正念場迎える慰安婦問題

 

近年、日本軍が慰安婦を強制的に集めたことを否定する声が最も大きいのは東京だ。だが同じ東京には、特に慰安婦のために建てられた「女たちの戦争と平和資料館」(WAM)がある。ここは第2次世界大戦当時の日本軍による女性への性暴力の証拠を収集・展示している日本初の記念館だ。開館から9年、WAMは日本の右翼の圧力と日本メディアの軽視の下、苦しみながら活動を続けてきた。

慰安婦の二つの法廷

WAMの成立は、元慰安婦女性による日本政府提訴を支持した民間団体と日本の最高裁の戦いに源流がある。

1990年代以降、中国や韓国などの元慰安婦らが損害賠償などを求めた10件余りの訴訟について、日本の最高裁は例外なく訴えを退けてきた。海南島の原告による訴訟では、日本の最高裁は2010年3月2日、慰安婦8人が日本軍に拉致されて性暴力を受けた事実を認定したが、賠償請求は棄却した。

「女たちの戦争と平和資料館」の前室の壁には慰安婦のポートレートが掲げられる

しかし東京では、かつてもう一つの「法廷」が慰安婦のために正義を成し遂げたことがある。国際的な平和人士が組織した「女性国際戦犯法廷」だ。東京・西早稲田のWAMはこの時の写真や映像を保存している。2000年、中国籍の慰安婦・万愛花さんら8カ国64人の被害者が「出廷」し、日本軍による性暴力を受けた悲惨な境遇を訴えた。「法廷」は最終的に昭和天皇と板垣征四郎、梅津美治郎らに有罪判決を下し、被害女性に謝罪・賠償するよう日本政府に促した。

WAMの池田恵理子館長によると、この「民間法廷」を組織した故・松井やよりさんはWAMの考案者でもある。松井さんは元朝日新聞社会部記者で、WAMは彼女の遺志を受け継いで設立された。松井さんは生前、日本は慰安婦に関する記念館を設立し、この歴史を記録しておくべきだと考えていた。そのため彼女は人生最後の2カ月間、末期がんによる痛みと衰弱に耐えながらWAM設立のため懸命に働き、自分の全財産をWAMに寄付するという遺言を残した。

国民に知らせたくない歴史

WAMの面積は計100平方㍍余り。前室の壁には慰安婦のポートレートが掲げられ、名前と国籍も書かれている。

「こちらの方は日本軍の慰安婦への迫害と暴行をアジアで初めて暴きました」。池田館長は壁の写真を指さしながら一人一人について説明する。155枚の写真が表している155人は、踏みにじられた数千数万の慰安婦の一部に過ぎない。池田館長は「日本軍はアジアの多くの国々で民家を徴用し、現地女性を慰安婦にした。これは事実上の強姦、つまり犯罪だ」と指摘する。

日本政府は国民にこうした犯罪行為を知らせようと思っていないが、WAMの展示では元慰安婦たちが勇気を持って証言した文章や映像資料を見ることができる。東南アジアの非識字者の女性は刺繍で「絵物語」を作り、被害を受けた経緯を描いた。

池田館長によると、当時の多くの日本軍兵士は慰安婦について、自ら志願して慰安所に行ったのだとでたらめを言っていた。「東南アジアなどで慰安婦は皆、兵士たちに連れ去られてきた。これは戦争犯罪なのだから、戦後は誰もが秘密を厳守していた」

WAMは開館後、絶えず右翼団体の妨害に遭い、最も多い時には40人の右翼が来た。彼らはここを「売春婦資料館」だと侮辱し、池田館長を「売国奴」「反日女」と口汚くののしった。しかし60歳を超えた池田館長は動じず、強い意志でWAMの正常な運営を続けてきた。

日本メディアは重視せず

 WAMは開館から9年経過した。年間の見学者数は平均でわずか3000人で、東京都民の多くはWAMの存在を知らない。日本メディアが取材に来たこともあったが、報道した社はないという。

 慰安婦はなぜ日本メディアにとって敏感な話題になったのか? 長くメディアに勤めていた池田館長の考えでは、原因は日本政府が日本を「美しい国家」として描き出そうとしていることにあり、日本軍が慰安婦を無理やり集めた歴史は「美しい国家」とは相いれないからだという。このテーマが面倒を引き起こすことをメディアはよく理解しており、いっそ避けるようになり、慰安婦問題は次第に「タブー」になっていった。池田館長はNHKで働いていたころ、慰安婦関連の番組を8本制作した。「でも現在はこうしたテーマでは絶対に作れない。NHK経営委員会の委員12人のうち4人は安倍陣営の人物だ」。NHKが「女性国際戦犯法廷」の判決を報道した時、一部の右翼議員の妨害を受け、「天皇の有罪」と万愛花さんらの証言を削除した。

 「今、慰安婦問題は正念場を迎えている」と池田館長は話す。「メディア組織が慰安婦問題を重視しておらず、まるで問題が存在していないかのようだ。国民が慰安婦問題の真相を知るのはとても難しい」

子どもたちに歴史教育を

WAMは2007年、第1次内閣時代の安倍晋三首相に入館チケット2枚を贈り、慰安婦問題の真相を理解するよう求めたことがある。

池田館長によると、安倍首相は慰安婦問題を理解する必要があるが、真相を知るべきなのは首相に限らないという。現在、WAMは「中学生のための『慰安婦』展」を開いている。

 池田恵理子館長

日本の歴史教科書がひたすら避けているため、中学生の多くは慰安婦のことを知らないのだと池田館長は率直に話す。

WAMでは、日本の中学校の歴史教科書から慰安婦の記述がどのように消えていったかを特に展示している。1997年、出版社7社の歴史教科書には全て慰安婦の記述があった。例えば帝国書院の教科書には「戦争中に男性は兵士に、女性は慰安婦に徴用された」との記述がある。2002年、慰安婦に触れたのは3社の教科書だけだった。2006年には2社だけになり、「軍の要求に基づき、朝鮮などアジアの国々の女性が軍に送られた」(日本書籍新社の歴史教科書)とあいまいに書かれた。2012年、「慰安婦」という言葉は日本の中学校の歴史教科書から完全に消えた。

この世代の子どもが成長したら歴史をあまりにも知らず、隣国関係をどう処理するかについての認識でより大きな間違いが起きるのではないかと池田館長は心配する。「だから私たちはもっと努力し、1人でも多くの子どもたちに真相を知らせなければいけない。これは私たちの世代の責任です」(新華報業伝媒集団提供 人民中国共同企画)

 

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