万博で広げる「光の翼」  
 

文=喬振祺

建物のドアや窓、外壁と屋根が汚染のない「発電機」に……昔、SF小説でしか想像できなかったそんな世界が、いま上海万博会場で現実のものとなっている。

1882年、イギリス人が上海の租界で設立した上海電光公司は、中国初の石炭火力発電所であった。当時この発電所は電灯照明用の電気のみを供給したため、上海人はこれを電灯会社と呼び、ここから上海は電気の時代に入った。

都市生活には電気が必要不可欠である。電気のない都市はまるで両足を突然失った人間のようにたちまち身動き不能の状態に陥る。しかし現実には、高水準の生活に対する人類の追求と、電力資源の持続的な供給、生態環境の良性サイクルが、互いに対立する存在となっている。そしてこの欲望と現実の間で人類がもがき苦しむ時、問題解決のカギとなるのが最先端の科学技術である。近年、多くの国にとって低炭素経済を発展させ、新エネルギー産業の開発と運用を進めることが国際競争のなかで有利な地位を築く手段になっているのもそのためだ。

太陽光発電装置と建築材料を一体化させ、建物のドアと窓、外壁と屋根を汚染のない「発電機」に変える。こうした方法で作られたクリーンな電力は建築そのものだけではなく、都市電力ネットワークに導入して一般家庭で使用することが可能で、自分が発生させた「エコ電気」を他人に使ってもらうことも可能になる。昔、SF小説でしか想像できなかったそんな世界が、いま上海万博会場で現実のものとなっている。

万博会場内の「エコ発電所」

「科学万博」と「エコ万博」の理念を説明し、全世界の人びとに「より良い都市、より良い生活」という万博のテーマをより深く理解してもらうため、2010年上海万博会場では太陽光発電技術を大量に採用、その発電容量は4.7兆ワットに達する。なかでも建材一体型太陽光発電(BIPV)技術は、その運用に成功したことにより中国館とテーマ館が万博会場内の二つの「エコ発電所」となった。これは現在、中国国内及びアジアで最大のBIPVグリッド接続システムであり、わが国の先進的な太陽エネルギー応用技術と未来都市建設のアーコロジー(生態建築)理念を世界に示すことになった。

「BIPV技術の採用は2010年上海万博の一つの特徴だ」と中国科学院院士の褚君浩氏は本誌記者に語る。「BIPV建築は太陽光発電の応用形式のなかで最も人類の生活に近いものであり、その効果の良し悪しは人びとの太陽発電製品に対するイメージを直接左右することになるだろう。いわゆる“エコ電気”とは無炭素、無汚染の発電システムのことである」と。

万博会場の中国館とテーマ館のBIPVプロジェクトは総投資額約1.8億元、総発電容量3127キロワットに達する。稼働させれば、この二つの「エコ発電所」の年間平均発電総量は約284万キロワット時となり、毎年約1000トンの標準石炭を節約可能で、その燃料転換量は上海5000世帯の一年分の電気使用総量に相当する。さらに年間二酸化炭素排出量を約2500トン削減することが可能で、これはアウディ車250台が300キロを走った時の二酸化炭素排出量に相当。その他にも二酸化硫黄84トン、窒素酸化物42トン、煤煙が762トンが削減できることになり、まさに「エコ」の称号にふさわしいといえるだろう。

技術、製造ともにメイドインチャイナ

建物は万博のハイライトである。そのため上海万博でBIPV技術を採用するパビリオンは優れた外観、効率、実用性を誇っている。今回、中国館とテーマ館には各種太陽光発電ユニット計1万7866枚(変形ユニット3728枚を含む)が設置され、その総据付面積は2万8800平米に及ぶ。今回のBIPVプロジェクトは上海申能新能源投資有限公司の投資・建設によるもので、同社副総経理・趙国靖氏の話によると、パビリオンの特徴とBIPVの設計条件をふまえながら、この二つのパビリオンに合わせた個性的な太陽光発電ユニットの設置案をそれぞれ作成したという。

そのうち中国館は、68メートルのステージと60メートルの展望ステージを利用した単結晶太陽エネルギーユニットを設置する案が採用され、その総発電容量は302キロワットに及ぶ。さらに60メートルの展望ステージの周りには特注の透光型「ダブルソーラー」太陽電池を採用。この「ダブルソーラー」で作られたガラス製カーテンウォールは、従来のカーテンウォールの機能に加えて、太陽光をクリーン電力に変換することが可能で、しかも中国館が持つ広々とした視界に影響を与えないデザインになっている。

テーマ館はアジア最大の単体太陽光発電建築であり、屋根に面積約2万6000平米の多結晶太陽エネルギーユニットが敷かれ、広面積の太陽エネルギー電池板によってその発電容量は2825キロワットに達している。また、特別に設計された菱形配置のデザインによって屋根の美観が保たれ、ロングスパンの無柱空間が広がる構造には感嘆のため息をつかずにいられない。

建設工事中、施工技術チームは各太陽光発電ユニットの部材が持つ特徴に合わせ、広面積の屋根にも適用可能な高効率でスピーディーな据付技術を採用した。これによって60メートルのステージの挑檐部分に250キロの透光型特製ユニットを据付けるという施工上の難題がクリアできたばかりでなく、テーマ館の屋根に6万平米以上にわたって設置した太陽電池ユニット1万6250枚はその水平据付誤差が30ミリ以内に抑えられた。

本万博のBIPVプロジェクトではすべて中国国内の設備と製品が採用され、広面積透光型太陽エネルギー発電ユニット、防水型太陽エネルギー発電ユニットなど、数種の新型太陽エネルギー発電ユニットが採用された。また、中国国内で初めて500キロワットのハイパワーインバーターと高効率ユニット技術を開発・使用するなど、数種の新技術が採用された。これらのユニットと技術はすべて国内で開発・生産されたもので、一部の設備と技術は国内で初めて開発・使用される技術性の高いものである。

万博が促進させる太陽光発電産業

万博は世界最先端の理念、先端技術と先端製品を展示するステージである。今回の万博では、数多くの国のBIPVパビリオンが優れた技術サンプルケースになると見られている。

長年にわたり、光電分野の研究に携わってきた褚君浩氏が言うには、万博は見学、学習の場であり、海外の同業者と交流する絶好のチャンスなのだという。

「実はイギリス、フランス、ドイツのパビリオンの設計・建設中にもBIPV技術は見られ、国や地区同士で互いに学び合うことができます。われわれは他国の太陽電池、エコ建築のサンプルを見ることができ、これによりわが国のBIPV技術はさらなる発展を遂げ、さらには太陽光発電産業全体のレベルアップにつながるでしょう」

また、万博におけるBIPVの展示は建築理念と人びとのライフスタイルに対する一つの革命でもあると褚君浩氏は考える。「太陽光発電の材料と建築材料との結びつきによって、人びとに未来の都市づくりのアーコロジー理念が芽生えていく」というのである。

「未来の暮らしのなかでBIPV技術は発展を続け、生産コストは下がっていくでしょう。スマートグリッド(人工知能による電力網)により、人びとは自家太陽光発電による「余剰電力」をインターネットで販売することが可能になる。そうなれば電力エネルギーを需要に応じて分配し、供給と需要のバランスを取ることができます。もしかすると、未来の都市では住宅の高密度と快適な生活が見事に溶けあっているかもしれません」

 

人民中国インターネット版 2010年4月16日

 

 

 
 
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