子どもたちが「職業体験」――「育楽湾」をたずねて  
 

王新玲=文

万博会場には子どもたち専用の施設が2カ所ある。「ドック(船塢)劇場」と「育楽湾」である。どちらも浦西エリアに位置する。昼下がり、記者は浦東エリアから地下鉄13号線に乗って浦西エリアの盧浦大橋駅で降り、さっそく「育楽湾」に向かった。手前の「ドック劇場」では『西遊記』のアニメーション映画を上映中で、劇場の隣のコカコーラ館の前では、映画の主人公たち三蔵法師、悟空、八戒、悟浄、白馬の着ぐるみが子どもたちと交流、その楽しそうな情景についつい足を止める。「育楽湾」までの道は10分たらずのはずが、道の両側に並ぶさまざまなアトラクションに誘惑されてしまい30分近くかかってしまった。

真剣なまなざしのパティシェ(右の2人)。ケーキ屋さんで

ほんとうの街の三分の二の大きさで

さまざまな色で塗られた壁が現れると、そこが「育楽湾」だった。予約の手続きがすむと、親と子どもに同じ色のリストバンドが渡される。館内は4200平方メートルもあり、子どもが迷子になった時には、館員がいっしょに来ている親の手首のリストバンドに機器をあてると、子どもがどこにいるかが分かるしくみだ。子どもの手首のリストバンドからも大人に連絡することができる。退場時は親と子どものリストバンドが合っているかどうか必ず確認する。不慮の事故が起きないよう万全の態勢がとられているのだ。

階段を下りると、そこは地面より一段くぼんだ「地下の街」になっていて、まず見えたのは信号機。街を一回りしてみて、ここには鉄道が敷かれ、高速列車があり、消防署、ピザ店、自動車修理工場、ロボット工場、郵便局、銀行、搾乳所、さらにはテレビ局や雑誌社まであって、カメラマン用にはデジタル一眼レフカメラが用意されていたりと、至れり尽くせりだ。ちょうど日本の「キッザニア」のような施設なのである。

テレビ局のスタジオには二人のキャスターの立つ位置、二人のビデオカメラマンの立つ位置が設けられているだけでなく、ディレクター室まであって、六十人は座れる観客席がある。

どの建物の前にも作業服を身に着けたお兄さんお姉さんが立っていて、子どもたちを迎え、なにくれとなく世話してくれる。

館全体がほんとうの街の三分の二の大きさに造られていて、子どもたちの目にはほんとうの街のように映るのである。

子どもたちを主人公に一時間のドラマ

子どもたちがこの街にやって来るのはさまざまな仕事を体験するためである。準備から始まり、ひとつの「街のドラマ」が終わるまでは一時間。一人ひとりの持ち場が決まると、お兄さんお姉さんたちの世話で全員が作業服に着替え、簡単な「職業訓練」を受ける。消防隊員などにはウォーミングアップも行われる。約十分後、二十五の職場がいっせいに動きはじめ、街のドラマが始まる。

「職業証明書」を手に得意顔の林錦程くん。(写真=謝鵬)

消防隊員たちはりりしい隊員服姿で記念写真(新華社)

記者も忙しい。あちらを見たり、こちらを見たり。

乳製品工場では乳搾り工が桶を持って三頭のホルスタインの乳搾りに。牛はどれも本物ではないが、乳房から牛乳が絞り出せるようになっている。絞り終わると工場長に見守られて作業場へ。絞りたての牛乳を検査、殺菌し、栄養添加物を加えると新鮮なミルクができあがる。コップに満たされたミルクを手に乳搾り工はにっこり。

モデルたちは着る服や帽子、バッグなどを選び、ステージへ。ステージ後方の壁のディスプレーには本物のモデルたちのファッションショーの様子が映し出される。

通りでは五歳ほどの運搬工たちが一生懸命にダンボール箱をトラックに運び込んでいる。彼らと荷物を載せると、運転手はトラックを発車させ商店へ。

ケーキ屋ではケーキのデコレーションに忙しく、自動車修理工場ではパンクしたタイヤの取り外しが終わったところ。車は目にもまぶしい黄色のスポーツカーだ。警察官は発生したばかりの事件の証拠探しに余念がない。証拠や手がかりは、あらかじめどこかに隠されていて、警察官はそれを聞き込み、捜査を通じて見つけ出さねばならない。

と突然、火災警報が鳴り響いた。火事が発生したのだ。消防隊員たちはすかさず赤い消防車に飛び乗り火事が起きた灰色の建物へ。記者が現場に駆けつけてみると、火はすでに消え、あたりは床も壁も水浸しに。カメラマンたちはその様子をとらえようとシャッターを押す……。

ドラマの最後、各職場では締めくくりが行われ、お兄さんお姉さんたちから子どもたちにそれぞれ「職業証明書」が渡される。証明書には従事した職業とその特徴が記されている。親たちの中には次のドラマで自分の子にどんな職業に従事させたいかを決めて、職場のお兄さんお姉さんに話しかける者もいて、館内はにぎやかだ。

大人たちの世界を知り理解するために

二十五の職種ではあるが、日常の社会生活をカバーしていると言っていい。「ひとつのドラマに二百人に近い子どもたちが出演し、毎日午前九時から五時まで、ドラマが繰り返されます」と館員が知らせてくれた。

「育楽湾」は文字通り「楽しい教育の場」と言っていい。誰でも幼いころに一度は大人をまねて「ままごと遊び」をしたことがあろう。しかし、タイヤを取り外したり、ケーキをつくったり、郵便物を仕分けしたりしたものの、その場に本物のデジタルカメラやトラックがあっただろうか。

「育楽館」の魅力はここにあるのかもしれない。子どもたちの目には街は決してミニチュアの世界ではなく、一人一人がみな大人であり、それぞれの仕事はどれも正真正銘の職業なのである。

一人のおばあさんが次のように記者に話してくれた。「わたしの孫は落ち着きがなく、お医者さまからは注意欠陥・多動性障害と診断されましたが、きょう、孫の様子を見ていて、この子が四十分間も静かに座り続けていられことができると分かりました。四十分間、孫はずっとロボットの組み立てに夢中になっていたのです」

「育楽湾」に仰々しい意義付けをする必要があるだろうか。子どもたちが楽しそうにダンボール箱をトラックに運び込む様子を目にし、記者は、子どもたちには職業差別感などなく、あるのは体を動かして働きたい、お父さんお母さんの毎日の生活がどんなものなのかを知りたい、「自分は成長したんだ」と思いたいという気持ちだけなのかもしれないと感じたのである。

記者のメモ

■ 身長が1.2メートル以上で、年齢が5歳から15歳までの子どもが対象

■ 希望者が多いときは、予約を。自分の子どもの出演時間になるまで、近くの「ドック劇場」や宇宙の家館、コカコーラ館などで時間待ちするようお勧めする。いずれも子どもたちにふさわしい遊びが用意されていて数時間をすごすことができる。

■ 親にとっても1時間のドラマの間は絶好の休憩時間になりそうだ。子どもたちがドラマの主役として熱演している間、地下の涼しい空間でゆっくり休める。

 

人民中国インターネット版 2010年6月10日

 

 
 
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