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誰もが医療を受けられる国に

 

農民にも医療の手が

春節(旧正月)は中国でもっとも盛大で、賑やかな祝日である。しかし、今年の我が家の春節は、心配ごとがあった。春節の数日前に、田舎にいる92歳の母が重病で、広東省のある県の病院に入院したのだ。田舎の兄嫁や弟、妹、甥、姪たちが代わる代わる病院に行き、看護した。広東省恵州に住んでいる定年退職した三番目の弟も急いで故郷に帰ってきた。

母親は私に「こちらには人手があるし、お前は仕事が忙しいから帰らなくてもいいよ。病院では一日千元以上もかかるから、お金を送ってくれればいい」と言ってきた。私は母の言葉に従った。 医者の懇切な治療のおかげで、半月後、母は退院した。退院の当日、またたくさんの金を払わなければならないと思っていたら、意外にも逆に9211元が返ってきた。「患者さんは新型の農村医療共済に加入しているので、規定通り、治療費と薬代の60%を精算して返還するのです」という。説明を聞いて、家族みな、大いに喜んだ。

農村医療共済について言えば、かつてこれは世界保健機関(WHO)から高く評価されたが、その後、盛んになったり衰えたり、紆余曲折の道を歩んできた。

もともと中国の都市と農村では、経済状態や人々の暮らしの面で格差が存在していた。その後、都市と農村の二元体制が実行され、各種の格差がさらに拡大した。都市の労働者は、治療費や薬代、入院費など、全部あるいは大部分が実費精算で返還されるが、農民は病気になると費用はすべて自費である。

2008年9月、安徽省六安市の人民病院では子どもの健康診断が行われた

2008年12月2日、江西省徳興市海口鎮杜村の76歳になる唐おばあさんが心臓病で突然倒れ、この鎮を巡回診療していた勝春病院の医者らが駆けつけ応急手当を施した

農民は病気になってもなかなか治療が受けられない――この問題を解決するため、1950年代、農村に医療共済制度が誕生した。それが1960、70年代には、全国の農村に普及した。

その資金は、農村の集団経済から出された。人民公社では「はだしの医者」と呼ばれる半農半医の衛生員たちが農村の医療を支えた。こうして各地の診療室は、軽い病気やケガの治療をし、農民の健康を守るうえである程度の役割を果たした。

しかし、重い病気や緊急の場合は、農村には必要な医療設備や薬がないので、患者を郷や鎮にある規模のより大きい診療所か県の病院に移送するしかない。もしそれが遅れたら、不幸な結果になる。私の従姉は、隣村の小学校の教師と結婚したが、1966年、難産で大出血した。そのうえ交通が不便な山間部だったので、病院に運ぼうとしたが間に合わず、亡くなってしまった。

1980年代初め、農村の経済改革に伴い、各地で生産請負制が実施され、家庭が農業生産の基本経営単位となった。集団経済の資金で支えられていた農村の医療共済制度はこれにより崩壊した。農民たちは、軽い病気なら村の医者に診てもらい、重い病気なら郷や鎮の衛生院や県の病院に行って診てもらったが、その治療費や薬代はすべて自己負担となった。

「改革・開放」以来、農民の経済状況は確かに改善された。しかし都市部の労働者と比べると、農村の経済基礎が弱いため農民の収入は低く、大病したら数千元、数万元、場合によってはさらに高い医療費がかかるので、それにはとても耐えられない。このため農民は、我慢して治療を受けないか、または山ほどの借金を抱えて、貧困に陥る。農民は、病気によって貧乏になったり、貧乏だった昔に逆戻りしたりするのだ。これは中国の社会問題の一つになっている。

9億人の農民の医療問題をいかにして解決するか。1990年から、新型の農村医療共済制度の試験的実施が始まった。そして十数年の模索や改善を経て、2007年9月までに、全国の2448の県・市の7億3000万人が「新農合」と呼ばれる新型の農村医療共済制度に加入したのである。

この制度の規定では、いまのところ毎年、農民は一人10元を出し、当地の政府と中央政府がそれぞれ一人当たり20元を支給する。合計で50元になる。「大病保障」の原則があり、費用があまりかからない軽い病気やケガの治療は、農民が自費で支払う。重病あるいは入院治療の場合は、治療費や薬代の60%が返還される。このような基本的保障さえあれば、農民は病気のために貧乏になることはなくなる。

都市で働く人々も保険に

新中国成立後の1951年、国有企業の労働者のために実施された『労働保険条例』によって、都市の労働者は、公費による医療や退職後の年金、家族の養育、出産、葬儀など、無料で各種のサービスを享受できるようになった。その後、1998年、中国は公費医療制度の改革を行った。簡単にいえば、政府機関や社会団体で働く公務員は、引き続き公費医療を受け、その治療費や薬代、入院費は全額、返還される。

河南省開封市では、都市の住民に対する基本医療保険の最初の保険証の発給式で、1000人以上の住民が保険証を受け取った

一方、企業や事業体で働く従業員は、都市の労働者基本医療保険に参加する。これは毎月、本人が本給の2%を、所属する企業がその3倍を、それぞれ医療保険料として納入する。保険料を納めれば、外来で診察を受けると、その医療費と薬代の50%が返還される。もし、大病で入院したら、病院の等級や医療費の額によって、85~97%が返還される。

2007年には、中国で2億2051万人が都市の労働者医療保険に加入し、基本的にこの制度は人々に受け入れられている。しかし大病や長期治療が必要な慢性病にかかると、人々はやはり「治療費が高すぎる」と感じるようだ。

都市部には労働者のほか、幼児、小中学生、お年寄り、身体障害者、失業者、定まった仕事のない出稼ぎ労働者がいる。彼らは収入がないか収入が少ないので、病気にかかっても診てもらえない。

そこで中国は2007年、15の省、直轄市、自治区で都市の住民向けの基本医療保険を試験的に行い、大いに歓迎された。その年だけで4080万人の住民が加入した。加入者は毎年10元の医療保険料を納め、中央と地方の政府が一人当たり40元を補助する規定となっている。これで病気にかかっても、治療が受けられるようになった。

 

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