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一人では完成させられない作品

 

 

細密画の細かさを目指す

静まりかえった楊柳青画社の室内では、全員が手元の作業に集中していた。周佩龍・中国共産党楊柳青画社総支部委員会副書記(58)によると、同画社では多数の制作プロセスがあるが、一人の職人が把握できる段階は最多でも2つのみであるため、各段階が継ぎ目なくつながるようにしてこそ作品の完成度が保証されるという。言うなれば、楊柳青年画はたくさんの人々による努力の結晶だ。プロセスの後半においては、手作業の彩色が重要で、絵師の一筆一筆が作品の効果に関わる。重ね刷りをメーンとする他の木版年画と比べ、楊柳青年画の彩色は大きな割合を占めている。

彩色部門では、いくつもの可動式の間仕切りの上に無数の年画が貼りつけられていた。そのうちの1カ所で、絵師が竹製のへらを使って完成した年画の端を慎重にはがしている。専門用語で「下墻」と言われる作業だ。ここで十数年の経験を持つ王艶さん(34)にとって、彩色の中で最も特徴的と思われるのは、20以上のプロセスがある顔部分の彩色だという。まるで女性の化粧のように、まず下地を塗り、顔の輪郭や鼻、目などにぼかしを入れ、それから本格的に色付けする。ポイントとなるのは顔の輪郭描きで、特に年画によく現れる子どもの顔は一筆でゆがみのない円を描かなくてはならず、これだけでも習得に2年かかる。また、「画門子」と呼ばれる年画を貼り付ける板にもこだわりがある。全て手作りで、木枠と骨との接合部分にはほぞが使われており、くぎは一つもない。骨組みができると、クラフト紙やざら紙、新聞紙などを何層も貼り重ねる。しばらく経つと黄色く変色して使い物にならなくなるため、新しい紙を貼り足す。こうして貼られた紙はどんどん厚くなり、画門子もどんどん重くなる。

楊柳青年画は絵師が一筆一筆描き上げたものだと言っても過言ではない。筆遣いや色調を大切にし、きめ細かく美しい人物を描くために、ほとんどの作業で細密画のような細かさが求められる。王文達さんはそんな楊柳青年画について自分なりの見解を持っている。「他地域の年画は農村の雰囲気が濃厚で、直接的な色使いをしていて、あまり優しい感じの配色ではありません。一方、楊柳青年画は色彩が豊富な細密画の特徴を受け継いでおり、細密画に近いところがあります。昔、楊柳青年画の上等品は『貢尖画』と呼ばれ、宮廷に献上するものだったので、緻密さが求められました。創作過程において、上海の海派画家や北京の宮廷画家などの協力があったため、格調・品質共に高いレベルの年画ができたのです」

楊柳青年画の表装作業。板の横に掛けられた細長いものは「鑲活」と呼ばれる表装の道具で、年画の視覚効果を調整する

若い世代が魅力を伝える

楊柳青年画は民間文化の宝として、天津で伝承と保護の対象となっている。周副書記によると、同画社には現在2人の国家級伝承者が在籍し、彼らの指導の下で若い弟子たちがどんどん育っているため、伝承が途切れることはないという。創作に励んでいる若者は80人ほどいて、大部分が美術系学校の出身だ。印刷部門に在籍する左玥さん(30)はインタビューの時、はけで黒インクを版木に塗りつける作業中だった。繰り返し塗った後、固定した画仙紙を版木の上に置き、黒い線がはっきり出るまでばれんで叩く。このように毎日600枚以上、線画の原稿を印刷する。一見退屈そうな作業に見えるが、左さんはそう思っていない。「この作業には高い技術が必要です。インクの均等な塗り方、押す時の力加減などどれも奥が深い。それから色刷りには通常1枚の絵に対して異なる色の版木が何枚かありますが、もしそのうち一色の位置がずれたら、作品全体が駄目になってしまいます。なので、できあがった作品を見ると達成感がありますね」

楊柳青画社は年画を基にした派生商品を積極的に開発している。写真は内画壺で、鬼を捕まえる神として唐代(618~907年)から伝わる門神「鐘馗」が描かれている

年画文化の普及に注力している同画社では、毎年旧暦12月23日から2月2日まで、楊柳青木版年画博物館で春節年画展を開催している。来場者に年画の民俗を紹介すると共に、経験豊かな職人による実演や、子どもが参加できる印刷体験なども用意し、年画の知識や楽しさを体感できるイベントとなっている。さらに海外にも飛び出し、中国の伝統芸術の神髄を異なる国の人々に紹介している。今年7月には、天津市と千葉市の友好都市提携30周年を記念して、千葉市美術館で楊柳青年画の展覧会が開かれる。周副書記によると、日本で過去に開催された展覧会では現代的な題材が多かったが、今回は、演劇の登場人物などの伝統的な題材が多くなるという。楊柳青画社によって博物館の所蔵品から選ばれた各時期を代表する20作余りの年画は全て海外初公開。さらに中国国内でも未公開の古い版木6枚も含まれる。展覧会期間中、第5代伝承者である張凱さん(30)が輪郭取りや彩色の実演を行い、日本の参観者と交流する予定だ。

 

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