南京大学長江デルタ経済社会発展研究センター執行主任、長江学者特別客員招聘教授・劉志彪氏

南京大学長江デルタ経済社会発展研究センター執行主任、長江学者特別客員招聘教授・劉志彪氏

個人的な認識ですが、珠江デルタや環渤海湾経済圏には上海のような中心がありません。長江デルタ経済圏が優位性を確立できたのは、主に上海という現代サービス業機能の核心を持つことによります。長江デルタ経済圏が「メイド・イン・チャイナ」の策源地となった主な原因は、上海が多国籍企業の本部を置く条件を満たしていたからです。上海はその進んだ現代サービス業によって、この地域の中で、取引コストダウンというカギになる働きをしたのです。南京、蘇州、杭州などは製造のコストダウンに集中でき、これによって長江デルタ経済圏の優位性が生み出されたのです。

――先日、国務院が承認した『長江デルタ地区の区域計画』は地域発展の新しい補助推進装置になることが期待されています。これについて、どのように分析されますか？

この『計画』は、長江デルタ経済圏の発展に明確な任務と目標を提示すると同時に、グローバル化の中で中国の発展方向の確定に、主に五つの分野で明確な指導を示しています。

まず最初は、発展目標を中国の「総合的実力ベストエリアの一つ」から「中国総合的実力ベストエリア」に高めることです。中央がすでに長江デルタ経済圏が中国経済発展の中で主導的作用を果たすのを肯定していることが分かります。

二つ目は発展の手段で、長江デルタ経済圏一体化の概念が中央の文書に取り入れられたことです。これは長江デルタ経済圏あるいは中国の地域経済発展にとっても、マイルストーンの意義を持つものです。

三つ目は、産業の序列の位置決めで、国家は長江デルタ経済圏にかつての「三二一」産業構造（三、二、一次産業の順に規模が大きい）から、「現代サービス業を主体とする産業構造を形成する」よう求めているのです。

四つ目は、製造業の発展における位置付けで、過去の「世界の製造業センター」は「国際先端製造業基地」に昇格しました。これは、長江デルタ経済圏が今後「メイド・イン・チャイナ」を送り出す役割から、「グローバル先進製造をリード」する中心地の一つとなることを意味しているのです。

最後は、地域の範囲についてです。過去の「十六都市」から「上海、江蘇と浙江の全体地域」あるいはさらに拡大し、「汎長江デルタ地域」の形成と発展に寄与するよう大きな期待をかけているのです。

2010年7月1日、長江デルタ経済圏の新たな動脈として上海と南京を結ぶ高速鉄道が開通、350キロの距離が最短73分になった(東方IC)

――長江デルタ経済圏は目下、中国で最も経済的活力を持つ地域の一つです。この活力の源はどこにあるとお考えですか？

まず、競争によって活力が生み出されたということです。各地方政府がこの地域の発展を求めて競争が発生しました。競争の主体は地方政府です。次に、M&Aは長江デルタ経済圏で産業の一体化の重要な手段となっており、地域内での分業配置を最適化しました。例えば、上海汽車が揚州儀征汽車を買収後、研究開発は上海で行い、生産・製造は揚州で行うようにしました。こうしたことは、政府にはできないことです。

上海を中心とする長江デルタ経済圏は蘇州、杭州、南通などの製造業拠点を持つ(東方IC)

ある大型都市圏で、最も重要なカギになるのは、中心都市の建設です。長江デルタ経済圏の経験を広めるには、まず、政府のリードのもと上海のような現代サービス業を主体とする都市を築くことです。上海の形成は自身の歴史によるところのものですが、政策による推進を軽視してはいけません。米国ネバダ州の奇跡は、政策がメガロポリスの発展を推進した好例と言えるでしょう。

――現在、長江デルタ経済圏の発展の中で、どのような困難や障害があるとお考えですか？

個人的な考えですが、現在の最も大きな困難は一体化における障害です。「ハードウェア」の問題は、高速道路と滬寧（上海―南京）、寧杭（南京―杭州）、滬杭（上海―杭州）高速鉄道の相次ぐ建設で突破しつつあると言えます。しかし、「ソフトウェア」問題は、例えば政府の働きの転換方面においても、今のところはっきりした答えは出ていません。現在、政府は多くの経済的な働きかけを担っています。つまり、政府は企業の役割を演じていますが、今後は公共の役割を強め、地域内の調和を図る役割にシフトしていくはずです。

政府は経済領域の中で強い立場の役割を演じて、急速な発展の中でほかにはできない役割を担ってきました。しかし、長江デルタ経済圏の発展が今日の段階に達した現在では、こうした転換が求められているのです。

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