会えてよかった

姚林芳 浙江理工大学

 今年の春、私は日本に留学にいった。もともと中国では夏こそ「別れと出会い」の時期だが、今度は日本人にとっての「別れと出会い」の春の季節を体験した。

これから、先に何が待っているのか、誰と出会うか期待しつつ、ただ半年の短い期間しか日本にいないから、どうせすぐ別れるから、誰も私の出会いを大切してくれないかなあなどと思って落ち込んだ。といっても、私は日本人と交流したい気持ちでいっぱいだった。外国にいる寂しさを苦しんでいるよりも、自分で積極的に日本人との出会いを作ろうと思った。

春の半ばが過ぎて、バイトを見つけた。住んでいる町にあるひとつ高級な温泉旅館でサービスをする仕事として、和食を一品ずつ出したり、紹介したり、お皿を下げたりしていた。中華料理の出し方と違って、お膳料理は新鮮さと旨さを保つために、お客さんが食べ終わりそうな時を見計らって、また板場に頼んで、次の料理を出すやり方だ。そうすると、板場の料理人と親しくなった。仕事にまだ未熟な私はいつも自信なさそうな声で料理を通していた。「ヨウさん、すごいね、メニューはちゃんと覚えたね。」朗らかな声で私に声をかけてくれたのは板場で蕎麦を作っているおばさんの飯沼さんだった。私はちょっと恥ずかしくて何もいえなくてただ笑顔で返事した。その時以来、飯沼さんも忙しい時にセットするのを手伝ってくれたり、心細い顔をしていると「もうベテランみたい」と褒めてくれたりして私を支えていた。私があそこでバイトを続けられるのはほんのわずかの何ヶ月しかないということはみんな知っていた。でも、飯沼さんはこんな私に特に眼をかけてくれた。「私の妹も小さいころから中国で育ち、しかも何十年も中国人に育てられて大きくなった。ヨウさんのことを見ていると妹のことを思い出して切なくて・・・・。」この話を聞いた時は私がもうすぐバイト先を離れる頃だった。これから多分彼女とは最早一生を通して会えないだろう。

 日本語で一期一会という言葉はずっと前から知っていた。茶道の精神として、生涯にただ一度見えることを大切にするという意味だ。飯沼さんから、この一期一会の重さと真の意味がひしひしと伝わって来た。

一度しか会えないならどうでもいいじゃなくて、その逆、一度しか会えないからこそこの出会いを大切にするということが日本にいた時、日本人の行動からしみじみと感じたものだ。

深く考えれば、毎日買い物に行くと、レジや店員は素敵な笑顔で接してくれるのはなぜか、ただ利益を得るためにいいサービスをするのか、私はそれだけではないと思う。少なくとも、私がバイトをしていた温泉旅館の社員達はそうではないと信じている。雨の中にお客様の姿が見えなくなるまで見送りをしている彼女達は一期一会の大切さと名残り惜しさを心を込めてお持て成しをすればこそ、このような素直な笑顔が出てくる。更にお客さんへ気配りができるのではなかろうか?

東京で道に迷った時、道を教えてくれたおばあさんに「ありがとう」をいて分かれた。それで、振り返ってみると、おばあさんはまだこちらのほうに向いてあそこに立っていたまま、私がちゃんと正しい道を歩いていくかどうかを見守っていた。

留学していた間、偶然に知り合ったあるお年寄りは何度も車で私が住んでいた国際交流会館まで迎えに来て、いろいろな所を案内してくれた。彼がかなり離れている町に住んでいるのは最後の別れまで分かった。などなど日本人から伝えられた大きな感動は言葉では表せないくらいだった。このような包み込まれるような優しさや繊細な感情が胸に響いて、私の心に印象的に残った。まるで「一生に一度だけだが、会えてよかった」とみんなが言っているようだ。

帰国の旅についた時、飛行機で同席していた人は四十代の日本人の女性だった。別れの悲しさがまだ消えていなかったのか、一人旅で寂しかったのか、私は泣きそうにしていた。「私は半年間中国に住んだことあるよ。その時中国人に大変お世話になった。彼らの手伝いがあったからこそ、半年の生活がうまくいけたんだ。私達はもっと早めに出会っていれば、私の家に遊びに来れたのにね……」彼女のおかげで、日本にいる最後の最後の時もいい思い出になった。上海に着いた後、彼女はずっと荷物を持ってくれた。別れ際に、彼女はぎゅっと私の手を握って「頑張ってね、元気でね、再見。」と私の目を見ていった。

空港を出た時はすでに夜になっていた。明るい月がぽっかり夜空に浮かんでいた。自分はもう中国に帰ってきたのがはっきり分かった。仰いで月を見ると、日本にいる友達も今私と同時に月を見ているのかなと考えていた。どんなに遠く離れていても、国土が違っていても、この月は一緒だ。

選評コメント

日本留学中の日本人との付き合いを感動的に描いている。レジの店員の素敵な笑顔は、単に利益を得るためではなく、「一期一会」の心を込めたおもてなしの精神から来ているという筆者の考察は鋭い。

創作におけるインスピレーション

私はこの文章を書き始めた時は、日本での留学生活を終えて帰国したばかりの時期だった。日本での生活や勉強の情景が頭の中に生き生きと浮かび、名残惜しい気持ちと共に、さまざまの感想を与えてくれた。中でも一番印象的で、心の底まで響いた感じはやはり日本人の信じがたいほどの優しさだ。日本の環境や食生活や人間関係などの方面も確かに私を驚かせたり、考えさせたりしたが、日本人その人間自身が伝えてくれた感動をどうしても忘れられない。いろいろ考えたあげく、自分が実際に体験したことに基づいて、この手でそういう感動をうまく表したいと思った。

一期一会の精神を知っている人が少なくないが、その精神を日本人がどうやって表現するのか、その恩恵を受けたことがないと感じ取れないだろう。一見たいしたことではないが、振り返って見ると、「なるほど、優しいな」と思わず口からこぼれる。そういう感じだ。こういう澄んだ音を立てる渓流のような日本人の独特の優しさに啓発され、「会えてよかった」という文章を書くことに決めた。

受賞の感想

三等賞に選出されて嬉しく思いながら、意外と感じた。なぜかというと、自分が書いた内容は創意に欠けている恐れがあって、きっと審査委員達の注目を集められないだろうと思った。しかし、この文章を書き始めた時に、本気で自分の気持ちと素直に直面して、心の中の思い出と感動が自然に言葉となってほとばしり出た。きっと言葉というものは命があるのではなかろうか。真剣に悩んだり喜んだりして、そして内心に一番深く感じたものを書けば、人の心を引き付けられるものと私は今回の原稿募集大会で改めて読み取った。

私はこれから、身の回りのことに注意を払って生活を深く感知して、生活の面白さや人間感情の微妙さを見つけ続けようと決心した。

今回、在日の優しい日本人からもらった恵みと大学の日本人先生の親切な指導、また日本語学科の先生の助けがなければ、私はこの原稿を完成できなかったに違いない。感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

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