パンダ6頭を野生に戻す 過去最大の取り組みがスタート

段非平=文 楊振生=写真

1月11日、成都パンダ繁殖育成研究基地の6頭のパンダが、野生に戻るトレーニングを受けるため都江堰繁殖育成野放研究センターに移された。同センターは「パンダ・バレー」とも呼ばれ、パンダたちはここで、居心地よい飼育舎を離れ、自然界に帰る長い歩みに入る。成都パンダ繁殖育成研究基地では、そのほかの108頭のパンダたちも将来的には野生に戻す予定で、パンダの「自然復帰」の時代が始まっている。

六兄妹の「新居」

野生に戻すセレモニーの当日は、細かい雨が降り気温は零度に近かったが、集まった人々は熱気にあふれ、6頭の「帰宅」第一歩を見たいと誰もが待ち望んでいた。

パンダの「入居」セレモニー会場

6頭の「帰宅」に付き添ったのは、国家林業局、四川省、パンダセンターの関係する指導者のほか、野生動物の保護に尽力する元NBAのスタープレーヤー、姚明だ。彼が責任を負う「功仔」は、ハリウッドのアニメ『カンフー・パンダ』の作画モデルになった一頭で、アニメの主人公「ポー」のように、まさにこれから「山に入り武功を磨く」ことになる。

ケージがゆっくり開き、パンダたちは無邪気な可愛い様子で「新居」に入った。外向的な性格の「功仔」は、見るからに興奮し、草地の上を走り回り、10㍍を超える木によじ登り、あたりを見回し、自分の「勢力範囲」を見定めた。現場に集まった数十もの内外メディアのレンズにも少しも怯えず、木の叉に座り、頭をひねっては遠くの山々を眺めていた。

今回、野生に戻される6頭は星蓉、星雅、功仔、迎迎、芝芝、琪琪で、オス2頭、メス4頭だ。人間でいうと児童期にあたり、性格は比較的大胆で、比較的強い生存適応能力を備えている。6頭は成都パンダ繁殖育成研究基地で1年近くの観察・選別を経て、最終的に108頭のなかから選抜された「野生に戻る先発隊」だ。

セレモニーに参加したゲストたちが棒を押すと、都江堰繁殖育成野放研究センターの赤いカーテンが落とされ、秘められていたセンターの全貌が公開された

六兄妹が「入居」した「パンダ・バレー」は、都江堰市玉堂鎮馬家溝に位置し、パンダ生息地の範囲内にあり、都江堰市と成都パンダ繁殖育成研究基地が3億元を共同出資して建設している。用地は、2004ムー(1ムーは666.7平方㍍)、そのうち林が1870ムー。今回、6頭が過ごすのは、半野生状態の自然復帰実験地区で、真に野生に戻るための過渡期を過ごし、各種の野生化トレーニングを受け、野外における適応能力を向上させ、大自然に帰る日に備える。

系統的な訓練と入念な準備

パンダを野生に戻す試みは、これが初めてではない。1980年代から中国では何度も試みられていたが、結果は好ましいものではなかった。2006年に放された「祥祥」は、野生のパンダとエサを争ううちに転落死し、さらに多くの放されたパンダは、もとの巣に戻ってきてしまった。今回、6頭の野生に戻すトレーニングは、成功するだろうか?

この問いに対し、成都パンダ繁殖育成研究基地副主任・費立松氏は、「これまで数回の不成功は、主にわれわれの前期の準備が完全でなかったことにあり、自然に放されるパンダは準備をしていませんでした。人工的に育てられたパンダは、生存能力が非常に低く、野外生活には適応できません。今回、われわれはパンダが完全に自然に適応できるのが確認できるまで、総合的なトレーニングを行います。これは非常に複雑で長い過程ですが、われわれは、一つひとつのプロセスをしっかりとこなし、可能な限り準備し、意外な事故の発生率をもっとも低いものにします」

新居に入り、慣れていくパンダたち

パンダを野生に戻すトレーニングは、時間のかかるプロセスで、人工的に飼育されたパンダの野外での独立生存能力を少しずつ高めていく。「パンダ・バレー」には、過渡実験区、半野生化区、野生化区など多くの区域があり、各区のトレーニングの程度は違い、パンダたちは一つの区を完全に卒業してから次の区のトレーニングに入る。

6兄妹たちは現在、過渡トレーニングの段階にあり、野生に戻すトレーニング全体の初期段階だ。彼らの「新居」には、まだ人工の飼育舎があるが、彼らは山の斜面に小さな新居、つまり野生のパンダの巣穴を見つけることになるだろう。スタッフが木をくりぬいて作った洞は6頭の巣穴を利用する能力を鍛える。採食方面では、飼育員が竹をパンダの口元に持っていくことはなく、地面に立て、野性の竹の成長状態に近づけ、パンダは自分の口で噛んでエサを集めることになる。一部のスタッフはまたわざと危険な動作をしてパンダを脅かし、パンダの緊急事態への反応力を高める。近い将来には、同センターには多くの野生動物が放され、パンダはそれが友人か敵かを学ぶ。

実験区でのトレーニングが成功したのち、一定の程度の野外生存能力を持ったパンダは、さらに広い範囲の模擬野外生活境域内に入り、鉄筋コンクリートの飼育舎に別れを告げ、木の洞または岩穴にすみ、自分の力でエサを採る。パンダたちは長時間にわたるトレーニングののち、自然での生活能力を完全に備えたと評価されたのち、野生に戻される。その後、センターでは、パンダに対し、随時、観測を行い、装着されたGPSとパンダの糞の採取、人工巣穴の利用状況を通し、放された固体の活動状況を調べる。

自然復帰はよりよい保護

中国のパンダ飼育の歴史は、1953年にさかのぼる。当時、現在の「パンダ・バレー」にあたる場所で、一頭の傷つき病んだ野生のパンダが発見され、救助されて成都動物園に送られた。

取材に応える「パンダ大使」の姚明

50年余り、研究者の絶え間ない努力により、中国のパンダ飼育のレベルは大幅に向上し、全国の人工飼育頭数は、300頭を超えている。成都パンダ繁殖育成研究基地には現在、108頭が暮し、全世界最大の人工繁殖パンダ群である。

人工飼育は成功を納めたとは言え、それは、絶滅の危機にある野生動物保護の重要なルートの一つであり、救助の最終目的はパンダ全体の保護、彼らを自然の故郷に帰し、自分たちの生活方式に応じての生息させることであると研究スタッフは認識している。また、人工飼育の個体を適当に野生に戻すことは、野性パンダの種の生存状況を改善する。種の数量を増やすだけでなく、遺伝的組み合わせを改善し、多様性を高め、近親繁殖を減らし、自然界における種の長期的進化、発展の潜在力を高める。

約50年が過ぎた今日、六頭の野生に戻す過渡研究個体は、先祖たちがやってきた都江堰市玉堂鎮馬家溝に戻り、世界最大規模の自然復帰の道を歩む。スタッフたちの指導のもと、6兄妹が果敢に挑戦し、新生活を順調にスタートさせることを私たちは信じている。

 

 

人民中国インターネット版 2012年1月11日

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