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20年続く「北京好き」の集い

 

中国好きの者たちが集まってつくった東洋文化研究会(じゃすみん倶楽部)が今年で20年になる。

雑誌の編集者だった私は、1976年に初めて中国に行き、その後、毎年2回ほど中国取材をし、大型のグラフ誌の特集を担当した。

中国では、そのころから少しずつ外国人が足を踏み入れることのできる「開放都市」が10都市から次第に開放されていき、今までまったく知られなかった都市や観光地、その歴史を初めて一般の日本人の読者に紹介することができるようになった。

私はカメラマンと2人で中国の各地を取材して歩いたが、どこに行っても珍しく、何を聞いても新鮮だった。

『中国・旅の大地図帳』や『SL大陸中国の旅』という大型ムックを作り、また台本を自分で書き、『赤い動輪』という東映映画の制作にかかわったこともある。

ところがサラリーマンの常で、社内の人事異動があり、私は中国取材とはまったく縁のない別のセクションに変わり、仕事の上では中国に行けなくなってしまった。このまま中国と縁が切れるのかと思うと残念だった。そのころには私自身、中国関係のいろいろな人と知り合いになり、それなりに自分では「中国人脈」ができていると思ったのである。

そこで中国関係の私の知人に連絡を取り、月に1回集まって、中国を語る、あるいは「中国の話を聞く」会を始めた。これが東洋文化研究会の始めである。

会員は、元中国特派員、学者、学生、翻訳家、編集者、また中国にかかわりのあるサラリーマンもいた。

千差万別が継続の秘密

京劇俳優の石山雄太さんを囲んでの研究会

20年目の現在、会員はほぼ百人とちょっと。メールで、連絡事項やお知らせ、耳寄りな中国情報、中国に関するテレビ番組や映画の紹介、会員の関係した中国関係の本の新刊案内などを送っている。また月に1回例会を開き、講師を招いて話を聞いている。大学の研究会と違い、テーマは極めて幅広く、政治問題から文化、歴史、風俗、習慣などなど、千差万別である。

この千差万別が、研究会が20年も続いたひとつの理由ではないかと思う。思えば中国も、そしてわれわれ日本人会員も、この20年間におおいに変わったものである。

かつての取材、研究は、代表団でなくては中国に入れず、しかも自由行動はできず、旅行期間も2週間という制限もあった。

そういう時代に比べると、現在では、日本人の長期留学が容易になり、現地で言葉に習熟し、現地の言葉で取材ができるようになった。さらに最近では、普通話(=標準語)だけでなく、少数民族の言葉を話せる研究者も増え、現地で直接、取材が行われている。

また往来がより自由になり、中国から日本へやってくる留学生、博士課程に在籍する大学院生も増えた。彼らは日本人が気がつかなかったテーマや避けていた分野でも研究を行っている。そうした彼らも研究会に呼んで直接、話を聞いている。

この20年に、日中両国ともにさまざまな研究が、しかも幅広くそして深く行われるようになった。これは画期的な変化であろう。

庶民の暮らしを丁寧に紹介

このたび20周年を記念に、会員にそれぞれ自分の日頃興味を持っているテーマで原稿を書いてもらい、本を出版することにした。

それが『北京探訪 知られざる歴史と今』(東洋文化研究会編 愛育社刊 1800円)である。

執筆者である彼ら、彼女らは、少なくとも20年以上、中国にかかわってきた人たちであり、留学、あるいは長い間、北京に滞在経験のある人が多く、テーマも普通のガイドブックでは紹介されていないバラエティーに富んだ、突っ込んだ内容のあるものだ。「本当は教えたくない北京の知られざる文化や歴史と庶民の生活」が丁寧に語られている。

北京の旧名を燕京というが、北京が好きで北京に「はまり込んだ人」のことを「燕迷(イェンミー)」という。これ1冊で燕迷(北京通)になること間違いなしの本である。

私たちの東洋文化研究会は、同好会ではあるけれど、みんな一生懸命学習し、努力している。この20年間に、みんながそれなりに中国に関して得意な分野で活躍するようになった。また自分のテーマで本を書いた人も多い。

昨今の日本の高齢化社会においては、同好の人たちが集い、目的を持って何かをする、という同好会づくりが盛んだ。われわれはその「先駆け」だと思っている。いままでの会社を中心にしたコミュニティーとはおおいに違い、強制されていた仕事、強制されていた人間関係の輪から飛び出して、自由に好きなことに没頭できる。

大切なことは、会のなかで、自分自身の目標を持ち、それぞれの人が(スタートはどこであれ)一歩一歩階段を上がっていくことである。

「生涯教育」といった上からの運動ではなく、ひとりひとりが意志を持って自分の向上を図ること、そうしたことがまた、「研究会」が20年続いた秘密ではないだろうか。

 

細川呉港
東洋文化研究会主宰、作家
 早稲田大学卒業後、集英社入社。1976年より中国を精力的に取材、東洋文化研究会を立ち上げ、中国研究者の交流の場をつくる。著書に『満ちてくる湖』(平河出版社)、『草原のラーゲリ』(文藝春秋)など。

 

 

 

 

 

 

 

人民中国インターネット版 2009年10月

 

 

 

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