万博で加速する上海の低炭素化  
 

 

低炭素がコンセプトのスーパーショー

太陽光エネルギーを最大限に利用した陽光谷(サンバレー)から二酸化炭素の排出がゼロであるロンドンのゼロ炭素館、さらに大豆の繊維で作られ、生物分解が可能なスイス館まで、上海万博はいわば低炭素建築の展示会である。会場内で施工を担当するプロジェクトマネージャーによると、建設工事の中で最もよく耳にする言葉は「環境保護」と「低炭素」だという。

全長1キロの「万博軸」は文字通りの低炭素エコストリートである。なかでも上から太陽光を取りこみ、下に雨水を蓄える「陽光谷(サン・バレー)」はサッカー場ほどの大きさのラッパ状開口部を通じて、高さ40メートルの上空から太陽光を地下に取りこむことができる。「万博軸」の地下には全長800メートルの巨大な貯水池があり、7000トンの水を蓄えることが可能で、会期中は会場全体の予定使用水量の半分にあたる5万立方メートルの生活用水を供給できると見込まれている。また、川の水力と地下水のエネルギーシステムを利用し、会場全体の空調費用を20パーセント削減することができる。中国伝統様式の斗拱をデザインに取り入れた中国国家館は「東方之冠」と呼ばれ、一層一層と重なる建築デザインが注目を集めており、夏は上階が下階を日差しから守ることで温度を下げる効果があるとされる。地区館はエコロジー農業のランドスケープ技術を採用し、熱を効果的に遮断することで建築物のエネルギー消費を25パーセント以上軽減することができる。

ベストシティー実践区にあるロンドンのゼロ炭素館は三角形の屋根の4階建て建物二棟が前後して隣り合うデザインになっており、その原型は世界で初めて二酸化炭素排出ゼロを実現したロンドン南部の都市、べディントンの「ゼロエネルギー住宅団地」である。ゼロ炭素館のコーディネイター・陳碩氏いわく、同館は単なる家屋ではなく、低炭素のコンセプトを凝縮させたプラットフォームに見えるという。ゼロ炭素レポートホール、ゼロ炭素レストラン、ゼロ炭素展示ホール、そして六つのゼロ炭素モデルルームを配置した同館は建築分野における気候変化に対するソリューションをあらゆる角度から紹介。「水なし」「電気なし」「熱なし」と、まるで原始時代の洞窟のようだが、「高炭素」の快適性を最大限に再現することに成功している。また同館の空調は太陽光と風、地熱のエネルギー連動を利用。屋根に取り付けられた色とりどりの換気ボード22個が風向きによって動くことにより、温度圧と風圧で新鮮な空気を各部屋に送りこみつつ、室内の空気を排出してくれる。そのほか、同館で必要不可欠となる電気と熱もレストランの残飯と廃棄された食器を使って発電したもの。特殊分解により、食品廃棄物と有機質が生んだ混合微生物のごみから電気と熱が発生し、生物エネルギーを放出。システム処理後は田畑の肥料になり、つまりごみが「宝」となるというわけだ。おまるの洗浄や植物の水やりにも屋根から採集した雨水を使用可能で、水道水をほとんど使わなくていいことになる。

ドイツ館では通気性のいい網状の革新的建材を外壁に使い、パビリオン内に熱気がこもるのを防ぐことで空調設備の負担を軽減している。また世界気象館は人の「皮膚」にたとえられる壁の特殊コーティングにより、建物全体が防風、防雨、通気の役割を果たしているし、スイス館は大豆繊維でつくられた赤いカーテンが発電、自然分解を行ってくれる。一方、カナダ館は大がかりな展示品や物を置かず、展示エリア内の空気の流れを確保。スペイン館は防湿、防火効果のあるトウのつるでできた材料を採用している。

低炭素生活は生きる姿勢であり責任である

上海で働く女性、盧さんはインターネットであるサイトを見つけた。「緑色出行(グリーン外出)」のオフィシャルサイトである。そのサイトでは「カーボン計算機」を使って、各種交通機関で出かけた場合のそれぞれの二酸化炭素排出量を簡単に割り出すことができる。「計算するまで知らなかったのですが、同じ距離でも車を運転した場合の二酸化炭素排出量は公共バスで出かけた場合の数倍になるのです」と盧さんは言う。

万博期間中は延べ7000万人の来場者が国内外から訪れることが予想されているが、試算によれば来場者たちが移動する際に発生する二酸化炭素排出量は万博で排出される二酸化炭素総量の80パーセントを占める。万博期間中、最長にして最大規模となる一般市民向け低炭素化運動「万博グリーン外出」キャンペーンの発起人の一人、アメリカEDF(環境防衛基金)の張建宇氏によると、その目的は万博参観者の移動による二酸化炭素の排出を効果的に抑え、それを補うことのみにあるという。そして、もしも国内外からのゲストたちがカーボン計算をし、オフセットを行ったなら、二酸化炭素の中和を可能にするだろうと呼びかける。個人による自発的なカーボンオフセットのシステム利用が広まれば、最少でも122.25トン、最大で366.74万トンのオフセットが可能になると張氏は語る。

上海万博実行委員会と国連環境計画(UNEP)が共同編さんした『中国2010年上海世博会緑色指南(中国2010年上海万博グリーンガイド)』では、国際・国内線の航空機で訪れる人はぜひカーボンクレジットを購入し、搭乗による二酸化炭素排出分を補うよう勧めている。また、江蘇省、浙江省、上海の環境保護部門も万博の来場予定者に対し、低炭素ですむエコロジーなアクセス方法をできるだけ選ぶようにし、可能なかぎり二酸化炭素の排出を相殺するよう呼びかけている。

いま低炭素化の意識が人びとの間に浸透するにしたがって、交通手段に限らず盧さんと同じように「低炭素ライフ」を送る上海市民が増えている。たとえば、こまめに電気を消したり、待機電力をオフにしたり、外出時は自前のはしを持参し、プリントアウトは両面印刷にするなどである。「不便ではないですよ。むしろ体にいいし、サスティナブルライフ(持続可能な暮らし)の追求でもありますから」と盧さんは言う。

上海にとって「低炭素化」はすでに万博会場に限ったものではなく、都市全体で取り組んでいく目標になっている。全長420キロを超える軽便鉄道網と整備が進むバス路線網、新エネルギー車のバス路線での使用、総合環境の整備、市民の低炭素ライフスタイルの推進――おそらくこのすべてが上海という都市に新たな活力を与えてくれるに違いない。国連事務次長で国連環境計画執行主任のアキム・スタイナー氏はこう語る。

「上海は10年近くにわたり、万博開催を原動力として汚染の抑制など環境保護の取り組みでめざましい実績を上げてきました。きっとこの街は緑にあふれた未来を私たちに体験させてくれることでしょう」

 

人民中国インターネット版 2010年6月2日

 

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