万博がもたらす観光効果

 

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長を務めた。
上海万博は、6月5日に入場者総数が1千万人の大台(5日の入場者数は52万5000人)を突破しました。会期中の予定総入場者数(7千万人)の7分の1が達成されたことになります。

夏休みを控え、今後さらに客足が速まることでしょう。40年前の大阪万博の一日の最高入場者数は83万人でした。上海万博は最大1日100万人を超える日もあるでしょう。

万博開催の意義のひとつに、開催国に対する国際理解の促進が指摘できます。同時に、開催国の国際舞台へのデビューという面もあるでしょう。中国は、国際経済の現場(舞台)において主役(GDP世界第2位)の座を射止めましたが、上海万博は、対中理解を促進し、中国が国際舞台でさらに飛躍するための大きな機会でもあります。

第1回万博と中国

中国が初めて国家として参加した万博(注)は1904年セントルイス万博ですが、第1回万博(ロンドン万博。会期140日、のべ630余万の参観者)が開催された1851年には、すでに中国で会社経営をしていた一部の外国人商人と中国人商人が、シルク・茶・漢方薬などの伝統的な商品を展示しています。その当時の中国館の展示エリアを描いた版画には、「メイド・イン・チャイナ」の展示品に見入る山高帽子の紳士とドレスアップした貴婦人の姿が見てとれます。また、開幕式の模様を描いた油絵には、大勢の出席者の中に、一人の中国人の姿が描かれています。

昨年、中国は米国に次ぐ世界第2位の製造国、さらに、ドイツを抜いて世界最大の輸出国となりました。今、世界市場を席巻している「メイド・イン・チャイナ」は少なくありませんが、当時の展示品は紳士淑女から重宝がられ、彼らの生活を豊かにした品々でありました。その多くはロンドン住民にとってまだ羨望の対象であったと思います。こうした伝統的製品を介して対中理解が進んだことは想像に難くありません。しかしながら、当時、「メイド・イン・チャイナ」の地を踏み百聞一見できる人は極めて限られていたはずです。

陝西館ではロボットの玄宗皇帝と楊貴妃が来館者を迎える

万博観光で進む対中理解

それから1世紀半。上海万博には350万人(日本から100万人)が海外から訪れると予想されています。海外から上海万博詣でをする人たちは、同時に中国各地を観光することになるでしょう。観光客が増えその国の国際理解が進むというのも、万博開催の大きな成果となります。上海万博の開催を契機に、対中理解の主役がモノからヒトへと大きく変わったといえます。

さて、上海万博には、海外からの観光客を含め7千万以上の来場者が期待されているわけですが、そのうち、30~35%(2千余万人)が長江デルタ地区(上海市、江蘇省、浙江省などの都市から構成)を観光するとされています。上海万博は、長江デルタ観光圏の確立にも一役買うことになるでしょう。

中国旅游(観光)局は、「参観世博、旅游中国」(万博を参観し中国を観光しよう)をキャッチフレーズに2010年を「中国世博旅游年」とし、観光客誘致に本腰を入れています。開催地上海でも、万博開催による影響で、観光外貨収入が80億ドル(約7千500億円)、その相乗効果を入れた観光総収入は3100億元(約4兆2000億円、全市GDPの約9%)に達すると試算しています。上海万博のもつ波及効果は、観光業や観光関連産業をけん引するのみならず、周辺地区ないし華東地区全体、さらには、中国全体の観光業の発展に計り知れない作用をもたらすことになります。中国が世界最大の観光大国になるのは、時間の問題といってよいでしょう。

双方向観光を促進する上海万博

万博には、観光客に加え、各国・地域の要人、著名人、メディア関係者も多数やってきます。万博は、「万博外交」の場であり、また、ニュースの中心でもあるわけです。

上海万博開幕後1カ月を過ぎたある日、日本館を2組のミッションが訪問しました。某国の観光大臣と日本の某県の知事一行でした。いずれも上海万博視察を第一義としながら、中国からの観光客の誘致を図るための訪中でした。知事一行は、中国の航空会社との間で定期便の運航が決まったと大いに喜んでいました。

万博は、開催国の海外観光を促進する効果があります。大阪万博の開催を契機に、海外旅行をする日本人が増えたのもその一例と指摘できるでしょう。

中国旅游研究院の発表によれば、昨年、中国人が海外旅行で支出したのは420億ドル(約3兆8000億円、前年比16%増)で、1982年以来初めて入超を記録しました。万博会場は、世界を居ながらにして百聞一見できる絶好の機会です。上海万博会場で世界に対する関心が高まれば、中国人の海外観光はさらに増えると期待できます。

日本は最近、中国からの観光客を増やすため、今年7月から個人観光ビザの発給基準を大幅に緩和しました。日本にとどまらず、中国からの観光客を積極誘致しようとする国・地域は少なくありません。

上海万博は、中国人観光客を誘致しようとする側と世界を見てみたいという中国人の出会いの場でもあるわけです。

 

(注) 新中国成立後の初参加は1982年の「エネルギー」専門世界博覧会(米国テネシー州ノックスビル市)。以後、中国はほとんどの万博に参加している。

 

人民中国インターネット版 2010年8月4日

 

 

 

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