観光立国を目指して

 

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を務めた。

昨年12月27日、河南省文物局は『三国志演義』で有名な魏の武王、曹操の墓が見つかったと公表しました。曹操が活躍したのは、いまから約1800年前のことですが、魏、呉、蜀が鼎立した歴史絵巻に魅せられている日本人は少なくありません。

曹操の墓ともなれば、新しい観光名所になることは間違いないでしょう。三国志のファンが多い日本には、訪ねてみたいと思う人は少なくないはずです。中国には悠久の歴史、千変万化の自然、多様な人々の衣食住があります。観光スポットの多さにおいて、中国の右に出る国はまずないのではないでしょうか。

世界一の観光大国へ

曹操の墓発見直前の12月3日、国務院(政府)は『観光産業の発展を促進するための意見』を公布し、観光産業を中国の新たな戦略的基幹産業にしていく方針を明らかにしました。

2009年の国内観光客数は前年比11.1%増、延べ19億2千万人で、観光収入は1兆200億元で、前年比16.4%の伸びを示し、付加価値額で国内総生産(GDP)の4%強を占めました。今年は国内観光客数で13%増、観光収入で前年比13%増が見込まれており、フランス、スペイン、米国を抜いて世界一の観光大国への躍進が期待されています。

豊かさのシンボル

昨年来の観光業の躍進は、政策的措置に加え①人民生活の向上・多様化②観光制度・インフラの整備③経済発展パターンの転換――の3点に集約して説明できます。

中国の一人当たりGDPは2008年に3000ドルを超え、今年は4000ドルになるとみられています。一般的に、一人当たりGDPが3000~5000ドルになると、観光、レジャー関連の消費が急増するといわれます。所得が向上すれば、生活が多様化し、「遊び心」や「ゆとり」が生まれるものです。観光はこれに応える絶好の対象といってよいでしょう。

また、2009年には観光クーポンを発行したり、割引価格を設定したりする地方や関連企業が少なくなかったとされます。2009年8月には、『中国観光ホテル規範』が改正され、チェックアウトタイム、延滞チェックアウト加算料金の徴収などに関わる規定が排除されました。宿泊客の都合に配慮するホテルが増えたのも観光の発展に大きく貢献しています。

毛沢東主席の故郷である湖南省韶山は、「紅色観光」の観光客でにぎわっている

身近になった国内旅行

2009年、新中国は成立60年を迎えましたが、「紅色観光」が観光促進に果たした役割も大きいといえます。「紅色観光」とは、「革命聖地への訪問」を意味しています。

「紅色観光」が提唱されたのは2004年。昨年10月の国慶節の連休(約1週間)には、北京、延安、湘潭、遵義など全国11カ所の紅色観光都市を訪れた観光客が延べ1850万人の多さであったとのことです。

観光が身近になったことも指摘できます。中国は高速道路と鉄道の総延長距離で世界第2位にあり、高速鉄道(日本の新幹線に相当)の営業距離では世界一となっています。交通網の整備・発達に加え、最近のマイカー族の増大も国内観光を身近なものにしているといえます。

裾野と波及効果が大

さて、観光産業は「無公害工業」といわれます。中国流にいえば、「緑色産業」ということになるでしょう。環境保護と工業発展の両立が希求されている今日、経済規模で世界2位、CO2排出量で世界一位の中国にとって、豊富な観光資源の活用を通じ、観光産業を育成・発展させる意義は極めて大きいといわなければならないでしょう。

また、観光産業の裾野は広く、他産業への波及効果も決して少なくありません。観光産業の発展は、例えば、交通、ホテル、飲食、文化、娯楽など産業の発展を促すと期待できますし、金融、物流、情報、映画など文化産業の発展とも関係しています。

戦略的基幹産業となったことで、観光関連分野への投資(交通、ホテル、ゴルフ場、遊興施設関連など)も増え、また雇用の確保への貢献が期待されます。

上海万博で加速

ところで、主に海外からやってくる入境観光客数はどうでしょうか。2009年は、世界金融危機の影響も大きく、前年比2.7%減(外貨収入で2.9%減)とやや落ち込みました。2010年はそれぞれ5%増(延べ1億3200万人)、8%増(430億ドル)を見込んでいます。

政策的支援、環境資源の開発、スピードアップ化などで、今後、従来から中国観光に指摘されてきた「資源一流、開発二流、サービス三流」という現状は大きく改善されるでしょう。

何より、今年は上海万博が5月から半年間にわたって開催されます。海外から多くの人が中国を訪問し各地を観光することでしょう。上海万博は中国の観光産業の発展を加速することは間違いないでしょう。

百聞は一見に如かず

同時に、中国の観光業の発展にとって忘れてならないのは、中国人の海外観光の発展でしょう。全国観光工作会議公布資料によると、2010年の出国観光客数は7%増の延べ5100万人となっています。入境観光客数のほぼ2分の1です。

観光は、「百聞は一見に如かず」の実践であり、相互理解の促進に大いに効果があります。海外からの観光客が増えるとともに、それ以上の比率で海外観光する中国人が増えることを期待したいものです。

現在、経済交流の拡大には、相応の相互理解の促進が何より求められているとする識者が少なくありません。その意味で、チャイナ・パワーを発揮するうえで観光産業の発展の意義は限りなく大きいといっても過言ではないでしょう。

 

 

人民中国インターネット版 2010年4月26日

 

 

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