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日中の懸け橋をめざして

宇佐美希

私が中国に関心を持ったきっかけは、高校在学中に起こった日中間の「島」を巡る領土係争だ。それからどんどん日中関係が冷え込んでいくのを見て、「今の日本と中国にはパイプ役となる人が十分にいるのだろうか。私自身が日中の懸け橋になりたいし、懸け橋となる仲間を増やしたい」と思うようになった。それ以来、日中間で歴史認識・領土問題について率直に討論する学生フォーラムを開くのが私の夢である。

高校時代までは中国人との関わりが全くなく、テレビの偏った報道を見て漠然と「中国人ってよくわからないけど怖いのかな。私たちと違うのかな」と思っていた。しかし、大学入学後、本当に仲の良い中国人の友達ができ、中国語を教えてもらったり、一緒に旅行にいくうちに、以前のような漠然とした中国へのネガティブなイメージはなくなった。仲の良い友人ができたことで中国人と分かり合いたいという気持ちが一層強くなったのだ。国として様々な問題を抱えていることはたしかだが、だからといってそこに暮らす人々にまで偏見を持ちたくないと思うようになった。その友人に「テレビで放送されている日本に抗議する暴力的なデモなんか、ごく一部の中国人しかやらないよ。真に受けて中国を嫌いになったりしないで欲しい」と真剣な顔つきで言われたことは忘れられない。また、親しい中国人や韓国人の友達と、夜中に領土問題や教育問題、歴史認識や各国の政治のあり方について語り合うこともしばしばあり、その際相手に配慮しつつ自分の意見や疑問点をぶつけられるのは、社会的に重要な立場がなく、経済的利害関係のない学生ならではだ、と痛感した。デリケートな問題だからこそ、相手を傷つけないように配慮をしながら、積極的に話し合っていくべきだ、という自分の考えが更に強くなった。

友好的な中国人の友人たちに共通しているのは、皆幼少期は学校や大人たちの「日本は悪い」という一方的な話に染まっていたが、日本のアニメや漫画などの文化に興味を持ってから日本を好きになり、日本と自国の政治的関係にも関心を持ち始めたということだ。私はこれまで文化交流を甘く見ており、直接政治に働きかけなければ今の日中の冷え込んだ関係は何も好転しない、と考えていた。しかし、子供や若者にとって、難しい理屈をこねて日中友好を説くより、アニメや漫画などをきっかけに「この言葉を勉強したい!」「この話の舞台に行ってみたい!」というワクワクした気持ちで日本に興味を持ってもらうことの方がずっと易しいし、何より楽しい。今までの私のように眉間に皺を寄せながら政治的問題にばかり向き合うのでなく、「相手の国が好きだ、相手を知りたい。」というポジティブな気持ちを育てることの大切さに気づいた。

先日は、虎の門ヒルズで行われた第10回東京―北京フォーラムの政治対話を傍聴した。政治対話の場を作る際の参考にするための勉強に行ったのだが、討論した際に突っ込まれるポイントなどのメモをとる手が止まらなかった。前から3列目の中央付近に座っていたのも幸いしてか、質疑応答も当てていただき、東京外国語大学中国語科の大先輩をはじめ、様々な方々とお話ができ、非常に有意義な時間を過ごせた。日本人と中国人で政治対話をすると大抵水掛け論になり、話し合いが平行線で終わってしまう、というのは私自身の悩みでもあり、他の日中交流団体の方々からもよく耳にする話である。対話で何も得られなかったような気持ちになってしまい、この対話に何の意味があったのか、続けていく価値はあるのかと葛藤することも多かった。しかし、フォーラムに参加し、日中の知識人同士でも水掛け論になったり、思わず感情的になる場面に出くわしたり、最後に中国側の司会者が「今回の対話で得られた合意はなにもありませんね」と言って笑いを誘っているのを見ると、必ずしも毎回の対話で合意や成果を求める必要はないのだということに気づかされた。プロの政治家や知識人でも合意を得ることは難しいし、何をもってフォーラムを成功とみなすかの明確な基準はないのである。水掛け論になるのは免れないと割り切って、相手がどうして自分と違う考え方をするのか、共存するのに何が必要か、それを対話する場をつくることが大切だ。また、フォーラムは単発ではなく、定期・長期的に開き、各回の成果や話し合いの内容を記録・発信し続けていくことの必要性も感じた。相手と意見交換をする機会を頻繁に持ち、対話を目に見える形に残して反省を重ねていけば、冷え込んだ日中関係も改善されていくと信じている。

私は現在、京英会という日中交流の学生団体に所属しており、このたび次期代表に任命していただいた。私の熱意が現在の代表に伝わり、1年生にも関わらず大役を任せようとしてくださるのは大変ありがたいし、責任を感じている。「日中のパイプになる仲間を増やすため、定期的なフォーラムを開く」という高校時代からの夢を実現させるために今は企画中だ。大学生活も中国語学習も始まったばかりだが、日中の懸け橋となれるよう日々邁進していきたい。

 

人民中国インターネット版 2014年12月

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