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日本の専門家が見る「両会」(1) 拓殖大学教授 富坂聰(談)

新型コロナ対策で素晴らしい成果を挙げた中国 生活環境のさらなる改善に期待

 

感染症対策で新たな道を開いた中国

中国が徹底して感染症を抑え込み、それから経済生産に舵を切っていくというメニューはとても正しかったと思う。日本を含み、ウィズコロナという形で感染対策をほどほどにして経済活動をやめない国は、結果としてかなりダメージが長引いてしまったという問題を抱えている。一方中国は一時期に強い力を投入し、エネルギーを持っている資源を集中的にひとつの場所に投入 ―例えば、一定期間非常に厳しく人の移動を制限する― などといった厳しい措置を取ったことで、中国における感染の抑え込みができているという事実がある。

さらに、私はこれに加えて非常に注目しているのは、感染症問題では多くの国が受け身で、大難をどのようにやり過ごそうかと考えていたにも関わらず、中国は自ら乗り出していった点だ。

例えば非接触技術の進歩などがそれに当たる。PCR検査自動化の幅などは非常に大きくなっている。当初は人間の手でやっていたが、ちょっと前の河北省では、自動化が非常に進んでいた。感染拡大の前後で、明らかにいくつかの部分が強くなっている。しかもテクノロジーにとどまらず、国民の意識にも進歩があるように見受けられる。日本社会は残念なことにこういう点においては少々遅れている。感染症流行を経て何か大きな成果があったかというと、残念ながら目覚ましいものが出てきておらず、なんとか乗り切ったという感じだ。

「双循環」が経済回復に奏効

中国は「双循環」という経済政策を出している。広東省の人々が輸出先を失った昨年3月頃、オンラインを通じてBtоB(企業が企業に対してモノやサービスを提供するビジネスモデル)で本来輸出すべき製品や商材をすごい勢いで国内に振り向け、それが消化されていく様子を見た時に、対応力の強さを感じた。双循環は時期を非常によく見た政策だと思うが、民間の対応力もすごかった。本来なら輸出産業が非常に大きなダメージを受けるはずなのに、中国の回復力はめざましいものがある。

しかし、消費、特にサービス産業の回復は重く、雇用も決して楽観視できない。しかし世界の状況と比べると、中国は相当良いと思う。中国の回復は実に奇跡的だという点について異論はない。ただし雇用回復や個人債務の問題については、少々重い課題になったのではと見ている。リーマンショック後の2008年から09年にかけての量を重んじる経済対策よりも有効だった。

昨年の五中全会で私が非常に注目したのは、所得を上げるという点だった。ここにはGDPの数字の上下ではなく、可処分所得の上下を非常に重視すると書いてあり、非常に正しい政策だと感じた。これを実際にどのように行うかには要注目だと思っている。

上がる中国の国際的影響力

私は最近習近平国家主席の言葉を全部読み直したが、コロナ対策の中でかなり強調された「人民至上」「健康第一」というスローガンが実は数年前から言われていたということを知った。中国のコロナ対策には元々ベースがあったのだと思う。

今回のコロナ対策については、米国との比較が特にわかりやすいだろう。今回は米国に対する神話がかなり崩れた。「国民が幸せに生きていける」というメッセージは本来、米国のメッセージだったと私は受け止めている。1980年代頃の我々の頭の中には、米国には手厚い福利厚生や法的保護などがあるというイメージがあったが、今回のコロナの騒動でいろいろなものが崩れていった感がある。そして相対的に中国の存在感が高まり、中国の言っていることが世界に受け入れられる土壌ができたと私は見ている。ただし一方で、西側先進国はそのような要素が出れば出るほど、むしろ中国に反発する状況がある。いずれにせよ、中国は見事にやってのけたと思う。

残念なことに、今の日本では何かしらの悪意をベースに中国を見る空気ができてしまっている。これは、国民の間に広がる中国に対するネガティブな感情が前提だと思う。例えば今、中国の積極的な評価をメディアが行ってもなかなかそういう記事は読まれないから、商業的に影響が大きい。同時に中国のことをネガティブに語っても被害はないし、それを喜ぶ人がいる。全ての日本人が中国を嫌いだったりネガティブな目で見ているわけではないが、一部の声がとても大きく、そういう人々が世論をリードしてしまっている。これはメディアも同じだ。中国の発信をそのまま受け取れないというメディアの姿勢が続いている。これは決して良いことではない。

中国ではコロナ克服に際し、ボランティアが非常に活躍した要素の一つに挙げられるが、ボランティアの話を日本人にしてもあまり信じてくれない。「裏に何かいいことがあるからだろう」「終わったあとに特別手当がもらえるのか?」など、中国について普通に話したいと思ってもなかなか通じない状況が、今の日本にはできており、良くないことだと思っている。

コロナはそんな中国に対する疑問の目を加速させてしまった。この問題をすぐに解決するのは非常に難しく、時間をかけて解決していくしかないと思う。しかし中国側にも、こうした問題を本気で解決していこうという姿勢が欲しいと思う。

世界は中国の経験に学ぶべき

もし日本が昨年1月の中旬過ぎから2月の終わりくらいまでの武漢を詳細に見、中国が何をやり、何に困り、どう解決したかを細かく見て勉強していたら、今のような状況になっていなかっただろう。中国が苦しんだ際には、対策をかなり早く的確に出したと思う。1月初めから中旬頃の混乱期は一体どうなってしまうのだろうかと思ったが、1月中旬から末にかけての対策が非常に見事だった。この頃に中国がやったことを日本がよく勉強していれば、感染防止がもっと上手にできただろう。

状況を見ている限りでは、パンデミックは大体10年に1度起こっている。10年後にどんなウイルスが来るか、そもそも10年も待ってくれるかどうかも分からない。鳥インフルエンザがヒト―ヒト感染するケースが起きたときにどうするのかという心配もある。よって、中国モデルは世界が学ぶべきものだと思うし、学べると思う。壁を作って言い訳をするのではなく、学んでいく姿勢が大切だ。

ポストコロナの日中関係についてだが、安倍政権の末期から菅政権誕生にかけて、対中政策が大きく変わっていることにお気づきだろうか。現実路線に戻ったということだ。中国との関係を対立的ではなく現実的なものにしていくという流れが政権にある。中国側も実はこれに気づいていると思う。

残念ながら日本は「お付き合い」をしなければならない部分があり、日本では中国を疑わなければいけない、中国を悪く見なければいけないといった国民感情が日中関係の中心に来てしまっている。しかし日本は確実に前に進めたいと思っている。よって、中国にはぜひ日本は確実に進めたいと思っているという方を見てほしい。中国が一歩進んだら日本はきちんとメッセージを返す、日本が一歩進んだら中国はきちんとメッセージを返すといった感じで、少しずつ盛り上げていったらいいだろう。

二国間関係を緩めるためには交流が不可欠で、これには物量が大切だ。離れたところでお互いに猜疑心を膨らませるのではなく、インバウンドが早く回復し、たくさんの人による実際の交流があれば落ち着いてくるだろう。その意味では、コロナは大きな足かせになっていると言えるだろう。

 

人民中国インターネット版 202135

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