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焦墨技法でかすれ生かす
山水画家 崔振寛 氏

 

本誌特約ライター・諾曼 

20世紀水墨画壇に足跡 

 

プロフィール
崔振寛(Cui Zhenkuan)  1935年陝西省西安市生まれ、60年西安美術学院中国画科を卒業。山水画を描いて62年になる。国家1級美術師。現在は陝西省美術家協会顧問などを務めている。数十点の作品が中国美術館、人民大会堂、上海美術館などに収蔵されている。

5月21日から6月1日まで、中国美術館において中国美術家協会、中国国家画院、中国画学会などが主催する「蒼山無言――崔振寛画展」が開催された。この個展には崔振寛氏が各時代に描いた作品150点余りが展示され、今も活躍する芸術家を扱った個展としては今年中国美術館でも最大規模の個展となった。  

作品は、伝統の文人書画が現代芸術に向かって推し進めた重要な成果を表している。評論家の劉驍純氏は、崔氏の水墨画作品は近代山水画の大家である黄賓虹の影響を強く受けていると指摘している。劉氏は二人を並べ、「黄崔系統」という概念を提起している。崔氏は焦墨の技法を切り口に、黄賓虹とその絵画技法について20年余り掘り下げて研究、その伝統を現代的方向に引き続き推し進めたというのだ。崔氏の筆や墨と構造を自分のものとする程度はますます高くなり、描き手の気持ちの表現に重点を置く大写意の技法の勢いがますますはっきりとしてきた。この伝承と変革は、20世紀中国水墨画壇に独特の画脈の景観を形作った――つまり「黄崔系統」である。  

いわゆる焦墨とは、水を使って薄めることなく、ただ墨だけを用いて描く技法だ。崔氏は、焦墨の技法を用いて描く時にはいかなる修飾を加える余地もないが、そこには一定の難しさがあると考えている。しかし、この技法はより筆の運びの特長を発揮し、芸術家の個性を突出させ、自らの絵画言語を形成することができる彼は「黄賓虹は伝統から現代への転換時期にあって、伝統文人画の大成という基礎の上に、その筆墨の精神にはとても現代的感覚があり、この点は確かに私はずっと学んできました」と話している。

 

神・形・意の三位一体 

 

『秦嶺大壑図』

焦墨 2014年 258×620cm

今回の個展のため、80歳になる崔氏は高さ2メートル、幅6メートルにもなる巨大な作品『秦嶺大壑図』を創作した。崔氏の故郷は秦嶺の北にある終南山の麓で、彼は数十年来深く分け入って地方文化の収集や写生を行い、秦嶺の姿は熟知している。

崔氏は、「私は記憶と想像を探し求めながら、スケッチブックをめくって描き、峰々がそびえ立ち、深い谷が続き、渓流が互いに競って流れる、『秦嶺大壑図』が次第に形作られていったのです」と語っている。同作はこれまでで最大の作品で、勢いがよどみなく堂々としており、全体が整っており、細部が豊かに描かれている。技法的には「20年来力を入れて模索してきた焦墨の技法を用いています。焦墨には独特の難しさがあり、筆で一気に描き、少しもごまかさないことが求められます」という。崔氏には壁に描く習慣がなく、絵はいつも机の上で描いてきた。彼は「机の上で見えるのは約1から2メートルの局部です。熟練した芸術言語と長期の絵画経験を頼りにしてこそ、『近くはその質を、遠くはその勢いを取る』という効果に到達できるのです」と話している。

事実上、近年の崔氏の焦墨作品には現代的抽象の意識が満ちている。山水の山や谷、あづま屋などの建物などが、みな焦墨によって解体され再構築されている。観衆は美術館に足を踏み入れたとたん「こんな抽象的に描くとは!」と驚き叫ぶ。おそらくこうした「抽象感」は、伝統的な批評言語の中の「非具象」がよりふさわしいかもしれない。中国美術館の呉為山館長は、崔氏の作品の最も高く評価されるべき点として、見るととても抽象的で実際には意象(イメージ)的な表現であるが、しかし画面に内在するものはまた非常に具象的な表現を備えており、この三つが一体に融合し、画家の筆墨に生活の情感と精神的な求めが満ちていることを挙げている。中国国家画院の張暁凌副院長は、崔氏の芸術は比較的正確に中国的精神、中国的風格という概念を説明しており、中国的気魄であり、中国的風格であると考えている。

 

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