「終の住処」で感じる人生の多様さほろ苦さ

  

高原=文  馮進=写真

 康福星老年公寓は北京市通州区温楡河の北岸にあり、地元ではちょっと名の知られた民営老人ホームである。この老人ホームは敷地面積20ムー(約1万3300平方㍍)で、建築総面積は1万3000平方㍍、現在100人余りのお年寄りが入居し、入居者の平均年齢は80歳以上である。この施設には3階建ての小さな建物が7、8棟建ち並び、庭が1つある。床にはすべり止めをほどこした木板が敷き詰められ、両側にはどこも手すりが付けられており、お年寄りたちの部屋が廊下の両側にずらりと並び、入り口には色も鮮やかなカーテンがかかっていて、静かで温かな雰囲気を持つ。 

 

公立の老人ホームはどこも満員で、子どもたちに厄介をかけたくないと思うお年寄りが多いため、民営の老人ホームはお年寄りたちが晩年を静かに送るための新たな選択肢となっている。現在、民営の老人ホームは一般的に資金難、公的扶助の欠如という状況に置かれており、経営者は投資者を探したり、自分でケア方法を学んでお年寄りの面倒を見たりすることに多くの労力を費やさざるを得ない。董蘭瓊さんもその一人である。

 

老人ホーム事業に身を投じる 

 

康福星老年公寓の設立者である董蘭瓊さんは、1950年代生まれで、内蒙古で育ち、18歳の時に工場に入った。90年代に工場にリストラされた後、ウール製品や衣料品を売る商売を始め、苦労をいとわぬ精神で少なからずのお金を貯めた。同世代の多くの人と同様に、董さんは一人の子どもしかおらず、そのため、自分が年をとった時、どうやったら子どもに面倒をかけずに済むか、いつも考えていた。ある時、誰も面倒を見てくれる人がいないお年寄りが家の中で孤独死し、親しい人が苦い思いを抱いたといったような話をテレビで見た。これは彼女を大きく揺り動かした。こうした老人たちのために、そして老けてゆく自分のために、何かしたいと思った。 

 

そんな時、ちょうど山東省済寧市衛生局局長と知り合いになった。局長は彼女に「あなたは老人ホームを創設したらいい。中国はすでに高齢化社会に突入しているから、シルバー産業は将来性があるよ」とアドバイスした。この言葉は、彼女のもやのかかった考えに希望の灯りを点した。その時から、地方に出張に行くたびにその地の老人ホームを見学するようになった。 

 

2008年、彼女が資金を集めて設立した康福星老年公寓がとうとう完成した。彼女は経営請負権を手にしたが、同時に理事会は、今後いかなる資金投入もしないし、彼女に300万元(1元は約17円)の利潤を要求する、さもなくば彼女の持ち株をその補償にあてると言った。このような困難な状況にあっても、彼女はあきらめることなく、「入居者がある限り、少しずつでも発展させてゆきます」と言った。この時から彼女は一人でこの老人ホームを支え、人手が不足すると自分の息子やめいに手伝いを頼んだ。春節(旧正月)期間中はいつもヘルパーさんが足りなくなるため、彼女自身でお年寄りの面倒を見た。彼女の携帯電話は24時間連絡可能で、いつでも電話が受けられる状態にしてある。康福星の100人余りの入居者は、彼女の心配の種となっている。

 

100人のお年寄りに100の物語 

 

康福星の入居者について言えば、董さんには語り尽くせないほどのエピソードがある。彼女はいつも、「ここには100人のお年寄りがいて、100の物語があります」と言っている。

 

 例えば、1356号室に住む老夫婦は、北京市内に持ち家があり、年金収入も悪くないが、どちらも80を過ぎているため、買い物やご飯づくりに困難をきたし始めた。息子はオーストラリアにいるため、いっそのことと老人ホームに越して来て、家にはたまに物を取りに帰るくらいである。彼らは家から持ってきたパソコンでインターネット電話をかけ、シドニーにいる息子と話す。時にはしゃべらずにカメラの前であれやこれやと用事をすませる息子の姿を、彼らはパソコンの前で静かに眺めている。

 

 大学の先生をしていた石さんは、部屋をきれいに整頓し、人を丁寧にもてなし、とても能弁で、アルツハイマーを患っているなんてとても思えない。少し前には、マレーシア航空機失踪のニュースに彼女は心配で寝られず、「息子はカナダに飛行機で行ったんだけど、事故にはあってないわよね」と言った。真夜中に息子に電話をかけ、息子が無事だということを確認して安心して受話器を置いたものの、数分後にはそれを忘れ、また心配し始めた。董さんは仕方なく、彼女の息子は北京にいるから、2、3日すればお見舞いに来てくれるだろうとウソをつき続けた。 

 

彼らの生活を充実させるために、董さんは庭に野菜や花を植えさせている。入居者は家族にさまざまな野菜の種を持ってこさせ、種をまいた後は、毎日ミネラルウォーターのボトルを持って水やりに行き、実がなるのを楽しみにして、毎日部屋からそれを眺めていた。94歳のおじいちゃんは、誰かがそこを通りかかり、数分立ち止まっていると、部屋から大きな声で「私の野菜に触るなよ」と叫び、まるで子どものようだった。 

 

また、一緒に象棋(中国将棋)を指している入居者がいる。指し始めてから相当の時間が経っているのにコマの位置がほとんど変わっておらず、董さんがなぜコマを進めないのかと聞くと、その中の一人が不機嫌そうに「彼は私のコマを取るんだ」と言い放った。この2人はどちらも相手にコマをとられるのがいやで、ずっと待ったをかけていたのだ。董さんは「コマをとられるのが嫌で、どうやって勝負をつけるの?」と泣くに泣けず笑うに笑えず、2人に尋ねた。 

 

さらに董さんに深い印象を残した入居者がいる。急病で入院したものの、面倒を見てくれる子どもが身近にいなかった。彼は董さんを引き止め、帰らせようとしなかったので、彼女は彼のベッドの前に一日いる羽目となった。夜になって疲れたと言ったら、彼は自分の足の上に横になって休めと言う。仕方なく言われたとおりにしばらく横になったら、彼はとても嬉しそうだったという。

 

病院では、董さんは自ら数人の入居者の最期を看取った。子どもがいない入居者もいたし、子どもがいても面倒をみようとしない人もいた。お年寄りの最期は寂しいが、一方で生まれたばかりの赤ちゃんが大勢の人に見守られ個室に送られてくるのを見て、彼女は感無量だった。彼女はお年寄りたちが臨終前に言いたいことも分かるが、子どもたちの悩みも分かる。お年寄りたちがより良い暮らしを送り、尊厳を持つのを老人ホームが助けるためには、社会や政府の助けも必要で、スタッフもさらなる努力をして、お年寄りが人生最後の時をより良く過ごすのを助けなくてはならない。

 
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