翻訳「五輪」が上海で開かれる意味

国際翻訳家連盟副主席
中国翻訳協会副主席兼秘書長
黄友義
1975年、北京外国語学院(現在の北京外国語大学)英語学部卒業、中国外文局に入り、外文出版社に勤務。翻訳の仕事に携わり、その後、中国翻訳協会秘書長に。現在は外文局副局長も務める。
――中国翻訳協会副主席兼秘書長として、中国の翻訳事業の現状をどのように考ていますか。

次の2つのことから、中国の翻訳事業は現在、新しい発展の段階にあると言えます。1つは、グローバリゼーションにともない、各分野、各専門の中国語と外国語の間の相互翻訳の需要がかつてないほどに増えているということ。もう1つは、各部(日本の省にあたる)と委員会、省・自治区・直轄市などが外資の誘致を積極的に推進しているため、翻訳の需要が高まっているということです。

中国の翻訳事業は「改革・開放」およびグローバリゼーションによって新しいチャンスを迎えましたが、それと同時に困難にも直面しています。中国は多くの精力と時間を費やして外国語人材を育成しました。しかし、翻訳者を育成してきたわけではありません。長い間、中国国内および国際社会には、外国語人材の育成イコール翻訳者の育成、という誤解が存在しているのです。

――他の国や地区はそういった問題をどのように解決しているのですか。

スウェーデン、オーストラリア、香港などの国や地区の有識者たちは、1960年代にはすでに、単に外国語を勉強しただけでは翻訳の基礎しか学べないということに気がついていました。そこで、大学の学部に翻訳の専門課程を開設しました。修士や博士課程にもあります。また、社会では翻訳の資格認定システムも作りました。

――中国の翻訳界はどのように解決していますか。

中国の翻訳界もこの問題を意識するようになり、1996年、中国翻訳協会は国内の大学に翻訳専門課程を設置するよう中央政府に提案しました。しかし残念なことに、当時は条件が整いませんでした。また、外国語を学んだ人は誰でも自然に翻訳か通訳の資格があるはずだと考えられていたこともあります。私たちは当時、それならどうして、私たちは中国人なのに中国の多くの大学に中国語学部を設置することに疑問を持つ人がいないのかと問い返しました。

2003年、人事部は社会の需要に応じて『翻訳専業資格(水平)考試暫定規定』を制定しました。翻訳専門の資格試験制度が始まったのです。現在は、2級、3級の通訳・翻訳試験が行われています。2006年、教育部は15の大学に翻訳課程を設置しました。しっかりとした外国語の基礎を勉強したうえに、多文化交流の方法や世界の文化・知識、翻訳、通訳などの技巧と方法を学ぶのです。

――国際翻訳家連盟とはどのような機関ですか。

国際翻訳家連盟は1953年、ユネスコの主導のもと、フランスに設立されました。現在は120の翻訳協会が加盟しています。その多くはヨーロッパ諸国の協会で、アジアでは日本、韓国、インドネシア、中国、香港などの国や地区の協会が会員となっています。

ヨーロッパは、面積は大きくはありませんが、経済が発展しているため、翻訳事業も非常に発展しています。EU加盟国は20カ国以上におよびますから、すべての文書を20種あまりの言語に翻訳しなければなりません。このため、翻訳局はEU最大の行政機関となっているのです。

これまで17回行われている世界翻訳大会は、オーストラリアで一回、北アメリカで数回開かれたほかは、すべてヨーロッパで開催されています。

国際翻訳家連盟はヨーロッパ各国の翻訳協会を結束させ、まずは、翻訳者の合法的権利を保護するために多くの仕事をしています。たとえば、ノルウェーでは図書館で借覧されている著作物について、著者と翻訳者は同じく印税を得ることができるようになりました。このことは翻訳者の意欲を大いに高めました。

次に、翻訳業には統一の基準が必要です。たとえば、翻訳料の基準、資格の評価基準などです。国際翻訳家連盟は、これらの基準を統一するためにも力を尽くしています。

3つ目に、通訳というのは危険をともなう職業でもあります。もし戦争が起こったら、戦場には通訳者が必要です。しかし通訳者が戦場で犠牲になっても功績や保障は何も与えられません。そこで、国際翻訳家連盟では国際ジャーナリスト連盟のように、通訳者に対して「国際通訳者証」を発行することを考えています。このように、通訳はその仕事に相応の賠償が支払われ、仕事の正当性と個人の尊厳を保障されなければならないのです。

国際翻訳家連盟はさらに、多数のシンポジウムを開くなどの活動も行っています。

――国際翻訳家連盟の副主席になった経緯を教えてください。

国際翻訳家連盟は3年に一度会議を開きます。その理事会は17人の理事によって組織されています。日本翻訳家協会のメンバーも理事になったことがあります。韓国もこれまでに理事を出しています。

中国翻訳協会は1987年に国際翻訳家連盟に加盟しました。中国の翻訳界がまとまりつつあることにともない、私たちは国際翻訳家連盟との関係をさらに強化し、彼らの経験を学ぶよう求められています。

私は理事に選ばれた後、中国翻訳協会が非常に活発であることを感じてもらえるよう、国際翻訳家連盟で積極的に活動しました。これに加えて、欧米と中国との交流が増えたことにより、翻訳の需要も大幅に増加しています。こうして、中国翻訳協会は国際翻訳家連盟の重要な会員となりました。

3年前の理事の改選の際、当時の会長が私を6人の執行委員の一人に推薦しました。私はためらいましたが、中国の同僚の多くが、引き受けるべきだと励ましてくれました。私の上司も、これは中国の翻訳事業の発展に関わることであり、個人的なことではないと言いました。そして私は選挙に参加し、当選しました。

このことは、中国翻訳協会が積極的に国際交流に参加し、国際社会に深い印象を残している表れだと言えます。また、中国と欧米の往来も増え、日常的に顔を合わせ、意思疎通を図ったり、問題を話し合ったりする必要が生じているということでもあります。

――国際翻訳家連盟の副主席として、どのような仕事をしていますか。

副主席になって、やりたいと考えている仕事はたくさんあります。たとえば、中国の翻訳界をいかにして国際化するか、世界の翻訳界との交流をいかにして密接にするかなどです。その手段の一つが、世界翻訳大会を中国で開催することでした。これにより、中国の翻訳者の多くが世界の翻訳者と顔を合わせて交流することができます。中国の翻訳界にとって益するところ大でしょう。

今年は北京オリンピックが開催されます。私たちはこの年に中国で「翻訳界のオリンピック」を開き、中国の翻訳事業をさらに発展させるつもりです。国際翻訳家連盟が創立55周年を迎えた今年、3年に一度の世界翻訳大会が初めてアジアで開催されるのです。

――日本の翻訳界に対してはどのような印象を持っていますか。また、何を期待しますか。

日本の翻訳界も国際社会で活発に活動しています。日本にはたくさんの翻訳協会があります。日本は自国の文化を国外に紹介することに成功しています。これは私たちも学ぶべきところです。

ニューヨークの5番街には日本の書店があります。これはとてもうらやましいことです。ニューヨークへ行くたびに、私はいつもこの書店をのぞきます。

ある翻訳会社と接触したことがありますが、その会社の責任者は日本に長く住むカナダ人でした。翻訳は自国の人だけに頼ることはできません。日本はこの面でとても開放的です。

もちろん、日本の翻訳界に対する希望もあります。それは、アジア地域で活発に活動して欲しいということです。国際翻訳家連盟の内部にはヨーロッパ翻訳センター、ラテンアメリカ翻訳センターがあります。しかし、アジアはこんなに大きな人口を有しているというのに、翻訳センターがありません。

韓国の翻訳界が中心となり、中国と日本がそれに応えて、アジア翻訳家フォーラムが設立されました。3年に一度フォーラムがすでに5回開催されていますが、日本の翻訳界は一度も主催したことがありません。日本は主催する条件がもっとも整っている国だと言えます。今後、日本でも開催されることを望みます。0807

 

人民中国インターネット版 2008年7月17日 

 
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