神秘的なオルゴールミュージアム  
 

高原=文・イラスト馮進=写真

あなたはオルゴールをお持ちですか?

生まれて初めて手に入れたオルゴールを覚えていますか?

上海でオルゴールミュージアム(上海八音盒珍品陳列館)を訪れた際、私は最初に手にした自分のオルゴールのことを思い出した。箱の外側には精巧な細工が施されており、ふたを開けると小さな鏡が付いたネックレスケースになっていた。そのケースの底に美しいバレリーナが一人横たわっている。彼女を箱の中の小舞台に立たせると、映画『ある愛の詩(うた)』のテーマ音楽に乗って、いつまでもくるくる舞い続ける。

その時、ひょっとしたらこのかわいらしいバレリーナは全く違う世界に生きているのかもしれないという空想に私は浸っていた。ふたを閉めると、彼女はオルゴールの演奏家たちを引き連れて、別な世界に逃げて行く。ふたを開けると、彼女たちを再びこの世界に戻すことができる。とにかく、この音を出す箱は何とも神秘的だと、感じた。

最初のオルゴールを手にしてからこれまで十数年の間に、いくつものオルゴールを手にした。しかし、細工はだんだん粗雑になり、ごまかしの安物ばかりで、念入りに作ったとは思えず、神秘的な感じはまるでない。

今回、上海オルゴールミュージアムの素晴らしい収蔵品を見て、最初にオルゴールに出会った時の神秘的な感動がよみがえったように感じた。すべてが機械と歯車で動かされている。電子部品は一つも使われていないのに、複雑でしかも精密な動きをする。私は『偃師伝説』を思い出した。周の穆王の時、ひとりでに踊る人形を作ったという名工を題材にした小説だ。簡単に木を人に変える「木甲術」を使って、人形を生きた人間にしてしまうなんて、信じられるだろうか。

上海オルゴールミュージアムにはヨーロッパ製の200を超える年代物のオルゴールと西洋機械人形(オートマタ)が収蔵されている。ここに機械人形が一緒に展示されているのは、多くの人形に小型オルゴールが内蔵され、音を出すからだ。

オルゴール人形

ドイツ製ディスク型オルゴールの金属製円盤

ハンドル式オルゴール

座れば鳴り出す「オルゴール椅子」

最初に見たのは、管弦楽の演奏を再現するシリンダー型オルゴールで、1880年にスイスで誕生した。原理と構造は安物と同じだが、金属のシリンダー上にメタル針が埋め込まれており、鍵盤のリードをはじいて、曲を奏でる。複雑な旋律と楽器の割り振りを表現しており、思わず目を見張ってしまった。それも無理はない。一本のシリンダーに付いている1万本を超えるメタル針は全部手作業で埋め込まれているのだ。メタル針を使った演奏だけでなく、歯車を動かして太鼓やシンバルをたたき、豊かな旋律を奏でる。まさに、「絢爛」と形容するのがぴったりだ。

「天よ!これがオルゴールなのか。これこそぜいたく品に違いない」。私は感動を禁じ得なかった。

ガイドが得意げに説明してくれた。「皆様がお聞きになったのは、このシリンダーに入っているうちの1曲でございます。このほかに続けて10曲以上お聞きになれますし、それでも足りなければ、シリンダーを別なのに換えることもできます」

私たちはこのオルゴールの前にじっとたたずみ、何度も何度も感嘆の声をあげた。その澄み切って、よく響く音色はふだん見かけるオルゴールのとはまるっきり違う。ミュージアムの売店でも高級なオルゴールを販売している。だが、1880年から続いているこの音色に匹敵するものは一つも見つからない。もしかしたら、オルゴールもバイオリンと同じように、数十年から百年たってから、やっと本当の音が出るようになり、優美な音のハーモニーを生み出すのかもしれない。それとも、これは商品と芸術品の違いなのだろうか。

二番目に案内してもらったのはドイツ製のディスク型オルゴールだ。とても大きく、巨大な置時計を思い浮かべた。シリンダーから音を出すのではなく、レコードのような金属製のディスクを使う。シリンダー製作はすべて手作業だったため、大量生産することができず、オルゴールの美しい音色を多くの人に聞かせることができなかった。ディスク型はそうした需要に応えて生まれたもので、金属製ディスクはプレス加工できるため、コストを低く抑えることができた。

こうしたオルゴールはバーなど人が集まる場所に設置され、コインを入れると音楽を奏でる。現代のCDプレーヤーの原型と言えるだろう。ただ、客観的に言って、ディスク型の音響効果はシリンダー型に比べると、少々劣ると言わざるを得ない。

この後、ハンドル式オルゴール、鳥のはく製を使った鳥声オルゴール、座ると音が鳴りだす「オルゴール椅子」などを見たが、どれもこれも興味をそそり、素晴らしかった。

しかし、オルゴール館の最大の目玉は実はここではなかった!

それは参観の最後に上演されたオートマタ(機械仕掛け人形)の演技だ。

半円形の劇場の舞台には3体のオートマタが座っている。スタッフが操作すると、最初の人形がはしごを登る。逆立ちができただけでなく、片手でやって見せた。次に登場したのはホットドッグ売りのおじいさん。一日、せっせと働いたのに全部売れ残ってしまった。公園のベンチに座ってやけ酒を飲んでいるうちに、居眠りを始めた。その時、街灯が消え、彼が車に置いた服が代わりに取っ手を動かし始めた。

最後に登場した人形は、机に向かって何か書いている作家。そのうち疲れて居眠りを始めると、ランプの明かりが少しずつ暗くなり消えてしまった。しばらくして、作家は夢から覚めると、手を動かし、新たにランプのネジをひねって灯をともし、また必死に書き続けた。

どの作品も幻想的で、特に、作家が新たにランプに灯をともす場面には誰しも驚かされた。

しかし、この作家人形も展示品の中で一番器用に造られた作品とは言えない。館内にはもう一人絵を描く画家人形がいらっしゃるのだ。彼は2枚の絵を描くことができ、1枚は子犬の絵でもう1枚は貴婦人の頭像だ。どちらも運筆はかなり複雑だ。これが現代のロボットなら、このくらいの仕事は大したことではないと思われるが、百年以上前に作られた機械人形だから、不思議なのだ。

 

 

人民中国インターネット版 2010年8月10日

 

 

 
 
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