時空を越える「高速鉄道」の旅  
 

文=孫玲

イギリス館ではきらめく星に見とれ、インド館では「タイムトンネル」で古代インド文化にタイムスリップすることができる。また、上海の路地やメインストリートをそぞろ歩きすれば、近代都市のトレンドを感じ、世界中から集結したアートの魅力を味わうことができる。そして万博の鉄道プロジェクトはというと、最短時間で都市間を走る高速鉄道で私たちに旅の楽しみを与えてくれることになりそうだ。

2010年、上海鉄道局は沪寧(上海—南京)、沪杭(上海—杭州)、寧杭(南京—杭州)を含む標準時速350キロ/200キロ以上の旅客専用路線と都市間鉄道計12本の全面着工を予定している。竣工すれば、上海から南京までわずか1時間、上海から杭州までは最短38分間でアクセスできる。これは上海万博によって時代が「高速鉄道時代」に突入することを意味するものだ。

高速鉄道と万博

万博が開催される184日の間、一日あたりの来場者は延べ40万人に達すると見込まれている。これは一つの「中都市」が大移動しているようなものだ。この膨大な数の人間を運べるのは、高速で便利な鉄道と道路である。7月1日の沪寧・沪杭高速鉄道の運行開始によって長江デルタ都市の「3時間交通圏」が実現した。この時間と距離の変化は長江デルタエリアの経済に新しい活力を与えると見られている。

高速鉄道の経済への貢献は乗車率による収益だけではない。より重要なのは地域の経済全体におけるけん引効果である。2009年に北京・天津間の都市鉄道が開通してからというもの、北京、天津及び周辺都市では人の往来によって経済が大きく活発化した。環渤海エリア全体、特に天津の不動産業界、飲食業界、観光業界、物流業界などの産業が飛躍的に成長を遂げ、天津で投資を行う国営大手企業も増加の一途をたどっている。二都市の間の人の流れは地域消費を効果的に伸ばし、環渤海経済圈は金融危機のなかで目を見張る好成績を上げた。京津都市間鉄道のこうした成功は長江デルタエリアもまた高速鉄道経済時代を迎えつつあることを示している。

2010年万博のテーマフォーラムは長江デルタの6都市で開催される予定だ。これにより上海と長江デルタ地区の連携が強まり、資源集中のメリットを生かしたプラットフォームが生まれた。すでに開催された「2010年長江デルタ農村観光フォーラム」では長江デルタの2省1市が集まり、高速鉄道経済の効果をいかに発揮するか、万博を足がかりに農村観光の発展の道をいかに模索していくかが話し合われた。長江デルタ地区の海安県も万博とうまく連動し、上海市楊浦区と全面的な戦略提携を結んで上海楊浦海安工業園を建設する予定である。将来的に沪通鉄道が開通すれば、海安駅から上海までの所要時間はわずか50分間となる見込みだ。

高速鉄道経済と万博を連動させれば、すべてのプロジェクトが熱を帯びてくる。杭州は「万博テーマ体験の旅」のモデル都市に選ばれてからというもの、国内外企業は城東新城、運河沿岸、銭江新城、丁橋などの優良プロジェクトに対してわれ先にと名乗りを上げ、招致企業投資は合わせて内資115.7億元、外資3.45億ドルに達した。孫忠煥杭州市市長は「万博というチャンスのなかで、杭州は沪杭高速鉄道の開通により上海とのつながりを急速に強め、長江デルタに溶けこむ。それにより上海にいっそうの貢献ができ、万博と連動しながら地理的な優位性を活かし、積極的な発展を遂げることができる」と語る。

高速鉄道がもたらす「万博圈」ライフ

旅行に要する時間が短縮されれば、空間距離に対する人々の概念もまた短くなる。万博による「高速鉄道時代」の到来にともなって、上海を中心とした周辺15都市の長江デルタ都市群もまた猛スピードで形をなしつつある。上海の見どころとして西湖が、杭州の景観として黄浦江が加わったといえるだろう。「上海で働き、杭州に住む」という理想はもはや夢ではなく、確実に実現できる状況にある。

高速鉄道は人びとの一日の行動範囲を大きく広げることになった。杭州で遊んで、蘇州でトレンドファッションを楽しみ、広州で食べる。そのすべてがわずか一日で実現可能となったのである。武漢から広州までの高速鉄道の運行が始まり、1000キロ以上の距離をわずか3時間で走ることが可能になった。鄭州から西安までの所要時間が2時間となったほか、ハルピン―大連、北京―石家荘、石家荘―武漢など数本の高速鉄道路線も2011年から2012年の間に開通する予定になっている。もっとも期待される京沪高速鉄道は2012年の開通後、1300キロ以上ある北京から上海までを所要時間わずか4時間で走る。

統計によると万博期間中、延べ7000万人の来場者が見込まれているという。うち延べ6000万人が宿泊地を必要とし、延べ2000万人が長江デルタ地区に滞在することになる。高速鉄道が開通すれば、この膨大な人数を長江デルタの各地域と中国の他都市に分散させ、上海現地の負担を軽減することが可能になる。

184日間、上海万博の「高速鉄道時代」は人びとに前代未聞の「万博圏」ライフを体験させてくれる。そして高速鉄道が本当に変えるのは、実は万博後の都市生活である。高速鉄道沿線駅がある都市は街としてのブランド力をつけるため、新しい都市づくりに取り組んでいるという。金融、ビジネス、住宅が一体となる「高速鉄道新城」もまさに計画の最中だ。2009年6月以来、「万博圈」周辺ではマンションの不動産価格は急速に高騰しているといい、すでに高速鉄道経済の都市開発効果は表われつつある。

世界に進出する高速鉄道の「ダークホース」

鉄道局の最新計画によると、2012年末、中国の旅客専用路線と都市間鉄道の運行距離は1.3万キロに達するという。そうなれば中国は、日本やドイツなど高速鉄道史の長い国々を超えて、高速鉄道の運行距離が世界で最も長い国となる。

日本とフランスの高速鉄路は、技術は高いものの、実際の運行では実用できないものが少なくないという。空間距離が小さいため、高速列車の加速が難しく、かといって速度を上げすぎると途中で客を乗せられず、乗客率の低下を招きかねない。逆に中国では長距離にわたって加速運行できるというメリットがある。中国は西洋国家の技術を導入しつつも、独自の高速鉄道の設備製造分野を発展させてきた。現在、中国は時速500キロ以上の高速鉄道技術を研究、開発している。

京津鉄路の運行後、アメリカ、インド、ロシアなどの専門家が視察に訪れた。中国の高速鉄道建設プロジェクトのすべてに参加した中国工程院院士の王夢恕氏は「中国は国内で建設した高速鉄道ネットワークをロシア、中央アジア、東アジアなど17ヵ国に広げる計画がある。現在関連国と交渉が進んでいるところで、2025年までに竣工させたい考えだ」と語る。そのほかにも、中国はアメリカやブラジルなどの高速鉄道建設プロジェクトの入札に参加している。中国は世界高速鉄道市場に現れた新たなダークホースだといえるだろう。

スピードは空間の距離を縮め、お互いの暮らしをより近づけてくれるものである。万博圈であろうと地球村であろうと、それは人びとの暮らしをより便利にするものであり、そうした生活は都市が内に秘めるものをより理想的な形で人びとに伝えることができるだろう。

高速鉄道路線

開通時期

乗車時間

北京—天津

2008年8月1日

30分

武漢—広州

2009年12月26日

3時間

上海—南京

2010年7月1日

52分

上海—杭州

2010年10月1日

38分 

杭州—寧波 

2010年12月 

36分 

南京—杭州 

2011年 

1時間

北京—上海

2012年 

4時間 

 

人民中国インターネット版 2010年4月19日

 

 
 
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