「中国の人件費コストの急速な上昇や、一部日本メディアの“中国崩壊論”を煽る恣意的な報道など複数の要因を受け、日本企業の中国での投資意欲は低下がみられている--」。中日経済・貿易関係の冷え込みについて、中国社会科学院・日本研究所の張季風・所長はこう指摘した。なかでも、中国経済が「新常態」(ニューノーマル)時代を迎えた一方、中国での投資に対する日本企業の考え方は以前と変わらず、加えて日本メディアの誤解を招くような報道などを受け、一部の日本の中小企業が中国経済や投資の先行きを正確に判断できていない状況だ。張所長は、中国の中間層人口が向こう数年以内に現在の4億人から6~7億人に増加すると予想され、こうした巨大な市場に無限の商機が潜んでおり、対中投資において日本企業はもっと長期的で戦略的な視点に立つべきと進言している。
ここ数年の推移を辿ってみると、中日の経済・貿易協力関係に転換点が訪れたのは2012年だったことが分かる。12年以降の4年連続で二国間の貿易額はマイナス成長が続き、日本の対中直接投資も3年連続で前年を割り込んでいる。ジェトロ(日本貿易振興機関)が今年2月に発表したまとめによると、15年の中日貿易額は前年比11.8%減の3033億米ドルに落ち込んだ。貿易額の2ケタ減はリーマンショック直後の2009年以来6年ぶり。それとは対照的に、15年の中韓貿易額は約3000億米ドルに拡大。中韓自由貿易協定(FTA)の締結が追い風となり、中韓の貿易規模は今後も拡大が見込まれている。張所長は、「日本のGDP(国内総生産)は韓国の4倍に相当する。一方で、中韓の二国間貿易額はすでに中日貿易に近づいている。これは中日貿易の衰退を象徴しているとも言える」と指摘した。
冷え込む中日経済・貿易関係:日本企業の思考転換が急務
中日経済・貿易協力の衰退について、釣魚島(日本名・尖閣諸島)をめぐる問題など、日本政府の右傾化行動による中日関係の悪化に加え、経済面でも以下の要因が挙げられると張所長は指摘している。
(一)中国で人件費コストが急速に上昇している。一部の地域で賃金はすでに東南アジアの数倍に達している。これによって中国製造業の全体的な競争力が低下している。(二)大幅な円安を受け、日本企業の中国での売上高が目減りし、新規投資の機会が徐々に減っている。(三)中国経済が「新常態」時代を迎えた一方、中国での投資に対する日本企業の考えは改められず、以前と変わっていない。中国経済のモデル転換、グレードアップから生まれる新たな商機を充分に認識できていない--。
また、張所長は日本メディアの「中国崩壊論」を煽る恣意的な報道も主因の一つと指摘。
「日本の書店に行けば分かるが、“中国脅威論”に代わって“中国崩壊論”が日本社会で大々的に取り上げられている」と張所長は話す。日本の有識者や大企業が真の中国を理解できるものの、中国の実情に触れる機会の少ない中小企業はこうした誤った論調に騙され、中国経済や投資情勢の先行きを正確に判断できない状況に陥っている。
中日関係はここ数年、波乱が絶えなかった。中国のGDP規模は2010年に初めて日本を超え、15年には日本の2.3~2.4倍に達した。以前の「日強中弱」から現在の「中日二強」に様変わりするなか、二国間関係は今まで経験したことのない領域に入り、トラブルが起きやすい状況になった。さらに、中日関係の背後には「米国要素」も存在する。張所長は「中日の二国間で問題が起きる度に、大体は背後にその“米国要素”が働いているのだ」と指摘する。
中日経済・貿易協力の先行きは依然明るい
今後の中日経済・貿易協力関係はどうなるのか。
張所長は中国網記者の取材に対し、「中日経済・貿易協力の先行きは依然として明るい」との見方を示した。2010年以降、中日の経済関係が転換期を迎えたものの、日本にとって中国は依然として最大の貿易相手国で、中国との貿易額は日本貿易額全体の5分の1を占めている。双方の協力関係も深まりつつある。協力方式は貿易・投資から財政・金融へ、協力分野は単なる製造業からサービス業へと拡大し、投資エリアも以前の沿海部から内陸部へシフト。これらは「新常態」時代に突入した中国経済の変化とも相応している。
波乱が絶えず、時には不協和音も聞こえるが、協力とウインウインの理念は依然として中日両国経済界の幅広い共通認識だ。日中経済協会会長は15年11月、日本経団連、日本交商工会議所と共同で、日本の経済界を代表する訪問団を初めて中国へ派遣。参加者は220人を超え、過去最高を記録した。団長を務める宗岡正二氏は、訪中団の規模が「中国経済の持続かつ安定的な成長に対する日本経済界のポジティブな見方を反映している」と指摘した。また、日本の木原誠二・外務副大臣はこのほど、公の場で「より多くの中国人観光客を誘致するために、日本政府は中国国民に対するビザ免除政策の導入を検討している」ことを明らかにした。
中国の李克強総理は今年3月中旬に開かれた記者会見で、中日経済・貿易協力の見通しを尋ねた日本経済新聞記者の質問に対し、「中日間はスマート製造、科学技術など、高品質製品を追求する人々にニーズに応えるものづくり分野において協力のポテンシャルが大きい。中日韓の3カ国は相補性が高く、手を取り合い、より広い世界市場をともに切り開くことができる」と語った。
「90年代初期ごろは、中国の街には日本のパナソニックやソニーの広告がよく見かけていた」と話す張所長。「中国人の平均賃金は当時、数十元ぐらいだった。日本製家電を買うのは贅沢なことだ。しかし、数十年後の今、状況は一転している。東芝、パナソニック、シャープなど日本家電の老舗ブランドから中国企業が相次ぎ事業を買収している」。足元で中国の中間層は約4億人だが、今後は6~7億人に拡大すると予想されている。こうした巨大な市場には無限な商機が潜んでいる。中国側は広い市場と潤沢な資金、日本側は技術と管理のノウハウを持つ。大気汚染対策、ハイエンド製造、有機農業、高齢者向けサービスなど多くの分野で中日は協力できる。張所長は、「中国での投資に対する日本企業の思考転換が急務だ。日本企業はもっと長期的で戦略的な視点に立つべき」と指摘した。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2016年4月12日
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