護への意識も高められた。南極を去るにあたって、団員の誰もが船に設けられた環境保護の基金に寄付をし、それがこの汚れない土地を守るために少しでも力になればと願ったのだった。

 

人民中国インターネット版 2011年3月29日

 

 

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