潮州工夫茶

棚橋篁峰

中国茶文化国際検定協会会長、日中友好漢詩協会理事長、中国西北大学名誉教授。中国茶の国際検定と普及、日中交流に精力的な活動を続ける。

前回お話しした広東省の鳳凰単欉は長い歴史があるので、潮州工夫茶という独特の飲用方式が生まれ、特色のある潮州茶文化が形成されました。この飲用方式が発展して今日の烏龍茶芸ができたと言うことができます。

今回はこの茶芸についてお話ししましょう。清代の袁枚は『随園食単』の中で、潮州工夫茶を次のように紹介しています。

「茶杯は胡桃のように小さく、茶壺(急須)はレモンと同じ大きさ。茶杯で飲む一回の量は一両(50グラム)もない。一杯目はすぐに飲まない。飲む前に、まずその香をかぐ。それから味わい、口の中で咀嚼するようにゆっくりと味わう。そうすると、すぐ清らかな香りが鼻に溢れ、舌に甘みが残る。一杯目を飲んだ後、更に一、二杯と続けると、穏やかで、落ち着いた気持ちになる。私は、龍井茶は清らかな味だけれども、味は薄いと思う。陽羨茶はよい茶だが、韻が少し足りないような気がする。つまり、玉と水晶の違いであろう。故に、本当に素晴らしいこの茶が天下の名茶になったのだ。三盞目でも味は全然変わらない」

潮州工夫茶の作法「韓信点兵」
この袁枚の記述から茶芸の様子を想像してみると、基本的なことは現代の烏龍茶芸に受け継がれていることが分かります。

清代に完成  

さらに、1957年、潮州人の翁輝東(当時広東省文史館研究員を務める)は『潮州茶経・工夫茶』という本に次のように書いています。

「潮州工夫茶は普通にお茶を飲むだけでなく、特別の意味がある。2、3人の友達が集まり、工夫茶を淹れながら、話し合い、友情を深めることができるし、仕事や勉強の合間に工夫茶を一杯飲むと、目が覚め、疲れも消えてゆく。更に、来客を招待するには、この工夫茶はなくてはならないおもてなしになるのである。

鳳凰単欉の新芽
潮州工夫茶の淹れ方には独特のこだわりがある。清代から工夫茶を淹れるには、小さめの茶壺をよく使う。淹れる前に、まず茶壺を温める。お湯で茶壺の内側と外側をきれいに洗う。それから、茶葉を入れる。細かい茶葉を先に入れて、その上に大きめの茶葉を置く。これで、茶壺の注ぎ口が細かい茶葉で塞がれることは無い。茶葉を入れてから沸騰したお湯を上から勢いよく注ぐ。その後すぐ茶湯を出す。普通、この一盞目は飲まない。茶葉を洗って、味を引き出すためである。それからお湯を入れる時、茶壺の中に直接お湯を注ぐのはよくない。茶壺の周りから回しながらお湯を注ぐ。茶の魂を壊さないためである。そして、茶壺を持って『関公巡城』(関羽が町中を見回るように)という作法で順番に茶杯へお茶を注いでいく、各茶杯に八分の茶が入ったら、『韓信点兵』(漢の名将韓信が兵士を点呼するように)茶壺に残った最後の茶湯一滴一滴をそれぞれの茶杯に入れる。各茶杯の茶は濃さが均等になるようにする。

茶葉を選別する茶産地の人々
工夫茶を淹れるには『高衝低行』というやり方がある。つまり、お湯を茶壺に注ぐ時に高い位置から注ぐ。お湯の勢いで茶葉が開き、味と香りがよく出るからである。茶杯に注ぐ時は、できるだけ低くする。それは、茶の湯と香りが散らばるのを避けるためである。お茶を入れたら熱いうちに飲む。これを『喝焼茶』という。お茶を茶杯に入れる前に、毎回必ず茶杯を温める。温め方は、中指で茶杯の底を押さえ、親指で茶杯の縁を持って、茶杯を倒して、お湯がいっぱい入っている別の茶杯の中に置く。親指で茶杯を回して温める。茶杯を温めることは、工夫茶の礼儀で、同時に、衛生のためでもある。

潮州工夫茶は淹れてから、先にお客と他の在席の人に勧める。お茶を淹れた人は最後、あるいは次の一盞目で飲む。これは『主人が先に飲んではならない』という意味である。お客さんがどの茶杯を取るのかも決まりがある。普通、自分に一番近い茶杯を取る、最後の人は真ん中の茶杯を取る。そうでなければ、主人に失礼である。お茶を勧める時に、客が先で主人が後、年配の方が先で若者は後という順番である」

このように詳細に説明されているところを見れば、潮州工夫茶という茶芸は清代にはすでに完成していたことが分かります。今日、私たちが親しむ烏龍茶芸は、1980年に完成した台湾茶芸で、このような伝統茶芸が変化・発展したものと考えることができるのです。(0810)

 

人民中国インターネット版 2008年12月

 

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