恩 師

北京師範大学 外国言語文学学院 梁艶

 人間は誰でも成長の過程で、困難に遭ったことがあると思います。生活と勉強上の困難はもちろん、心の悩みも少なくないでしょう。私もそうです。特に大学に入った後、周りには優秀な学生が多く、反面、内向的な私はいつも無口で、勉強も活動も普通でした。しかし、向上心の強い私は「何をしても優秀になれ」と、いつも自分に言い聞かせていました。しかし、こつこつと努力した後も進歩はなく、逆にプレッシャーが溜まり、憂鬱になりました。「なぜ同じ学生なのに、他の人は何でも優れているの?」、「なんでみんなは毎日笑顔で生き生きしているの?」と私はいつもくよくよしていました。

ちょうどそのとき、三輪由里子先生が私たちの日本語会話を担当していました。三輪先生は日本の静岡県にあるラジオ番組のアナウンサーで、中国で派遣教授として日本語を一年間教えに来ていました。その会話の授業は雰囲気が活発で、学生も活躍できました。その上、いつも興味津々たる授業内容でしたので、私は三輪先生の授業が大好きでした。四年経った今は、だいぶ授業の内容を忘れましたが、先生の最後の授業はずっとはっきりと私の頭の中に刻まれています。実に、私の悩みはこの最後の授業を通して無くなってしまったのです。

最後の会話の授業は教科書とは関係がないものでした。先生はみんなに質問しました。「幸せって何でしょうか。」その質問は出されるや否や、クラスはしばらくしんとしました。それから「そうだ、なんだろうか。」とみんなしみじみと考え始めました。十分後、「いい仕事を見つけたら、幸せです」、「好きな人がいると、幸せです」、「病気がないと、幸せです」、「悩みがないと幸せです」、「勉強がないと幸せです」……とみんな口々に言い出しました。みんなの答えを聞き終わった後、三輪先生は言いました。「幸せというものは人によって違います。みんな一人一人の答えを持っているに違いありません。私はその質問に答える前に、まず自分のことを話しましょう。以前、私は雨の日が大嫌いでした。気持ちも天気の様に良くなくなるし、傘を持つのも面倒くさいと思いました。しかし、ある日私は変わりました。傘をさすのが大好きになったのです。きっかけは一本の傘です。つまり、その傘の中に秘密があるのです。何の秘密かみんな分かりますか。」ここまで、みんなは不思議そうに先生の顔を見ていました。「大切な人からもらった傘でしょう」、「普通ではない傘でしょう」とみんなは答えましたが、先生は微笑んで頭を振りました。「これは友達からもらったのだけれど、実は、外観から見れば、普通の傘です。でも、さしたら、裏面には美しい太陽と青空があって、すごく気持ちがいいのです。私はすぐその傘をデザインした人に敬服しました。なんとすばらしいアイディアでしょう。また、いい気持ちは外界と関係なく、自分で作ったものではないかと悟りました。快楽も幸せも自分で作ることが出来るのではないでしょうか。」先生の話を聞いていた私はどきどきしました。

先生は続けました。「私の幸せの答えは一冊の本の中にあります。本の名前は『世界がもしも100人の村だったら』です。全世界を人口100人の村に縮小すると、80人は標準以下の居住環境に住み、70人は文字が読めません。50人は栄養失調で苦しみ、たった1人が大学の教育を受け、そして、1人だけがコンピューターを所有しています。逆に考えれば、もしあなたが今朝、目覚めた時、健康だなと感じることが出来たなら、あなたは今週生き残ることのできないであろう100万人の人たちより恵まれています。もし冷蔵庫に食料があり、着る服があり、頭の上には屋根があり、寝る場所があるなら、あなたはこの世界の75パーセントの人々より裕福です……。」

先生の説明を聞きながら、私は瞑想にふけました。そうですね、私はどんなに幸せでしょう。誰かを羨ましがる必要はありません。自分は自分のことをちゃんと考えて、幸せと楽しみを抱きながら、着々と前へ進むだけで十分です。つまらないことに執着するのではなく、のんびりして、自信を持って、いい循環になると、勉強も生活もきっとうまくいくでしょう。

その日から、私は段々楽に勉強ができるようになり、また、心から周りの人に微笑むことができるようになりました。知らず知らずのうちに、私の日本語が上手になって、友達も増えていきました。

二年後、もっと自信を持つようになった私は無事に大学院に入りました。

今の私は三輪先生に対する感謝を抱きながら、将来、知識と幸せを他人に伝えられるような先生になるために頑張っています。その夢はもう遠くないと思います。

創作のインスピレーション

大學時代、三輪由里子先生が担当された日本語会話の授業が大好きでした。いつも新鮮味があり、日本語に関する知識だけでなく、人生に関する課題を、歌やビデオなどを通して教えてくださいました。私にたくさんの感動と力を与えてくれました。特に、最後の授業は今まで受けたことのない素晴らしい授業で、私の心の奥に深く刻まれています。いつまでも忘れられません。人生の重大な決定をするとき、または困ったとき、きっと三輪先生の最後の授業を思い出すでしょう。

私は来年の7月に卒業する予定なので、今は、人生の岐路に立っています。こんな時には、色々な選択があり、色々なことを考えなければなりません。私はもう一度その授業を思い出しました。今回の作文コンクールの機会をお借りしまして、今までの先生への感謝の気持ちと今後の自分への励みを込めて、文章にしました。

 

人民中国インターネット版 2008年12月4日

 

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