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ケンカしても折り合える関係を―仁坂吉伸 和歌山県知事インタビュー

 

于文=聞き手 呉文欽=整理・写真

 

 

 1972年の中日国交正常化の際、中国から贈られた初のパンダが東京の上野動物園にお目見えし、日本国内にパンダブームを引き起こした。しかし、パンダの繁殖は難しく、多くの動物園が試行錯誤を重ねる中、和歌山県のアドベンチャーワールドは成都動物園との共同で成功を収め、今では多くのパンダを中国に送っている。この事業に大きく貢献したのが、仁坂吉伸知事である。 仁坂知事は通商産業省(現・経済産業省)当時に、中国から日本へのパンダの輸入や中国との経済交流の活性化に尽力し、和歌山県知事就任後も北京へ赴き、自ら観光プロモーションを行うほど中国への理解が深い。廃線の危機に直面していたローカル鉄道の和歌山電鐵貴志川線を、猫の「たま駅長」の就任で救ったことは、猫好きが多い中国でも話題になったが、中国をよく知る知事は猫好きな中国の人々にはさもありなんと受け止めている。 現在は友好関係にある山東省と共同で環境保護などの交流事業や、若手の県職員を山東省に派遣するなど、独自の交流も推し進めている仁坂知事。その「中国観」は冷静な分析に加え、長い目で中国を見ることの大切さを物語っていた。

 

――インターネットの威力で、「たま駅長」は今や世界に知られる「名物駅長」になりましたね。今回改めて調べたところ、中国のネットでもすっかり有名になっていることに驚きました。

仁坂吉伸知事 中国の方は動物の中でも特に猫が好きですから、ヒットも大いにあり得ると思っていました。実際に会いに来る方も増えているようですよ。 初代たまは、貴志川線を運営する両備グループの小嶋光信社長が「『私を駅長にしてください』と言っている」とスカウトし、「客招き」を業務に駅長を8年務めてもらいましたが、2015年に亡くなり、今は貴志駅構内の「たま神社」に祭られています。現在は2代目の「ニタマ」が駅長です。

 

昨年11月、仁坂知事は北京と山東省を訪問し、観光業を中心に関係各所へ向けてトップセールスを行った。写真は和歌山県内観光事業者とともに李金早・中国国家旅游局長を訪問した時のもの。和歌山の観光資源とインバウンド誘致の取り組みや、山東省との友好関係の状況について説明を行った。会談では双方向での観光交流が大切であるとの認識のもと、交流のさらなる推進のために、和歌山県へのインバウンド誘致の協力依頼とともに、中国が実施するプロモーションに和歌山県として協力することを伝えた

 

――中国人の猫好きまでご存知とは、中国理解も相当とお見受けします。初訪中はいつですか。

仁坂 私は1974年に通商産業省に入り、幹部になってからは中国経済の担当をしていたため、月に1度くらいのペースで訪中し、2000年に始まった「西部大開発」のサポートや、当時問題になっていた知的財産権の保護に関する「知的財産ミッション」を取り仕切るなど、経済交流の活性化に尽力しました。中国のガバナンスや行政のやり方に、日本が見習うべき点は多々あると感じています。日本は政策決定への批判を積極的にするものの、その内容は具体性に欠けることがあるのに対し、中国は批判よりも対案で解決しようとしています。当時の朱鎔基総理は、提案の利点と欠点を全て聞いてから良いものを採用するという方法を採っているとお聞きし、素晴らしい指導者だと感嘆しました。また、訪中のたびに感じる発展の活力や、大学生の勤勉さも素晴らしいですね。技術交流で清華大学を訪問した際、副学長との会話で、いかに日本の学生が勉強していないかを痛感させられました。そのような頑張りが今の発展を支えているのでしょう。

 

中国三大旅行社の一つであり、送客数でも最大手の中国青年旅行社の焦正軍・執行総裁をはじめとする同社幹部を訪問。焦執行総裁からは、和歌山周遊ツアーの販売が新たに紹介され、今後の和歌山の観光PRに協力することや、中国観光客のニーズにあわせたネットを活用した具体的な集客手法への助言があり、今後も連携してPRの実施に向け取り組むことが決定した 

 

――その経験と理解がパンダ育成に結び付いたということでしょうか。中国では、たま駅長ほどパンダ育成の認知度がないのが残念です。中国でもパンダを見たことがないという人は意外と多いんですよ。

仁坂 そうでしたか。てっきり中国の方はパンダをしょっちゅう見ているのかと思い、プロモーションではほとんど触れてきませんでした。パンダ育成で成功を収めた例は、中国国内の繁殖例を除けば和歌山が一番でしょうから、今後は積極的に話していきましょう。 1972年の国交正常化の際には友好の証としてパンダが贈られましたが、その後パンダを中国から借りて飼育するという方向に変わっていきました。そこで和歌山県にあるアドベンチャーワールドではただ借りて見せるだけでは面白くない、中国と協力して共同でパンダを増やしていこうと考え、育成の実験を成都動物園と共同で行い、世界のパンダ育成に貢献しようという結論を出したのです。一部の人の「動物園に輸入許可をするな」という反対意見と、動物園の現場からの、種の保存と動物との触れ合いの大切さを説く声が真っ向から対立しましたが、時間をかけて検討し、94年にパンダを無事迎えることができました。今の成功は、より自然に近い状態での飼育というコンセプトを持った和歌山の飼育スタッフと、中国第一級の研究員の指導が、共同研究で合わさった結果です。貸与された3頭のパンダからすでに15頭が生まれ、現時点では8頭を中国に返しています。

 

さらに中国三大旅行社の一つで、中国で最も古い歴史を持つ旅行会社、中国旅行社総社の張士剛・副総裁をはじめとする同社幹部を訪問。張副総裁からは、東京から大阪に至るゴールデンルートに続く新しい旅行先として和歌山を歓迎し、和歌山周遊ツアーの具体的な行程案についての提案なされ、今後、積極的な販売に向けて取り組む旨が表明された 

 

――一昨年は和歌山県を訪問する外国人観光客で、中国人が1位になったそうですね。和歌山の魅力を教えてください。

仁坂 中国の雄大な風景とは対照的な、地形の変化に富んだ景観は、中国の方々にとっては新鮮でしょう。また、穏やかな気候や、きれいな海でとれる新鮮な海の幸、豊富な温泉も魅力的です。観光資源は、空海ゆかりの真言密教の聖地「高野山」や、和歌山県南部の神社が密集する聖地「熊野三山」の、現地を訪ね歩く旅がお薦めです。今後はヨットなどのマリンスポーツを長めの滞在で楽しんでいただきたいですね。

 

和歌山県と山東省とは、32年前に友好提携を構築して以来、さまざまな分野で緊密な交流が行われている。昨年の訪中では郭樹清・山東省長と会談を行い、両県省の交流における成果などを確認した 

 

――ところで和歌山県と山東省は友好関係にありますが、今までの協力について教えてください。

仁坂 最近では昨年11月に山東省を訪問して郭樹清省長と会談を行い、これまでの交流の成果を確認するとともに、今後の交流強化を約束しました。 07年時点で私が特に提案したのは環境協力でした。高度成長のころ、和歌山県も鉄鋼業や化学産業による公害や、樹木の伐採による環境破壊を経験していますので、技術者を山東省に派遣してレクチャーを行う、中国から視察団を迎えるなどの交流は、山東省からの評価も高く、前向きな協力体制が敷かれています。経済の成長過程にポリューション(汚染)は不可避ですが、それを克服するのもまた技術です。日本が時間をかけて取り組んだように、中国にも時間をかけて取り組んでいただきたいと思います。また、和歌山独自と思われるのは人材育成です。飛躍的な発展を遂げる中国で語学の学習や現地での人脈の形成のため、現在では県庁の若手職員を毎年1人、山東省に派遣しています。

 

中国で最も影響力のあるといわれる「上海世界旅行博覧会」は、2016年の5月に14回目を迎えた。和歌山県も4日間で約6万人が来場した会場にブースを構え、エージェントと一般来場者に向け、和歌山県の観光資源をPRした 

 

――中日国交正常化45周年に際し、両国関係の今後が注視されています。将来への見通しを聞かせてください。

仁坂 人間同様、国と国にも仲が良い時とケンカをする時があるものです。争いに100%の勝ちはなく、完全な言いなりも世界秩序を崩壊させてしまいます。日中関係も同じで、ケンカをしながら折り合っていくケースが今以上に多くなるのではないかと思っています。 過去に戦争をした反省と、永遠に戦争を放棄した立場から、日本人は中国に対して今も罪の意識を持っていますし、国家間の争いには両国民とも慣れていません。ですから、もめ事が起こった時には拡大しないよう議論を重ね、双方で理解し合うという心掛けを続ければ、両国は今以上に仲良しになれるものと信じています。

 

昨年の5月22日から25日にかけて大連市で開催された「第27回大連アカシア祭り」には、中国の内外から12万人が訪れた。会期中に行われた「中日観光大連ハイレベルフォーラム」では和歌山県もブース出展を行い、世界各国からの自治体とともに和歌山の魅力を発信した

 

人民中国インターネット版 2017年3月1日

 

 

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