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多くの人材生んだ北京

 

北京原人の化石が発掘された周口店

   北京の最大の魅力は、この土地に、人類が50万年にわたって絶えることなく営々と生き続けてきたことだろう。

 

 50万年前の人類である北京原人(シナントロプス・ペキネンシス)の化石が北京西郊外の周口店で発掘されたのに続いて、20万年前の人類である新洞人、2万年前の人類の山頂洞人の骨や歯、石器などが周口店一帯で出土した。また、1万年前から45000年前の新石器時代の遺跡になると、北京の東西南北あちこちで見つかっている。

 

 これに続いて北京に現れたのは燕という国だ。紀元前1046年ごろだといわれる。このあたりからの北京の歴史は文字にも記され、北京にかかわりのある人物の名前も浮かびあがってくる。

 

 秦の始皇帝は、北京を視察したさい、万里の長城拡充の指示を下した。続く前漢の初代皇帝、劉邦は、反漢軍を追って北京の土を踏んでいる。後漢の初代皇帝、劉秀は即位の前の年に北京を占領した。三国時代では、蜀の劉備は北京生まれの北京っ子だった……。

 

 このようにして、北京の歴史をひもといていくと、中国の歴史に名を残した人物が、次から次へと北京の舞台に現れる。数千、数万にのぼるこうした人物から、日本での知名度なども考えて選んだ3人を、歴史の順に記してみよう。

 

 まず、北京に都を置いた最初の国である戦国時代の燕の人で、大臣だった郭隗。この人は、日本でもよく使われる諺の「隗より始めよ」の主人公である。

 

 燕は戦国時代の七雄のなかではいちばん北の弱国だったが、この燕が輝きを放った時代があった。昭王の時代だ。昭王成功のカギは、全国から優秀な人材を集めたことで、その人材集めの秘訣が「隗より始めよ」なのである。

 

 人材を集めたいという昭王の相談を受けた郭隗は「まず私め隗のような凡人を重用しなされ。隗のような奴が重用されるなら、俺が行けばもっと重用されるだろうと、全国から優れた人材が集まってくるでしょう」と提言した。

 

胡忠元の描いた毛沢東と楊開慧の絵

昭王がこれを実行し、郭隗のために景色のよい易水に別荘を造るなどしたところ、魏の楽毅、斉の鄒衍、趙の劇辛といった全国に名の知られている人物がやって来て昭王に仕え、燕を盛り上げたというのだ。ちなみに、「漁夫の利」という諺も、知恵を武器にたたかう燕を舞台にしたものだ。

 

 次は『三国志』の劉備。劉備は幽州菘県の人、菘県はいまでは河北省に属するが、その昔は燕の領地だった。北京とは北拒馬河一つへだてたところにあり、北京の郊外といった感じで、『北京文化綜覧』(北京師範大学出版社)などでは、劉備を北京人としている。

 

 勉強は嫌いだが武芸や音楽が好きで親分肌の劉備は、若者の間では人気者だった。劉備は、こうした若者を引き連れて、漢王朝に歯向かう「黄巾蜂起」平定に加わり、手柄をたてる。霊帝の中平元年(184年)のことだ。

 

 このとき、劉備と兄弟の契りを交わしたのが張飛と関羽で、張飛も菘県の人、つまり北京っ子だった。その後、劉備は仲間たちと漢末の乱世を渡り歩き、勢力を広げ、魏、呉とならぶ蜀の主となり、再び北京に帰ることはなかった。

 

 ちなみに、菘県には劉備、関羽、張飛がその前で兄弟の契りを交わした「結義石」と呼ばれる石が残されていて、観光のスポットとなっている。

 

 おしまいは毛沢東。毛沢東は湖南省の人だが、青年時代に2回、北京を訪れ、一年ほど北京で暮らした。1918年から1920年にかけてである。この1年は、毛沢東のその後に大きな影響を与えた。

 

 毛沢東は北京大学の図書館でアルバイトをしたが、館長は中国共産党の創始者の一人である李大鏸だった。毛沢東は天安門広場でロシアの10月革命をたたえる『庶民の勝利』という李大鏸の演説を聞いて感動している。

 

 『共産党宣言』を初めて手にしたのも、この時期だった。また、武者小路実篤の「新しき村」に共鳴し、故郷の湖南に「新しき村」を造る構想を練ったのも、この時期である。

 

 私生活ではのちに妻となる楊開慧との恋が芽生え、一緒に北京の胡同(横町)を散歩し、北京の古刹、法源寺に行ったのも、この時期だった。毛沢東が天安門の城楼の上から中華人民共和国の成立を宣言したのは、30年後の1949101日だった。

 

 3000年このかた、北京は郭隗、劉備、毛沢東をふくめてなんと多くの人材を生み育てたことだろう。北京の街には、こうした人たちの足跡が残されている。北京は、こうした人たちによって踏み固められた都なのである。 (北京放送元副編集長 李順然=文)

 

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