黄金にも匹敵する価値の土

 

宜興にはある言い伝えが残されている。はるか昔、ひとりの僧侶が丁蜀鎮にやって来て、通りで「富貴の土だよ! 富貴の土を買わんかね!」と大きな売り声を上げた。町の人たちは「土に富貴なものなんてあるのか?」といぶかった。村の長老が僧侶の後をついて行ってみたところ、ちょうど丁蜀鎮の西にある黄龍山に着いた時に僧侶はふっと姿を消してしまった。驚いた長老がそのあたりをあちこち探し回っていたところ、突然目の前に洞穴が現れ、そこにさまざまな色をした陶土を見つけた。少量を家に持ち帰って焼いてみると、果たしてこれまでとはまったく違った色の陶器が出来上がったという。

この陶土こそ紫砂陶器の唯一の原料、紫砂だった。これは宜興市丁蜀鎮の黄龍山、青龍山、趙荘一帯で産する、世界でも唯一の特殊な陶土だ。紫砂は紫色が主だが、ほかに赤と黄色、合わせて三色のものがあり、配合によって色彩は千変万化するため「五色土」と呼ばれる。砂のように通気性があり、同時に手工陶器に求められる良好な可塑性を備えており、陶器職人はこの陶土を用いてさまざまな紫砂芸術品を作り出すことができる。

まさに、言い伝えの中の僧侶が言ったように、紫砂陶土は文字通り「富貴な土」だったのだ。自然の優れた陶土であるばかりでなく、その希少性と応用価値によって非常に高く取引されるようになった。

紫砂は深さ数十メートルから、時に数百メートルもの地下で産出することもあり、掘り出された時には、石のような状態の「甲泥」の間にある。良い紫砂は数十キロから百数十キロの「甲泥」の中からわずか500グラムから1キロ程度しか取れない。昔の人は「岩の中の岩」「土の中の土」と呼んだ。紫砂は宜興でしか取れない上に産出量が極めて少ないため、かつて外国人が人工的に合成する研究をしたことがあるが、合成品は外見こそ似ているものの、本物の紫砂とは本質的な違いがあった。

紫砂の大きな特徴は空気をよく通すということだ。紫砂で作られた茶壷(日本の急須に相当する)で茶を入れると、茶葉がもともと持っているすがすがしい香りが保たれるだけでなく、夏でも簡単に腐敗することがない。ある職人が夏に住宅建築現場に紫砂の茶壷を置き忘れ、数日後に来てみると、茶壷内の茶葉はカビたりしていないどころか、依然として良い香りを放っていたという。

 

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