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【蔡氏貢撣】  宮廷献上品から民間に

 

手に職あれば飢えず

蔡氏貢撣の四代目継承者蔡成浩さん(写真・単濤)

中国人はよく「鶏毛蒜皮」と言う。これはニワトリの羽やニンニクの皮のように取るに足らないものという意味だ。しかし、骨董品や工芸品で知られる天津古文化街にある小さな店では、職人がその取るに足らないニワトリの羽を1本1本束ね、精巧で美しい日用品を作り出している。

清の咸豊年間(1851~61年)、蔡錫九がその際立った技術で作り上げたニワトリの羽のはたきは宮廷に認められ、正式に「蔡氏貢撣」(蔡式毛ばたき)として献上品となった。しかし、清朝滅亡後の戦乱の中で技術の伝承は途絶えてしまった。今から11年前、四代目にあたる蔡成浩さん(66)は、事業に失敗して地元に戻った。失業状態の彼は、再び家伝の職人芸を仕事にすることにした。「昔の人は、手に職があれば飢え死にすることはないとよく言ったものです。祖先が残した技術はどんな時でも失ってはいけないと思います」。過去を振り返る彼は感極まった表情を見せる。

ニワトリの羽のように軽いものでも、工芸品はできる。「優れたはたきは、まずその材料から見極めが必要です。蔡氏貢撣は通常1歳から4歳のオンドリの羽を使います。1羽のニワトリからは最高で250グラム程度の羽が取れますが、はたきには首、背、尾の羽だけ、実際には15グラムしか使えません」とは蔡さんの紹介。彼の作るはたきに使うニワトリの羽はすべて河南省にある集散地から仕入れている。ここのものだけが彼の目利きにかなうからだ。

彼がずっと愛蔵している1本がある。1万本以上の羽で作られたはたきで、これらの羽はすべて4歳から5歳のオンドリのものだ。「考えてもみてください。4、5歳のオンドリから無傷の羽がどれだけ取れると思います? このはたきは絶対に手放しません。祖先からの技術はこうした出来のいい品物によって伝わっていくものだからです」

はたきに見る伝統文化

 

蔡成浩さんによる蔡氏貢撣の代表作 「墨龍」

(写真・単濤)

材料選びに対するこだわり以外に、伝承の技術と奥義も抜きには語れない。ほかの毛ばたきとの違いについて、蔡さんはこう話している。「蔡氏貢撣では羽毛は軸から自然に90度になるように作られており、正面からチリを払うのに便利であり、静電気を用いてチリの付着力を高め、チリを取る機能を最大限に高めています。使用過程で、どのようにしっかりとチリを付着させ脱落させないか、また変形しないようにするか? この技術こそが蔡氏貢撣の奥義です。この技術も蔡氏貢撣と他との決定的な違いです」  

現代における蔡氏貢撣の存在意義について聞くと蔡さんは、価格帯が数十元から数百元までいろいろあることと、掃除機などの家電製品と比べて、より環境に優しく実用的なことだという。例えば、高級なマホガニーの家具や貴重な書画のコレクションの手入れでは、ほとんど品物を傷つける心配なく掃除ができる。そして最も重要なのは、このニワトリの羽のはたきは中国の伝統文化を継承していることだという。例えば、伝統的な家ではニワトリの羽のはたきをはたき立て(撣瓶)に立てておくことが好まれる。「瓶」が「平」と同音、「鶏」が「吉」と同音で、「平(瓶)安吉(鶏)祥」(無事でめでたい)に通じるからだ。

蔡氏貢撣は家族企業として成功を収め、父親の蔡成浩さんからその技術は五代目の継承者の蔡雪濱さんに受け継がれた。しかし、「蔡氏貢撣の制作には18の工程があり、いずれも手づくりの作業です。はたきづくりはコストが高く、体力を消耗する割に利益が低く、後継者不足はますます深刻になっています」と成浩さんは憂慮を持っている。蔡氏貢撣を次の世代に受け継いでいくために、成浩さんは蔡家以外の人への伝承を真剣に考えているという。

 

人民中国インターネット版 2015年4月7日

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