垂直から水平に転換しつつある日中環境・低炭素協力

 私は1998年に北京で語学留学を開始し、それ以降ずっと日中環境・低炭素協力をウォッチしてきた。中国の環境・低炭素の政策や市場は大きく変化しており、それに伴って日中協力の姿も変貌してきたといえる。

1.日中環境・低炭素協力の転換内容

第一に協力の性質の転換である。2005年以前は、無償資金援助や円借款などODA(政府開発援助)による政府系の環境保全プロジェクトが多かった。特に日中友好環境保全センター、日中環境協力モデル都市、環境モニタリングネットワーク整備、ODAではないが日中緑化交流基金が非常に影響の大きい特筆すべき事業であった。また日本の環境NGOによる植林や環境教育などの協力事業が活発であった。しかし2008年に対中円借款の新規事業を廃止することが決定したことを境に、対中円借款プロジェクトが減少した。無償資金援助と技術協力による対中環境保全プロジェクトは続いているが、金額やインパクトの大きい円借款が廃止されたことにより、協力の枠組みが徐々に転換されてきた。

それに代わり、2000年以降は中国の環境対策をビジネスチャンスとみなして中国環境市場に参入する日本企業が徐々に増えてきた。たとえば京都議定書に定められた温室効果ガス排出権取引事業であるCDM(クリーン開発メカニズム)分野では、2004年頃から日本の商社や電力会社が中国の風力発電やHFC(ハイドロフルオロカーボン)破壊など新エネ・省エネ事業に投資することが増えてきた。また2006年の第1回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(日本の経済産業省と中国国家発展改革委員会の共同主催)の開催以降、同フォーラムは毎年行われているが、ここで日中環境・低炭素協力に関するMOU(了解覚書)を結ぶ民間事業は毎年増えている。特に汚水処理、浄水、ゴミ処理、省エネ型設備、光触媒、環境モニタリング・測定・分析などでは日本企業に一定の強みがある。

 以上をまとめると、2005年以前はODAなど政府系対中環境プロジェクトやNGOなど民間団体による対中環境・生態系プロジェクトが多く、いわば「垂直型」援助が主流であったが、2006年以降は温室効果ガス排出権取引や環境ビジネスなどWin-Winの互恵「水平型」協力が主流になりつつある。

 第二に協力内容の推移である。汚染対策は一貫して中国の大きな課題であり、長らく日中環境協力の大きなテーマであり、協力事例も多く、今後も重要な分野であり続けるであろう。その一方で、砂漠化対策や植林植草、林業などは、1990年~2005年には中国で深刻なテーマであり、協力事例も多かったが、1997年以降の国家六大林業プロジェクトなどにより大規模植林が進み、森林面積率は20%を超えたため、最重要な環境保全のテーマからは外れることとなった。逆に第11次五ヵ年計画でエネルギー消費原単位が強制目標となったことや、CO2排出量が急増して国際社会からの圧力が強まったことなどから、省エネや再生可能エネルギーのニーズが高まった。日本の再生可能エネルギー技術は、価格性能比や普及可能性まで含めれば必ずしも高くはないため、協力事例は多くはない。しかし省エネ技術や温室効果ガス対策は石油ショックから立ち直って以降、日本のお家芸となっており、日中環境協力の重点である。また2009年以降、世界的な流れを受けて中国は電気自動車、蓄電、スマートグリッド、スマートコミュニティの分野にも力を入れようとしているが、この一部の基幹技術については日本が強みを持っているため、今後の協力の重点になっていくであろう。

2.日中環境・低炭素協力の今後の趨勢

第一に技術協力など政府系対中環境プロジェクトは今後も続いていき新しい事業も立ち上がっていくであろう。環境政策の整備により、汚水処理やゴミ処理、風力発電など商業ベースに乗った低炭素・環境事業とは異なり、農村汚染対策や汚染被害者救済策、環境教育などは商業ベースに乗らず、今後も引き続き海外からの援助が必要である。

第二にNGOなど民間団体による対中環境援助プロジェクトの条件は厳しくなってきている。植林や環境教育は中国が自前で解決できるようになってきていること、WWF(世界自然保護基金)、グリーンピース・チャイナ、米国エンバイロメンタル・ディフェンスなど欧米の環境NGOは、豊富な資金力を活かして国家林業局や環境保護省などと提携して植林・自然保護・汚染対策・食品安全性・電機製品の有害物質規制・環境教育など幅広い事業を行っていることなどから、日中緑化交流基金や民間の財団による助成もあるものの、規模も資金力も小さい日本の環境NGOが必要とされる分野が減ってきている。

第三に商業ベースの環境協力事業は、日本側の強みと中国側のニーズが合う分野では今後も大きく発展していくものと思われる。特に汚水処理、工業廃水処理、浄水、ゴミ焼却、環境モニタリング・測定、スマートグリッド、省エネ設備、蓄電の分野では、今後も有望であろう。

大野木昇司

日中環境協力支援センター有限会社 取締役社長

URL:www.jcesc.com

72年生。95年、京都大学工学部衛生工学科卒業。98年、京都大学大学院エネルギー科学研究科修士課程修了、同年中国留学開始。02年、北京大学環境学院修士課程修了。天津日中大学院専任講師、国土環境㈱北京事務所技術渉外主任、(社)海外環境協力センター客員研究員を歴任した後、05年に日中環境協力支援センター㈲を設立し、取締役社長に就任。08年からは桜美林大学・北東アジア総合研究所の客員研究員や科学技術振興機構・中国総合研究センターの社会科学系ステアリングコミッティ委員、国立奈良先端技術大学院大学産学連携アドバイザーを兼任。その他、立命館サステナビリティ学研究センター客員研究員、中国環境産業協会循環経済委員会の諮問委員、中国エネルギー研究会『中外能源』雑誌編集委員なども兼任。主な専門業務は、日中環境ビジネスコンサルティング、中国進出企業の環境コンプライアンス・環境経営コンサルティング。

 

 

人民中国インターネット版 2010年11月

 

 
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