国際都市上海で開かれる意味

 

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を務めた。
日本は、これまで内外で多くの博覧会を主催しかつ参加してきました。博覧会というと多くの日本人は、まず、今からちょうど40年前の1970年に開催された大阪万博を思い浮かべるのではないでしょうか。大阪万博のテーマは、「人類の進歩と調和」でした。米国の「アポロ12号」の月面着陸が実現した直後でもあり、「月の石」が展示されたことが、非常に多数の入場者を集めた要因の一つとなり、人類の進歩に大きな期待が寄せられていました。

大阪から上海へ

大阪万博では、動く歩道、携帯電話、電波時計、コンビニエンス・ストアー、ファミリー・レストラン、缶コーヒーなどが登場し、その後、実用化され、日常生活が便利になりました。当時、話題を呼んだリニアーモーターカーや電気自動車などは、日本ではまだ完全に実用化されていませんが、前者については、上海では実用化されていますし、電気自動車はまさに今、上海万博会場で参観者を乗せて走っています。大阪万博の「人類の進歩」の一歩が上海万博で歩み出したといってよいでしょう。

上海万博のテーマは、「より良い都市、より良い生活」(中国語は城市、譲生活更美好)です。高成長を目指し、「向前看」(前のみを見ること)してきた人々が、ふとたたずんで周りを見まわす余裕が出てきたとき、築いてきた都市の環境や日々の生活は、「より良い」という意味を問い始める時代に変わってきました。これが今後どう実現され、どんな新技術や新事象が生まれるのか、未来都市、未来生活を垣間見る上で、上海万博は大きなヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

二人に一人が都市に住む時代へ

都市をテーマにしたのは、万博史上、上海万博が初めてです。目下、中国は都市化を推進しています。中国の現在の都市化率は47%(全人口に占める都市住民の比率は6.22億人)、もうすぐ二人に一人が都市に住むことになります。

2008年現在、中国の都市数は655市、そのうち、人口百万以上の都市が122市あります。

都市化率十傑(2006年時点)をみると、上海市が第一位で、以下、北京市、天津市、広東省、遼寧省、黒龍江省、吉林省、江蘇省、新疆ウイグル自治区、内蒙古自治区の順(2006年)となっており、上海市の2008年時点の都市化率は実に86%(北京76%、天津60%)でした。都市の行方が人々の生活と密接にかかわっていることがわかります。上海万博の「より良い都市、より良い生活」は、まさに、中国の時代の要求にあったテーマと言ってよいでしょう。

中国史の中の国際都市

上海万博の開催地、上海は中国を代表する国際都市です。中国史を紐解くと、中国には古代から多くの国際都市がありました。例えば、北宋の首都であった開封を描いた絵巻である『清明上河図』を見ると、現代にも通じる賑わい、庶民生活の活気が伝わってきます。

中国館では、巨大な『清明上河図』(長さ100メートル以上、高さ6メートル以上)に描かれた人物や風物を、生きているかのごとく動かせており、そのスケールの大きさと迫力が、大いに話題を呼んでいます。

中国館の目玉展示、長さ130メートル、高さ6.5メートルの巨大スクリーンを使った動画の絵巻『清明上河図』を見学している来場者たち(新華社)

また、元のフビライに仕えたイタリア人のマルコ・ポーロは、杭州について、「世界一豪華で富裕な都市」であると、著書『東方見聞録』に記載しています。このほか、唐の長安(現在の西安)など、その当時、国際都市の名をほしいままにした都市は少なくありません。

国際都市上海での万博開催

さて、今回の万博の開催地である上海はどうでしょうか。今、世界で最も賑やかで活気がある都市ではないかといわれていますが、世界第二位の経済大国となる中国で一人当たりGDPが最も高いなど、当時の開封や杭州、そして長安に勝るとも劣らない国際都市です。上海は、目下、世界の金融センター、世界の航運センター(物流・交通拠点)を目指しています。今後、上海は国際都市として、ますます世界の関心を集めることになるのは確実です。

かつての大都市と異なる点といえば、都市の繁栄、即ち、「より良い都市、より良い生活」のためには環境保全が不可欠であると、国家・市民レベルで強く意識されているところです。

日本館では  

日本も一極集中などと形容されるほど、強烈な都市化が起こりました。2005年には平成の大合併の影響により、都市化率は実に86%(注)になったとされます。

その2005年に開催された愛知万博(愛称は愛・地球博)のメインテーマは、「自然の叡智」で、サブ・テーマは、①宇宙、生命と情報、②人生の「わざ」と知恵、③循環型社会、であり、地球環境をいつくしむ精神が強調されました。愛知万博の会場は、閉幕後内外パビリオンを始めとしすべてが整理され、開幕前の自然豊かな環境に戻しています。

上海万博における日本館のテーマは、「心の和、技の和」です。「和」が強調されていますが、「和」とは、発展と自然との調和を大切にする精神(心)を地球的規模でつなげていきましょうという意味が込められています。

世界には多くの都市があります。万博史上最多のパビリオンが参加する上海万博で、改めて地球環境への関心が高まることを期待したいものです。

(注)2005年の総人口に占める人口集中地区の割合は66%である。

 

人民中国インターネット版 

 

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