紫砂とは

文・写真=于文

紫砂とは、主に江蘇省宜興(ぎこう)市の丁蜀(ていしょく)鎮一帯で産出される陶器用の土です。採掘された陶器の原料状態のものを紫砂泥(しさでい)と呼びますが、これには基本的に紫泥、緑泥、紅泥の3種類があり、一般に「富貴土」と呼ばれています。ほかにも、白泥、烏泥、黄泥などがあり、宜興で産出されるため、古くから「宜興紫砂」と呼ばれてきました。

伝説によると、遠い昔、宜興の街角でひとりの僧が「富貴土、富貴土じゃ、富貴土を買わんかな? 買えばみな、地位も名誉も手に入り、富貴人になれるんじゃがな」と叫んだことから、この土が人々に知られるようになったと言われています。

紫砂は材質が独特なので、紫砂の茶壷(ちゃこ/日本の急須に相当)でお茶をいれると、本来の味が失われることなく、色や香り、味がよく出るとされます。詳しく説明すると、紫砂の茶壷には以下のような優れた点があります。

(1)紫砂の茶壷でいれたお茶は香りが濃く、長く香り続けます。紫砂の茶壷独特のきめの粗さが、香りがすぐに失われるのを防いでいるのです。長く使い込まれた紫砂の茶壷は、内側の表面に茶渋が層を作り、使い込むほど濃く純粋なお茶の香りが楽しめるようになります。長く使い込んだ茶壷は、お湯を入れただけでいい香りが立ちます。これは、ほかの茶具では見られないものです。

(2)紫砂の茶壷は通気性がよく、一方で水は通しません。これはほかの茶壷にはない特性です。また、殺菌作用を持ち、お茶の劣化を遅らせる効果があるので、「暑い盛りに一晩置いても悪くなることがない」と言われます。

(3)紫砂の茶壷は保温効果が高く、お茶が冷めにくい特性があります。茶壷にはごく小さな気泡が無数にあり、そこにある熱伝導性の低い空気によって温度が保たれ、長く熱々のお茶が楽しめるのです。

(4)紫砂の茶壷は簡単に熱で割れることがありません。温度の急激な変化に対して極めて強く、摂氏百度を超す蒸気に当てた直後に氷水の中に入れても、ひび割れたりすることはほとんどないと言われます。この特性のため、冬のもっとも寒い時期に熱湯でお茶をいれても、割れる心配をしなくて済むのです。

紫砂の茶壷の原料は水分やアルミノけい酸塩、鉱物を含む粘土で、実はこうした粘土は中国各地で見られます。つまり、紫砂が宜興だけで産出するものというのは科学的な言い方ではないのです。ただ、各地の粘土成分は同じではなく、微妙な差が焼成した陶器に大きな差を生み出します。宜興紫砂によく似た粘土でも、多くの土地のものは陶器には適さないほどです。つまり、宜興紫砂が有名なのは、ここだけで産出するからではなく、丁蜀鎮黄龍山の紫砂泥で作った陶器は、外観であろうと特性であろうと、ほかの地区の紫砂泥より優れているからなのです。

現在では、黄龍山の紫砂泥の採掘は行われていません。宜興市政府が埋蔵量を調査し計画を制定するまで、過度な採掘で資源が枯渇しないよう停止しているのです。というわけで、現在市場に流通している黄龍山の紫砂泥は、すべて陶芸職人が採掘停止前から貯蔵していたもので、これが宜興紫砂の茶壺が高価な理由の1つになっています。

 

 

 

 
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