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アートで他者とまじわる子どもたち

 

国際舞台で子どもたちと花ひらく  

先輩たちに支えられ、王先生は貪欲に動き出す。つても経験もない上に、たった1人の美術教師。足を使って1つずつ積み重ねていくしかなかった。他校で、勉強会があると聞けば出席し、良いものは積極的に取り入れる。美術館や展覧会にも足を運び、学芸員やアーティストらとの交流を深めていった。

中華学校の卒業生ではないので、何の先入観もない。どこにでも躊躇なく飛び込めた。政治的にデリケートな関係にあった所にも、企画書片手に直談判したことがある。周囲を驚愕させる行動だったが、結果は大成功。双方の子どもたちのアートコラボレーションを実現させ、横浜中華街に作品を展示、注目を集めた。  

こうした積み重ねが大きな輪になっていく。2005年、彼女の取り組みに着目した現代美術の国際展・横浜トリエンナーレから「スタッフに」という申し入れがやってくる。同展には01年にも企画参加しているが、アジア部門スタッフとしてのオファーだった。50代にして国際舞台への飛躍。遅咲きだが、「そういう時期が偶然50代だっただけ」だと捉えている。

この日は水墨画で孫悟空を描いた。 王先生が描く孫悟空を見て喜ぶ子どもたち

王先生の抜擢は、子どもたちにとってもチャンスだった。国際的なアーティストや作品に出会える機会は少ない。中華学校の教育現場に立ちながらトリエンナーレスタッフとして立ち上げたのは、キッズ・キュレーターズ・ツアーだ。子どもたちが自分の好きな作品を中心に、作品の説明を行いながら会場を案内する。決められた言葉は特にない。彼らが感じたことを、自分なりの言葉で自由に発信していく新しい試みだった。  

自由には、何より重い責任ものしかかる。最初ははしゃいでいた子どもたちも、自ら動くようになる。美術室で作品について調べたり、アーティストに思いを馳せてみたり、大人たちの知らぬ間に着々と準備を進めていた。  

普段の美術の授業でも、この子たちはこれにつながる体験をしている。孫悟空を描くときには、孫悟空になりきるところから始める。1人ひとりが頭と身体、心を使って思いを馳せていく。獅子舞を描くとなれば獅子舞の何たるかを学び、銅鑼や太鼓に合わせ獅子の気持ちで躍動する。こうした時間を経ることで、作品は不思議と活気に満ち満ちた。

獅子を描く授業で獅子について説明する王先生(写真提供・王節子)

こんな体験を積み重ね、中学部では報道写真を取り上げる。パリ解放後、ドイツ兵の恋人だったということで丸刈りにされた女性たちの写真など、そこには中学生には重すぎるほどの世界が焼き付けられている。しかし、授業では丹念にその背景や心情を見つめ、討論を重ねていく。そうすると、子どもたちは自身のルーツにも目を向けるようになる。いずれも王先生自身が何年もかけて作りあげたカリキュラムの一部だ。  

そして迎えたトリエンナーレ当日。あまりの大舞台に一瞬ひるんだ子どもたちだが、徐々に本来の姿を取り戻す。彼らの切り口は鋭い。子どもならではの視点や発想力は、次第に観客を引きつけていった。「日々反省しながらの授業」という王先生だが、授業で得たものを子どもたちは貪欲に我がものとしていた。作品を独自の視点で見つめ、それを観客に伝え、更には対話することで観客の視点をも引き出していく。こんな光景を目の当たりにした彼女は「教師が外にも出て、子どもたちに学ばせることの大きさを痛感」した。総合ディレクターの川俣正氏は、この取り組みを「何より楽しかった」と高く評価したという。

 

 

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