劉江永:戦略的互惠関係を重視し 領土の争いを解決する

 

清華大学国際問題研究所教授 中日友好21世紀委員会中国側委員 劉江永

劉江永
清華大学国際問題研究所教授
中日友好21世紀委員会中国側委員
中日両国において、釣魚島列島(日本では尖閣諸島と称される)領土の主権を巡る争いはすでに久しいが、現在、それは両国関係に著しく影響を及ぼしている。今年9月7日、釣魚島列島の関連海域では、日本の海上保安庁の船と中国の漁船との衝突事件が発生した。日本は初めて国内法を強調し、それに従って中国の漁船と人員を拘留し、中日関係の劇的な悪化の導火線となった。中日友好に尽くしてきた人々は、事態に心を痛め、国際社会は広範囲にわたって注目している。

10月4日、温家宝総理は、菅直人首相と第8回アジアヨーロッパ首脳会議の開催期間に会談した。双方は、戦略的互恵関係を維持、前進し、両国の民間交流と政府間の意思疎通を強化し、ふさわしい時期に、中日のハイレベルの協議を開催することで一致した。これは、中日の漁船衝突事件発生から1月後の中日関係の改善の信号であり、両国の総理が小異を残して大同につき、両国関係の大局を維持する希望を表明している。このような事態の再度の発生をいかに防ぎ、両国関係の回復を継続、促進するかは、中日両国政府が直面する重要な課題である。

中国の「易経」は、人々にある理を伝えている。それは、誤りののち、わきまえなければならないことである。つまり、我意を通そうとするのは「吝」であり、禍を転じて福となそうとするならば、「悔」、すなわち振り返り、反省するという基礎のもとに改善、前進すべきであるということである。日本においては明治の時期、「易を知らぬ者は入閣させず」という言い方があった。中日関係が衝突事件により大波を蒙っているならば、振り返ることが必要でないわけがあろうか?日本側の船と人員の拘留に対し、中国政府が、本国領土の主権と公民の安全の維持、保護に責任をもつ政府として、船と人の釈放を要求したのは、当然のことである。けれど、日本国内の民衆の反応を見るにあたり、中国側は、関係する問題について、忍耐強く細かな説明をする必要がさらに必要とされ、敏感な問題について公共対日外交をさらに展開する必要があることを学んだ。けれど、事件を総体的にみると、日本側の一連の連続的、系統的な方針決定の誤りが、双方の釣魚島を巡る争いの絶え間ないレベルアップの主要な原因である。

第一に中日双方は、各自が釣魚島海域の主権の領有を強調しており、日本側が国内法に基づき、中国の漁船と人員を拘留したやり方そのものが、中国に対する危険を踏み越えた最初の挑発である。中国側の立場からみれば、釣魚島と付随する諸島は、中国の固有領土であり、日本がいわゆる国内法に基づいての処理を堅持するのは、日本の本諸島と海域に関する領有権と執行権の体現であり、絶対に受け入れられないものである。中日漁業協定によれば、両国の暫定措置水域における違反漁船の処理は、各自が本国の船舶を管理するものであり、相手方の船舶と人員の拘留はできず、また双方の船舶は、最低300メートル以上の距離を保つことになっている。今回、衝突事件が発生した区域には違いがあるが、中日の間には最低限の許容は必要である。

また、日本側からみれば、中国側の強烈な反応は予想外であり、少なくても日本側の形勢判断における誤りを反映している。中国側の厳正な交渉下、日本側は9月13日に中国漁船の14名の船員を釈放したが、船長については継続して拘留した。このなかには、選挙投票の影響の要因もある。事件発生後、政権をとって約1年の日本民主党は、党代表選挙に直面しており、それは日本側がこの件を善処するにあたっての難度を増し、争いを穏やかに収める機会を失わせた。同時に、菅直人と小沢一郎は代表候補として、事件発生後の選挙戦において、この問題に触れるのを避けたのは中国重視の表明であった。

また第三に、菅直人首相は、9月14日に選挙での勝利を収めたあと、本来ならば9月17日の新内閣の組閣後、船長の釈放を宣言しこの波をおさめ、新内閣の抱える問題を解決して軽やかに出発できたはずである。けれど、9月15日、アメリカのアーミテージ・前国務副長官は来日時、日本の中国に対する強硬な態度をさらにそそのかした。その結果、菅直人首相は新内閣の組閣後、9月19日に船長の10日間の拘留延長を宣言した。これにより中国側の一連の報復措置をとることになった。9月21日、温家宝総理は、ニューヨークにおいて菅直人首相との会談を拒否し、中国の華僑代表に対し、この件における厳しい談話を発表した。

第四に、9月24日、中国人船長の突然の釈放は、中日関係がさらに悪化することを防止する効果はあったが、日本側は日本の国内法に基づく処理を堅持し、「保留処分」とした。その結果、中国側の反対を引き起こしただけでなく、中国の外交部は日本側に詫びと賠償を要求し、日本の大部分の国民までが、法律に従って処理した、という政府の弁明を信じないという事態となった。

日本の「毎日新聞」のアンケート調査によれば、菅直人内閣の支持率は、9月初旬の64%から10月初旬には49%となっている。その主な原因は、政府の本件に関する処理の批判である。87%の被調査者は、日本政府の船長釈放に関しての「地方検察の判断」とする説明を「納得できない」と答え、「政府が政治判断を示すべきだった」との回答も80%にのぼった。

実際のところ、今回の日本側の漁船と人員の拘留と釈放は、最終的には、内閣が対外関係について責任をもって処理にあたる政治判断であり、いわゆる国内法に従っての処理も政治判断ののち計画された一連の措置である。今回の結果は、この措置が関係する問題の処理にあたっての法律的先例になり得なかっただけでなく、両国関係を悪化させ、事実上、否定されたものとなっている。最終的に、那覇地検は、日中関係の悪化という政治判断の懸念から出発し、中国人船長を釈放している。菅直人内閣は、同じ政治的判断から、那覇地検の決定は正確であるとし、中国人船長の釈放に同意している。ゆえに、中国人船長の釈放は完全に日本政府の総合的な政治判断の結果といえる。

菅直人内閣は、「司法の政治介入」という批判を憂慮する必要はない。日本の行政関与は「政治関与」と理解されるにせよ、実際のところは政治学の基本原理からすると、日本の政治は立法、行政、司法の3つの組織部分からなり、政治と行政は二つの異なる概念である。日本の政治統治は、立法、行政、司法の三権分立を実行しており、行政は司法に関与できないが、それは司法と行政が同じ政治判断をし、同じ政治決断をするのを妨げるものではない。中国人船長の釈放問題において、客観的にみれば菅直人政府は行政の司法関与をしたわけではけっしてなく、それは那覇地検と中央政府が同じ政治判断をした結果である。これに対しいかなる評価をおこなうかは、おもに政治判断の結果と効果をみるべきであり、政府が政治判断をしたかどうか自体ではない。

日本のかつての首相、大平正芳氏は「巧偽は、拙誠に如かず」と強調している。日本の一部の人々は、国際社会において、日本の尖閣諸島問題における立場を宣伝すべきであると主張するが、結果は、まさにその反対になっており、中日の間には領土の問題は存在しない、という言い方はでたらめであるということを証明している。事実は、中日の間には領土問題は存在しない、という言説を堅持し、日本の釣魚島列島における執行実行の先例を計画するだけでは、路は開けないことを過去においても今後においても証明している。日本の一部の人々は、釣魚島において軍事部署における日本とアメリカの合同軍事訓練を主張するが、それは領土の争いを軍事的対抗に転化するだけであり、中日の戦略的互恵関係を事実上ないものにしてしまう。中日両国は、戦略的互恵関係という大局の維持に共に努力し、双方の領土という敏感な問題について善処してこそ、理知的で正確な判断であるといえる。

 

人民中国インターネット版 2010年10月9日

 

 
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