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「リーダー」としての中国に望むこと

 

元内閣総理大臣 福田康夫

5月中旬に行われる「一帯一路」の国際フォーラムは、参加国の首脳やVIPが一同に介して顔合わせをし、協力の意志を確かめ合う場だと思っています。発案者の中国がリーダーシップを取り、その考えを理解してもらうための場になれば大成功ではないでしょうか。

 

「一帯一路」は正しい選択

世界経済発展のために、グローバリゼーションは必要な仕組みで、国と国の間の塀を低くすることでモノやお金を自由に交流させ、大きな利益をあげようというものです。グローバリゼーションが貿易はもちろん、人的交流や文化交流にも起こったことで、世界経済全体のレベルの引き上げが自然に生まれているのは非常にいい傾向だと思っています。

 私はグローバリゼーションと「一帯一路」には共通点が多いと思っています。グローバリゼーションを推進させるためには、自国の利益のみを追求していてはいけません。他国の利益も同じように考えないと恩恵は返ってこないのです。「一帯一路」の理念は「共に発展を」だと私は考えています。この発想はグローバリゼーションに沿っていますから、中国が今、「一帯一路」を提案しているのは正しい選択だと思います。

共に歩むためのリーダーシップを

「一帯一路」の発想の具体化はすなわちグローバリゼーションで、誰もが豊かな生活を送れる社会をめざしています。そして、「一帯一路」を提言した中国は必然的にリーダーシップを取るべき立場にあります。

 急速な発展を遂げた中国が、「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)を採り上げたのは良いタイミングだったと思います。経済が発展し、国民の生活レベルが大幅に向上した今、中国だけの発展はあり得ず、周辺諸国も同様に発展するための制度や設備、インフラなどを整えていく必要が出てきました。中国は鄧小平氏の改革開放に基づき、1990年代後半以降に急速な発展を遂げましたが、これも政治の安定なしには実現できなかったことだと思います。

 確かに中国経済の発展には目を見張るものがありますが、我々にしてみればそのスピードはいささか速すぎるようにも思えます。発展への道を「歩む」のではなく、まさに「走って」いるという印象ですが、今後は安定期に向けて減速していくだろうとは思います。中国は大国ですから、多少の動静が想像よりも大きく見えてしまいます。その安定を支えるのが「一帯一路」であり、AIIBだと言えるでしょう。強くなった中国が、「ついてこい」ではなく、「みんなで一緒に成長していこう」という他国への責任感を持ち始めたことが伺われ、その点を評価したいと私は思っています。「一帯一路」の国際フォーラムでは、中国が参加国や地域に対する責任についてしっかりと説明していただきたいと思います。

 また、騒乱や紛争、政情不安は経済発展の障害になりますので、紛争を避けるための方策も一緒に考えていければ良いでしょう。グローバリゼーションの成果を各国がフルに享受するためには、紛争を回避することが必至で、そのリーダーシップを中国に取っていただきたいのです。こうした問題は「一帯一路」の仕事ではないと思われるかもしれませんが、グローバリゼーションの究極の目的は紛争の回避だと私は思っていますので、中国にその大きな役割を果たすという宣言を、フォーラムで行ってもらえればと願っています。

日本の経験を学んで「真の大国」に

ここ数年、日本人の対中意識悪化が問題になっていますが、急に大きくなった中国への驚きと共に、この「怪物」とどう付き合ったらいいのかがわからないという心情なのだと思います。これは日本だけのことではないと思います。ですから、中国には急に大きくなった自分の国が他国の目にはどのように映っているのかということを意識し、行動していくことが求められます。

 日本は80年代の急成長で、ジャパンバッシングを経験しています。米国に生意気だと思われているのに気づかず反発をし、日米関係が冷え込んだ時期もありました。70年代には東南アジアに経済進出したことが、現地の人々にかつての戦争や占領を想起させ、反日デモが起ったことがありました。

 今の中国はそんな日本の状況に似ています。経済成長で他国に恐怖心を抱かれた日本は今、以前の自分と同じような存在が隣国に出現したことで、全く逆の立場になったのです。

 70年代の東南アジアで対日感情が悪化した際、日本は「軍事大国にならない」「心と心が通う関係構築を」と提言し、ODAを増やしてインフラ整備に力を入れ、アジア開発銀行の設立を行うなどで理解を求めました。この日本の失敗と経験から学び、適切な処理ができた時に、中国は「真の大国」になり得るでしょう。「一帯一路」やAIIBを今のタイミングで進めるのは、まさにその一歩なのです。

日中関係回復の「起爆剤」

 日本と中国は多方面で地域のリーダー役を果たしていくべき存在ですから、両国がケンカをしては話になりません。日中関係は新しい時代のために緊密な関係をつくり、前向きに進んでいくための起爆剤にならなくてはいけません。

 「一帯一路」は起爆剤に十分なり得ますし、ならなくてはいけない存在だと思います。現在、中国から多くの観光客や留学生が来日していますが、特に留学生はその半数以上が中国からと言われるほどで、若い人の相互理解は進んでいると言えるでしょう。「一帯一路」を起爆剤に、この好機をさらに盛り立てていけば良いのではありませんか。

 経済面においても同様です。中国向けの日本製品はすでに多くが中国々内で作られており、たとえば従業員3000人クラスの工場で日本人はわずか5人程度、あとは全て現地雇用というケースもありますから、近代的な製造ノウハウを、すでに中国人は会得しているのではないかと思います。

 ただ、大企業の製品に使われている一部の部品は、時間をかけて体得した技術の集積を誇る日本の中小企業によるもので、その技術こそが、日本の産業にとって最大の強みであり、「匠の精神」を代表するものです。「匠の精神」の一例として寿司職人の仕事を見てみると、例えば魚を薄く切る作業の習得ひとつにも何年もの時間を費やすといいます。本物の技術を習得するというのはそういうことで、ハイテクも同じことです。恐らく中国も昔は同様にしていたのではないでしょうか。

今は急成長の最中なので、技術の習得を待っていては間に合わないということでしょうが、そろそろ時間をかけて技術をものにする必要を考える時期に中国もさしかかっているのではと思います。「一帯一路」で付き合う周辺国のペースはゆっくりですから、中国もそうした国に多少はペースを合わせていただければと思います。

 日中国交正常化45周年の今年に際して願うのは、中国が健全に発展し続けることです。同様に日本も発展に向けて努力を続けることで、お互いにうまくいくでしょう。そのお互いのがんばりを正しく国内外に伝えるために、メディアは存在します。『人民中国』にはぜひその重要な役割を果たしていただきたいと思っています。(写真呉文欽/人民中国)

 

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