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聖堂に息づく東西の美

 文=高原 写真=馮進

20世紀初め、上海はアジアでもっとも開放的な、もっとも国際化した街であった。人々はアジアや欧米など世界各地から集まり、それぞれ異なる習俗や社会文化、宗教信仰をこの街にもたらした。多くの美しい教会やモスクが残され、既存の寺院や廟宇と融合し、毎日あくせくと忙しい都市の人々が、自分の心に向き合う空間として存在している。

厳かな上海徐家匯天主堂 高さが79メートルの上海徐家匯天主堂

徐家匯天主堂

上海でもっとも美しい教会を選ぶとしたら、徐家匯天主堂は決して欠くことのできない候補の一つである。この壮大なゴシック式の赤レンガのカトリック教会は、にぎやかな徐家匯の繁華街からわずか200メートルのところにある。騒がしい商店街を抜け、漕渓北路に沿って南へ進むと、鮮やかな緑のまぶしい芝生の向こうに徐家匯天主堂が建っている。上海を背景にした若者に人気の近年のテレビドラマには、必ずといっていいほど、グランドハイアットや徐家匯天主堂が登場する。それらはある種の符号となったかのように、騒々しさと静けさ、慌しさとのどかさ、欲望と敬虔・・・この街の両極端を象徴している。

徐家匯天主堂は清の末期に建てられた。最初は200人規模の、ギリシャ式の小さな教会であった。その後、徐家匯一帯は、しだいに江南地区における天主教の中心となっていった。日々高まってゆく信徒たちの需要を満たすため、教区は教会を建て直すことにした。1910年、4年がかりで建てられた新しい教会が完成した。高さ79メートル、奥行き84メートル、内部の高さ28メートルの、激しく迫り来るような勢いを備えた、華麗な様式の教会である。上から見るとラテン十文字の形になっている。二つの高い鐘楼の頂点にそれぞれ十字架があり、空に向かって刺すようにそびえ立っている。二つの鐘楼の間には、真っ白なキリスト像があり、厳かな表情で、世界を抱くように両腕を開いている。午後、逆光でこの教会を見上げれば、柔らかな光が高くそびえ立つ鐘楼の背後から射すのを目にした瞬間、信仰のあるなしにかかわらず、誰もが心を揺さぶられ、かつての「極東一の教会」の名に恥じない徐家匯天主堂に感嘆するだろう。

さまざまな建築様式を融合した上海聖三一堂 修繕工事中の上海聖三一堂

聖三一堂

聖三一堂(Holy Trinity Church)の名は古くから耳にしていた。百年前、上海バンドの港の周辺は背の低いあばら家ばかりだった。かつて、呉淞口から黄浦江に船でやってくると、最初に目に入る建築物が聖三一堂の尖った屋根であった。しかし今では、南京路一帯には高層ビルがびっしりと立ち並び、聖三一堂は木や塀に囲まれて目立たなくなってしまった。その名を慕ってわざわざ訪れたのでなければ、ほとんどの人はこの教会を見過ごしてしまうに違いない。

聖三一堂は1869年に建てられた。当時、上海バンドでもっとも早く建てられた、美しいキリスト教の教会であった。そのデザインはさまざまな建築スタイルの融合を体現したもので、外側はゴシック式、上から見ると長方形のバシリカ式、正面と真ん中の両側が低いのはローマ式、内部の柱やアーチ状の廊下にはまたバロックスタイルも感じられる。聖三一堂の建築スタイルに関する詳しい説明は、建築の専門家でなくては難しいだろう。普通の観光客にとって、聖三一堂の美しさは必ずしもその複雑な建築スタイルではなく、ことのほか素朴で優雅さを感じさせる、内外が一体となったかのような赤レンガの壁にある。

目下、聖三一堂は大掛かりな修復工事が行われており、2010年のクリスマスに再び開放されることになっている。普段は訪れる人もほとんどなく、しんと静まり返っている。ホールの中には、十字架も祭壇も椅子もなく、時間だけが静かに流れている。ホールの中央に立ち、自分だけの教会という贅沢な気分を味わうのも、特別な体験といえるだろう。

上海多倫路に位置する鴻徳堂

上海新楽路55号に位置する古いロシアの教会、最初は東方正教会の聖母大堂であった。1901年に上海の閘北で建設され、1932年に日本軍隊の砲火で壊されたが、1932〜1934年に再建された

鴻徳堂

初めて多倫路の鴻徳堂を目にすれば、ほとんどの人が「不思議な教会ですね」と口にするだろう。キリスト教の教会でありながら、その屋根は中国の伝統的な斗拱飛檐(反り上がった軒とそれを支える組み木)の構造を採用している。梁の下には濃い色彩の絵が描かれ、入り口のところには四角い鐘楼がある。外壁はレンガで築かれ、木製のように見える赤いコンクリートの円柱がある。要するに、一般に人々が抱く教会のイメージとはかけ離れているのである。鴻徳堂は1920年に建てられた。そのころ、中国の民族主義ムードが高まっており、中国のキリスト教内にも土着化運動が起った。教会のデザインも従来のスタイルを打ち破り、中国と西洋の両方を兼ね備えた路線を歩もうとしていた。現在、鴻徳堂は上海で唯一の、中国の伝統的なスタイルのキリスト教の教会となっている。

このほかにも、上海にはまだまだ訪れる価値のある美しい教会がたくさんある。東方正教会の聖母大堂、人民広場のそばの沐恩堂、上海市教育委員会の敷地内にあるシナゴーグ・西摩路会堂、郊外の佘山聖母堂……。ここですべてを一つ一つ紹介することはできないが、旅の途中でゆっくりとその魅力を発見してゆくのもまた、嬉しい驚きになるだろう。

徐家匯天主堂

上海市徐匯区蒲西路156号 地下鉄1号線徐家匯駅下車

聖三一堂

黄埔区九江路211号 バス37路九江路江西路下車

鴻徳堂

虹口区多倫路59号 バス21、939路 四川北路横浜橋下車

 

人民中国インターネット版 2009年12月

 

 

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