リフォームに乗り出す中国経済

 

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を務めた。
2月、中国は春節(旧正月)と元宵節を祝い、実質的に2010年の寅年が明けました。今年は、第11次五カ年規画(2006~2010年)の最終年にあたります。この期間中には、北京五輪(2008年)、「改革・開放」30周年(2008年)、新中国成立60周年(2009年)、上海万博(2010年)などがありました。そして、今なお世界経済に大きな痛手を与えている金融危機の発生など、中国史と世界史に残るような大きな出来事が発生し、かつ、経済の持続的発展と省エネ・環境保全といった「成長と制約」の二律背反関係が強く意識された5年でした。

成長と制約の狭間

目下、中国では「経済構造調整」がしきりと論じられ、実践されつつあります。昨年12月に開催された中央経済工作会議では「経済発展パターンの転換と経済構造調整が2010年の中国の工業経済発展の重点」とされています。また、今年2月、李克強副総理は「わが国は経済構造調整なしでは持続的発展が難しい重要な段階に入った」と強調しています。今後、中国の「成長と制約」の二律背反関係を解くカギは経済産業構造の調整にあると、中国の指導者は強く意識しているのです。

経済調整の意義

経済構造調整を「住まい」に例えれば、古い家の「増・改築」ほどの意味があるといえます。個人の利便性と快適な生活空間を求めての増・改築と同じく、産業の高度化を通じて①人民生活の向上と環境保全が意識でき②持続的成長が見込め③国際競争力がある経済・産業構造を新たに構築していこう、というのがその狙いといってよいでしょう。

すでに経済構造調整は、省・自治区・直轄市や産業レベルで広範かつ多種多様に実践されつつあります。

例えば、上海市では①ハイテク産業を中心とした先進製造業を発展させ、戦略的新興産業など新機軸産業が牽引する経済発展パターンの構築②第二次、第三次の産業間調整を行い、生産性サービス産業を中心とする産業構造の構築──などが行われています。

また産業分野では、2009年に『十大重点産業調整振興規画』が発表されています。これは2009年1月から2月にかけて、金融危機で困難に直面した企業の支援強化のため、自動車、鉄鋼、IT、物流、紡績、装備製造、非鉄金属、軽工業、石油化学、船舶の十産業について断続的に発表されたものです。これに加えて最近、この十大産業を含め各産業に共通した構造調整の手法として「兼併重組」(合併・再編、経営統合、M&Aに近い概念)が積極推進されています。

さらに、2010年に民間資本の寡占業種や社会事業分野(石油、鉄道、電信、公共事業、衛生・医療、社会保障、教育、文化関連など)への参入を促進するとしているなど、民営企業にも産業構造調整への積極参入が期待されている点は注目に値します。

「兼併重組」の実態

さて、中国の経済構造調整の成否を握るのは、「兼併重組」の行方と戦略的新興産業の発展にあるといっても過言ではないでしょう。

増・改築に当てはめると、「兼併重組」は改築、戦略的新興産業は増築といえます。「兼併重組」は、「雨後の筍」状況にあります。例えば、2009年、機械、自動車、非鉄金属、電子情報などの業界では50余の大型の「兼併重組」が実施されました。

鉄鋼業では、宝鋼集団公司による寧波鋼鉄公司、山東鋼鉄集団による日照鋼鉄公司、首鋼総公司による長治鋼鉄公司の「重組」が推進され、また、「兼併重組」により中国最大級の鉄鋼企業となった河北鋼鉄集団は、統一管理、統一経営を実施するなど産業の高度化、企業内部の効率的経営(省エネ、環境配慮を含む)が実行されています。今や、中国には1000万トン以上の粗鋼の年産能力をもつ鉄鋼企業が九社、うち、宝鋼集団、武鋼集団、華北鋼鉄集団は年産能力3000万トンに達しています。

「兼併重組」により中国最大級の鉄鋼企業となった河北鋼鉄集団の唐山鋼鉄公司薄板工場(新華社)

また、中国アルミ、中冶集団、五鉱集団などは、従来あまりなかった省・自治区の壁を超えた「重組」を実行しています。

こうした現実こそ、近年積極化している中国企業による鉄鋼など海外資源関連企業のM&Aや資源開発の背景にあるのです。

因みに、自動車業界では、百万台の年産能力を有する企業が五社あるとされます。こうして、生産販売で世界第一位を記録した中国自動車業界の国際競争力が高まれば、近い将来、日本の道路を走る「メイド・イン・チャイナ」車をよく目にするようになるかもしれません。

このほか、「兼併重組」などによる産業構造調整は、セメント、平板ガラス、電解アルミ、コークス、カーバイド、鉄合金、製紙、食品(アルコール飲料、化学調味料、レモン酸など)などの多くの業界で積極的に推進されています。

環境にやさしい新興産業の発展

戦略的新興産業とは、高次元デジタル工作機械、ハイブリッドカー、大型航空機などの先進的製造業やサービス・アウトソーシング、電子ビジネスなどの生産性サービスに加え、情報・インターネット(3G、次世代インターネットなど)、新エネルギー、省エネ・環境保全、新素材、新医薬、バイオ栽培、などの関連産業を指しますが、いずれも環境にやさしく、人民生活の質的向上に資する21世紀の産業です。

恐らくこうした新興産業の発展は、「兼併重組」などによる既存産業の高度化と同様に、21世紀の中国経済の国際競争力向上の命運を握っているといえます。

企業間での「兼併重組」、戦略的新興産業の育成・発展でリフォームされた中国経済が、世界経済の「成長と制約」の打開にどう立ち向かうのか、その責任と真価が問われているといえるといってよいでしょう。

 

人民中国インターネット版

 

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