中国企業の海外展開と日本

 

江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。


2007年の年末、日本のある会計事務所の方と話をしていた折、「今後、中国企業は、日本の銀行、そして我々のような会計事務所との提携を積極的に仕掛けてくると思う」と言っていました。買収、資本参加、業務提携などの提携方法はいろいろありますが、モノ(中国製品)、ヒト(中国人観光客など)に続き、中国資本のこれまでにない大きな流れが、中国から日本に向かい始めたことを改めて実感させられました。

 

因みに、中国企業による日本の金融機関のM&Aはまだありませんが、日本以外では、2007年10月、中国工商銀行が南アメリカ・スタンダード銀行をM&A(同行の株式20%を取得)した事例、民生銀行が米国UCBHホールディングスの株式九・九%(将来的には20%)を取得したケースなどが指摘できます。

 

この数年、中国の海外展開には眼を見張るものがあるといえます。例えば、対外投資は過去5年平均して60%の伸びを示しており、2006年には212億ドルに達し、同年の対中直接投資額(630億ドル、実行ベース)のほぼ3割に達しています(注1)。

 

注目すべきは、そのほぼ四割がM&A方式となっており、中国の対外投資の主流になったということです。直近では、家電最大手のハイアール集団がインドの冷蔵庫工場を買収したケース、中国の民間企業がドイツの空港を買収し、欧州の物流拠点にしようとしたケースなどがあります。

 

このように、中国企業が、海外企業をM&Aしたり、海外に工場建設したり(注2)、また海外株式市場へ上場したりするケースが増えてきていますが、2007年に、中国政府が豊富な外貨準備を活用してファンド会社(中国国家投資公司)を設立したり、中国人個人による外国株購入を地域限定(天津―香港)ながら解禁したり、保険会社による海外証券投資に前向きに取り組むなど、海外展開の間口を急速に拡大したことは注目に値するでしょう。

 

日中地方間交流のカギ

 

日本にとって中国は、米国を抜き最大の貿易相手国となるのも時間の問題とされるなど、両国は「超」という一字がつくほど密接な経済関係にあります。さらなる両国関係の発展は、中国企業の対日展開に日本がどう向き合うかにかかっており、今、もっとも期待されている日中地方間経済交流の発展のカギがここにあるといっても過言ではないでしょう。

 

中国企業の対日展開は、まだ数えるほどしかありません。2005年末時点で、中国の対日投資残高は日本の対中投資残高のほぼ240分の1の規模との研究発表があります(注3)。ただ、2007年には、環境保護ソリューション(排煙脱硫、汚水処理など)の大手企業である「中国博奇環保科技有限公司」が東京証券取引所第一部に中国企業として初めて上場(注4)するなど、M&A方式が多かった中国企業の対日展開に新しい足跡が刻まれました。中国には海外上場予備軍が多数存在しており、今後、日本で上場し、そこで得た資金を日本企業とのビジネス連携(M&A、資本・経営参加、技術協力など)に活用する中国企業が増えてくるでしょう。

 

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