翻訳の楽しさを経験

 

泉 京鹿=文

私が初めて北京の地を踏んだのは、1991年のことでした。どこもかしこも見晴らしがよく、青い空がとても高く感じられました。いわゆる胡同は、灰色なのに緑豊かで、生活の音やにおいがあふれていました。

私にとって『人民中国』の翻訳作業は、まさに「目からうろこ」の日々でした。政治、経済、文化、風土、少数民族など多岐にわたる内容の興味深さはもちろん、誌面になるまでの翻訳工程の中で多くのものを学びました。自分が翻訳者として足りなかったものを、ここで教えられた気がしました。何より、共同作業としての翻訳の楽しさというものを経験することができました。

『人民中国』での4年間で教えられたのは、それだけではありません。『人民中国』で働いて4年目のときに、私は東京在住の会社員と結婚しました。その後妊娠したとき、一緒に働いている人々に、温かく、優しく労わられ、無事に過ごすことができました。

1921年に北京を訪れた芥川龍之介が「誰だ、この森林を都会だなどと言ふのは?」という言葉をもらしました。『人民中国』のある西城区百万荘付近には、その面影の残る小さな通りが残っていました。そこを歩いているだけで、自分が北京にいること、長い間北京を離れられなかった理由を、かみしめるように実感できました。

その後、帰国して出産してからも何度か北京には足を運んでいます。毎回、できるだけ『人民中国』に足を運ぶようにしています。もちろん、そこにかつて一緒に仕事をした仲間がいてくれるからであり、変わらぬ風景があるからでもありますが、そこに行くことで、自分の北京への思いを確かめたいからかもしれません。

 

人民中国インターネット版

 

 

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