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恐竜の謎にせまる

中国大地に眠る 豊富な研究資料

盧茹彩=文 虞向軍=写真

恐竜にはいまだに解明されていない謎がたくさんある

中国では100年ほど前から全土で恐竜の化石が出土している。とくに近年の発見は目覚しく、海外からの関心も高い。

2006年には新疆ウイグル自治区で世界最大のステゴサウルスの化石とアジア最長のマメンチサウルスの化石が発見された。寧夏回族自治区ではアジアで初めてディプロドクスの化石が発見された。

06年5月の統計によると、現在明らかになっている恐竜属527属のうち、中国では109属の化石が出土しているという。

ジュンガル盆地の発掘現場

宿営地のバラック小屋の壁に描かれたステゴサウルスの絵

新疆ウイグル自治区は、古生物と恐竜の研究においては非常に重要な場所だ。中国の科学者たちは1920年代からこの地で多くの恐竜化石を発掘してきた。新疆には主要な発掘地が三つあるが、そのひとつであるジュンガル盆地の五彩湾地区の発掘現場に入った。

中国科学院古脊椎動物・古人類研究所の恐竜化石発掘チームは、2000年からジュンガル盆地の五彩湾地区で活動している。

同研究所の研究員であり、この発掘プロジェクトの責任者である徐星博士は、おもに中生代の恐竜化石および地質学の研究に携わる。これまでに15の恐竜属を発見、その名付け親でもある。

砂漠のなかの宿営地  

筆者を乗せた四輪駆動車は、新疆の区都であるウルムチから200キロ走り、ゴビ砂漠に入っていった。この車には発掘チームの食料が積まれており、トランクは羊肉や野菜、そして十数個の水タンクでいっぱいだ。砂漠は水が不足しているので、生活用水と発掘のために必要な水は、宿営地から60キロ離れた供給ポイントからトラックで運んで来る。飲用水は町に出て購入しなければならない。

宿営地に向かう途中は、黄色い砂と所々に生える低木が見えるだけでほかには何もない。40キロ走り続け、ようやく宿営地にたどり着いた。そこには、十数張のテントと食事のために木の板でこしらえたバラック小屋、そして化石を運ぶトラックがあるだけ。地面には石膏でくるまれた恐竜の化石がいくつか置いてあった。

徐星博士たちはジュンガル盆地の奥地で発掘を行っている。 最寄りの街から200キロの場所だ

バラック小屋の壁には、ステゴサウルスの絵が描かれている。描いたのは米国からやってきた古生物を研究する大学院生。新学期が始まるため、発掘に協力していた海外の大学の教授と学生たちはみな帰国してしまったという。

夜8時ごろ、発掘に出かけていた十数人の調査員たちが続々と戻ってきた。まだ明るいうちにと(ここでは9時ごろようやく暗くなる)、南京大学と中国科学院の学生たちは疲れも顧みずに空き地でサッカーに興じる。

夕食は肉料理一品と野菜料理二品。調査員たちはおいしそうにほおばる。南京大学地質学部の学生である郭昱さんは、もう1カ月以上もここに滞在しているが、やせるどころか逆に太ってしまったという。20歳の誕生日はここで迎えた。「誕生日の日、ここにはほんの少ししか食料が残っていませんでしたが、それとビールでお祝いしました」とうれしそうに話す。

夜中、強風がテントをバタバタと揺らす。厚い布団をかけてもまだ寒い。顔には砂が降り積もった。

夕日に照らされた発掘現場
朝起きて調査員たちに強風のことを話すと、「昨晩は風なんて吹いていないよ」と一言。彼らは砂漠の強風と砂に慣れているので、昨晩の風ぐらいでは風が吹いたとは言えないようだ。もっと強い風が吹くことがいくらでもあるという。

徐博士は学生のころにも実習で新疆を訪れたことがある。「新疆は中国の発掘現場のなかでもっとも環境が厳しかった。砂漠の奥地であるため、飲用水は非常に限られているし、宿泊条件もよくない。暑い時期は、毎日摂氏45度まであがる。それに比べると、今は交通、食事、宿泊など、各方面の条件がとてもよくなった」と、当時をふりかえる。

砂漠では水が貴重であることを知っているため、筆者は2日間、発掘チームの水は使わずに、持参したウェットティッシュを使って洗面をすませた。ある調査員は、もう40日間も髪を洗っていないと言っていた。

徐博士は時間があるとあちこちを回ってゴミを拾い集め、それを一カ所に埋めた。これを見て、調査員たちにも環境保護の意識が養われ、掘り出した沙土までも風に吹き上げられないようにと踏み固めていた。

発掘に欠かせない石膏

次々と新しい化石が発見される
調査員たちについて発掘現場にやってきた。電動シャベルで岩を掘る人、ハンマーでたたく人……にぎやかな発掘現場は真っ赤な夕日に照らされ、とても壮観だった。

「私たちはここを1カ月以上も掘っています。山全体を一層一層切り落としているのです」とある作業員は話す。横に置いてあるたらいは小さな化石の塊でいっぱい。大きな化石は、石膏をつけた麻袋の切れ端にくるまれている。

発掘に出かけるとき、調査員たちは食料や水とともに、石膏粉を持っていく。小さな化石は直接取り出すことができるが、すこし大きくて形の整っている化石は、できるだけそのまま取り出すようにする。あとで修復しやすいからだ。石膏粉を水で溶き、それをつけた麻袋の切れ端で化石をくるむとうまく固定することができ、何枚も巻きつけると「石膏のジャケット」ができあがる。こういった「石膏のジャケット」は、運送中、化石を保護する役割を果たす。

発掘現場からは毎年千トン以上もの「石膏のジャケット」が北京に運ばれる。しかし本物の化石は少なく、ほとんどは単なる土の塊だ。大きなものは数百キロにもおよび、ひっくり返すだけでも5、6人が必要となる。「修復作業は北京に運ばれてから始まる。今日発掘したものは、来年の下半期になってようやく修復が完了する」と徐博士は言う。

鳥類との系統関係

GPSを利用して化石の発掘地を測定する
新疆の恐竜化石発掘プロジェクトの責任者である徐博士は、もう6、7年もここで発掘作業をしている。新疆が恐竜の研究をするうえでいかに重要であるかを語ってくれた。

1856年、英国の著名な生物学者トーマス・ヘンリー・ハクスリーが鳥類と恐竜の類似関係に初めて言及した。エール大学のジョン・オストロム教授は、始祖鳥と北米の小型肉食恐竜を研究した結果、鳥類は恐竜から進化したという仮説を出した。ここから、学界では恐竜と鳥類の系統関係についての論争が絶えなくなった。

1996年、遼寧省西部の約1億2500万年前の堆積岩から小型肉食恐竜の化石が発見され、「中華竜鳥」(シノサウロプテリクス)と名付けられた。その化石には毛状の皮膚派生物が付いていたため、国内外の科学者たちの注目を集めた。

97年および98年、同地で身体に羽毛を持つ「原始祖鳥」(プロトアーカエオプテリクス)と「尾羽竜」(カウディプテリクス)が相次いで発見された。そして今世紀に入って、徐博士らが発見した「趙氏小盗竜」(ミクロラプトル・チョウ)の化石により、恐竜と鳥類の系統関係が明らかになった。

出土した化石は接着剤をつけて固定する
2001年に「顧氏小盗竜」(ミクロラプトル・グイ)の化石が発見され、恐竜と鳥類の系統関係に関する研究はようやく新しい進展を得た。「顧氏小盗竜」は全身に羽毛を持つ恐竜で、前肢と後肢は4つの翼に進化し、鳥類の特徴を備えている。03年1月23日、世界的に権威ある科学誌『ネイチャー』はこの発見を紹介した。

徐博士によると、この四つの翼を持つ恐竜は滑空能力を持っていた可能性が高く、この発見は、鳥類の飛行の起源は木に棲んでいた動物にあるという説の重要な証拠になるという。

「しかし、遼寧省で発見された恐竜の化石は1億3000万年前から1億2000万年前のもので、ドイツが発見した始祖鳥(約1億6000万年前)との時間差は大きく、進化の過程には空白がある。その点、新疆の地質構造はちょうど1億6000万年前のジュラ紀に属すため、もし新疆で関連の証拠が見つかったら、この進化の過程ははっきりしたものになる」と語る。

米ジョージ・ワシントン大学は2000年から、中国科学院古脊椎動物・古人類研究所との合同プロジェクトをスタートした。発掘場所はジュンガル盆地の五彩湾地区。米国、カナダ、メキシコなど五カ国の学者がこのプロジェクトに参加している。

ティラノサウルスの祖先?  

化石をくるみ固定するのは、石膏をつけた麻袋の切れ端が最適だ

毎年、大量の化石が新疆から北京に運ばれているが、徐博士たちを興奮させる化石は2002年になってようやく現れた。世界最古の原始ティラノサウルスと認定された「五彩冠竜」だ。

映画『ジュラシック・パーク』のなかでもっとも凶暴な肉食恐竜として描かれているティラノサウルス・レックスは、このティラノサウルスから枝分かれした種だ。これまでに発見されている大型のティラノサウルスの多くは、8000万年前の白亜紀に生息していたもので、ジュラ紀のティラノサウルスの化石はほとんどない。

しかし、「五彩冠竜」は1億6000万年前のジュラ紀に生息していた恐竜であり、ティラノサウルス・レックスの進化の過程における化石証拠の空白を埋めた。ジョージ・ワシントン大学のジェームズ・クラーク准教授は、「この化石は、ティラノサウルスがどのように小型肉食動物から、凶暴な大型恐竜へと進化したのかを示している」と指摘する。

長さ10メートル以上、高さ4メートル以上のティラノサウルス・レックスに比べれば、「五彩冠竜」ははるかに小さい。長さ3メートル、高さ1メートルほどしかない。しかしその姿かたちはティラノサウルス・レックスに非常に似ており、強靭な後足、翼のような前足、そして鋭い歯を持っている。しかも頭部の鼻骨の位置には、骨質のとさかがはっきりとあり、これは多くの鳥類の頭部にある異性を求めるしるしと非常に似ている。「五彩冠竜」という名前もそこから来たものだ。

「『五彩冠竜』はこれまでに発見されている最古のティラノサウルスで、この種の研究にとって非常に重要だ。恐竜から鳥類への進化の過程を研究する重要なポイントでもある。半月形の腕骨の発育は鳥類の重要な特徴のひとつだが、『五彩冠竜』の身体上にもこのような腕骨が見つかった。鳥類の特徴がどのように形成されたかを研究するための重要な情報である。『五彩冠竜』の頭部にある骨質のとさかも、鳥類とティラノサウルスのような獣脚恐竜が同一の祖先を持つ証拠のひとつだ」と徐博士は説明する。

これまでに多くの恐竜の化石を発見してきた徐星博士

このような発見により、世界の古生物学界の関心はふたたび中国に集まった。『ネイチャー』など権威ある科学誌もこの研究成果を伝えた。

発掘は終わらない  

徐博士は「一つ二つの化石だけでは進化の過程を説明することができない。たくさん採集し、事件が起こった時代に近い化石を多く見つけなければ」と話す。

徐博士は06年にゴビ砂漠でアジア最長のマメンチサウルスの化石(首の長さ約12メートル、体長約35メートルと推測されている)を発見した。恐竜ファンたちはこの発見に沸き立ったが、徐博士はあまり満足しなかった。

「しかし、寧夏の霊武でディプロドクスの化石をアジアで初めて発見したことは、大きな価値がある。ディプロドクスはこれまで、南半球のタンザニアやアルゼンチン、そして北半球の北米でしか発見されていなかった。寧夏で発見された化石は南半球で発見されたものと関係がある可能性がある。これによって大陸移動説を検証できるかもしれない」。こう考えた徐博士は、新疆と寧夏の発掘現場を頻繁に往復した。

中国では新疆と寧夏以外でも、内蒙古自治区や河南、河北、山東、遼寧などの省で恐竜化石の発掘作業が続いている。

中国の恐竜研究の状況について、徐博士は次のように話す。

恐竜の化石がプリントされたTシャツを着た南京大学の郭昱さん

研究資源の面からいうと、中国は世界一であり、恐竜研究の焦点となりつつある。中国で見つかっている恐竜属は百九属におよび、米国(127属)に続き第2位だ。しかも発掘の発展スピードはもっとも速く、1990年に比べると化石の数量は2.3倍に増えた。米国は5割程度増えるにとどまっている。このことも海外の専門家が中国に注目する理由のひとつである。

研究レベルの面からいうと、世界一は米国。カナダとヨーロッパの一部の国のレベルも高い。中国は1930年代にようやく研究が始まったうえ、関連分野の教育レベルも低いため、発展途上国のなかではトップだが、米国など先進国との差はまだ大きい。

中国の恐竜研究は、1950、60年代は雲南省と山東省、70、80年代は四川省に集中していた。80、90年代は新疆と内蒙古での発掘が増え、その後、遼寧省での発見が大きな影響を与えている。

 

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