遼・金王朝 千年の時をこえて 第11回

宋王朝が中国の南部で栄えていた頃、中国北方はモンゴル系の契丹人によって建てられた遼(907~1125年)と東北部から興ったツングース系女真族の金(1115~1234年)の支配するところとなっていた。これら両王朝の時代に北京は初めて国都となったのである。新連載では、私が長い時間をかけて探し求めた遼・金遺跡にまつわるエピソードを、写真とともにお届けする。

応県の木塔――天空にそびえる曼荼羅

山西省大同の南70キロに位置する小さな町応県には、どこからでも目に入る高さ67メートルの壮麗な木塔がある。2001年に初めてこの地を訪れた時、私は、その驚くべき威容に圧倒され、これは、例えば、千年も前に米国の大平原に突然、高層ビルが現れたような意外の感に打たれた。この村の人々は、幾世代もの間、どんな気持ちで天空にそびえる奇跡のような建造物を見上げてきたのであろうか。

応県木塔――中国最古の、そしてもっとも高い木造の塔

欄干から見晴らす応県の田園風景。2009年撮影。ここ数年で木塔周辺の住宅街が大幅に拡張された 

木塔は1056年に建立された。正式名称は仏宮寺釈迦塔であり、当時応県は、西京行政区(西京道)の一部であった。単に壮大な建築という以上に、この塔は、遼王朝の支配者がいかに深く仏教に帰依していたか、そして仏教の影響力をいかに利用したかを理解する糸口を与えてくれる。

先帝を祭る陵墓をかたどった塔によって、仏教信仰と契丹の支配の結びつきを強調するのみならず、宋や西夏からそう遠くない彼らの領地の西端にこの雄大な塔を建てることによって、力の誇示を狙ったものと言い得よう。木塔の内部には、仏教関係の秘宝や膨大な経文、そして彩色の仏画が納められている。これらの逸品は、当時の燕京(北京)やその他の寺院で行われていた印刷技術の高い水準と注意深い経典の保存の様子を今に伝えている。この巨大な八面体の塔は遼道宗(在位は1055~1101年)が、子供の頃、応州の蕭家で育った父親興宗(在位は1031~1055年)のために建てたものであり、この場所は蕭家の菩提寺のあったところである。外観は五層であるが、各階の中間の内部に暗層(中二階)があり、実際上は九層になっている。九という数字は皇室の最上位を意味するものである。九は密教でも重要な意味を持っており、例えば八体の仏陀が大日如来を囲んでいるとか、曼荼羅の中の九輪の周辺には八つの花弁の蓮がかたどられている。この塔は正に曼荼羅が縦に並んでいるのである。

木塔の細部――塔の内外を支える54種類もの形の異なる斗栱

第1層の中心に座す11メートルの釈迦牟尼仏の頭上には、八角形の精巧な藻井がある。扉の上部には遼の3皇帝が仏陀に供物をしている様子を描いた珍しい絵が見える

今年の5月1日に木塔を再訪した際、私は徹底的にこの塔の持つ意味を探求したいと考えた。先ず、私は五層のそれぞれが別個の寺院としての機能をもっており、三つの同心円の構造になっていることに気づいた。中心部は神聖な内層と呼ばれ、礼拝の対象である仏像数体が安置されている。その外側には外層があり、信者たちが経を唱えながら歩き回る円形の空間となっている。そして全体を取り囲むように外廬という欄干が巡らされているというのが、内部の構造である。この欄干からは周辺の景観を見晴らすことができる。

各層にはまた、それぞれに象徴される意味があり、八面の壁、八本の円柱と中心部の祭壇がある。第一層には、本尊の釈迦像が八角の藻井(飾り天井)の下に祭られており、それは「信」を象徴している。第二層の釈迦像を取り巻く四体の菩薩像は「解」(理解)を代表し、さらに一層上がると、そこには「智」を表す四方如来(四智)の四体の仏像の姿がある。また、その上の第四層は、慈悲の「行」であり、これは釈迦像を中心に二体の菩薩、普賢と文殊によって体現されている。最上階の第五層は「悟り」を象徴するもので、仏陀の世界へ至る道と位置づけられる。大日如来を取り囲む八体の座像があり、明らかに密教の胎蔵曼荼羅の世界を体現している。

第2層の内槽に安置された仏像群 中国最古の彩色印刷(『文物』1982年より)

1974年、第四層の仏像を修繕した際に、その内部から貴重な仏舎利や経文が発見された。遼時代の大蔵経の極めて珍しい写本や仏画、そして教本までが納められていた。この発見により遼時代の鮮やかな印刷作品に光が当てられたのである。とりわけ、弟子たちに取り巻かれた仏陀の姿を描いたものは、中国の彩色印刷の最古の傑作とされる。

早朝、ツバメの飛び交う木塔の周りを散策しながら、この遼時代の塔が通常の火災や腐蝕のみならず、この地方でかつて頻発した大地震や激戦の惨禍を生き延びた粘り強さに畏敬の念を禁じ得なかった。木塔の長寿が秘宝を安全に守り、その存在が仏教信仰に力を授け、塔自身を守り続けたのであろう。

 

人民中国インターネット版 2010年1月11日

 

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850